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BOPビジネスの可能性

アジアの出来事

アジア

主任研究員 佐藤 寛
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この記事は2010年7月9日にデイリープラネット(CS放送)「プラネットVIEW」でオンエアされた『BOPビジネスの可能性』(佐藤寛研究員出演)の内容です。
所得階層ピラミッド
BOPとは、「Base Of the Pyramid」の頭文字をとったもので、世界の人口ピラミッドの基礎部分に位置する所得階層の人々のことです。そしてBOPビジネスとは、こうした途上国における低所得者層を対象としたビジネスを意味します。一般的には、一人当たり年間3,000ドル、一日当たりにして8ドル以下の所得で生活している人を指すことが多いです。じつは、世界人口の70%以上がこの水準で生活しており、BOPビジネスの対象人口は40億人以上、市場規模にして日本のGDPに相当する5兆ドル、といわれています。BOPビジネスは、企業がこの層を対象に物やサービスを売って儲けるのですが、同時にこうした商品が手に入るようになることで低所得層の人々の生活も改善されるという、Win-Win関係が成り立つことが特徴だといわれています。

Question人口が多いだけに、全体の市場規模が大きくなるのですね。

Answerはい、しかしそのBOP層の人々は「BOPペナルティー」を押しつけられているのです。

Questionペナルティーというのは、罰則ですよね。BOPの人々の罰則とはどういう意味ですか?
Answer低所得者ほど生活コストが高い、ということなんです。たとえばバングラデシュの首都ダッカにいる人と、農村部に住んでいる人を考えてみましょう。同じものを買おうとしたときに、首都にいる人は歩いて、あるいは安い公共バスに乗ってスーパーマーケットに行き、豊富な品揃えの中から最新の製品を買うことができます。これに対して、交通の便の悪い農村に住んでいる人は、まず村では買えないので乗り合いタクシーなどに乗って近くの町まで出かけなければなりません。この段階ですでに交通費と、往復の時間を余計払わなければなりません。つまり、低所得者ほど、さんざん苦労して、高いお金を払って、品質の悪いものしか買えない、ということになるのです。これはまさに「低所得者であることの不利益」つまり「BOPペナルティー」なのです。
Questionなるほど、普通に考えるとお金のない人は、少ない生活コストで生活していると考えがちですが。むしろ逆だということですね。
Answerそうなんです、むしろお金がある人の方が一つ一つの商品の購買価格が安くすむことは多いですね。
Questionたしかに、大量に買った方が割安になったりしますよね。
Mamy Poko Pants
Answerそうなんです。でも、その点を逆手に取ったBOPビジネスがあります。それは小袋戦略と呼ばれるものです。

有名なのは調味料(味の素)ですが、それ以外にシャンプーや洗剤などもあります。つまり、一回使い切りの分量だけを小分けにして、とても安い価格で販売する戦略です。たとえばこの調味料はフィリピンで売られているものは1回分約1円です。このシャンプーはイエメンで売られていて1回分約5円。

以前は、調味料もシャンプーも貧困層の人にとっては高嶺の花でした。使ってみたくても、大袋入り、ボトル入りのものしか売っていない。でも、そうした商品の価格は日雇い労働の1日分以上の価格です。そうすると、日雇い労働で食いつないでいる人にとっては、とても高くて買えません。これも、BOPペナルティーです。でも、貧しい人でもおいしいものは食べたいし、きれいになりたいという望みは持っています。そこで、貧しい人でも買える程度の値段にするために、小分けにしたわけです。

これによって、貧困層にも手の届く商品となり、企業は新たなマーケットを開拓できるわけです。貧困層にとっては、「買いたくても買えない」というBOPペナルティーが解決されたことになります。すなわち、BOPビジネスとはBOPペナルティーを解消することで成立するのです。そしてBOPペナルティーが解消されるということは、貧困層の生活条件が向上することを意味します。これが「消費を通じた貧困削減」です。
Questionなるほど。でも、これまでも慈善活動やCSRなどで途上国支援はしてきた企業は多いですよね。
Answerはい。貧困削減という意味では同じような目的ですが、慈善活動とBOPビジネスの最大の違いは、「利益を通じた持続性確保」という点です。つまり、慈善活動は先進国側の善意とお金で成り立ちます。そのつど渡しきりのお金ですから援助する側の都合で継続できるかどうかわからない。しかし、ビジネスであればその販売活動を通じて何らかの利益を生みます。利益が出ている限りは支援者の善意があるかないかに関わらずそのビジネスは継続性を確保できるわけです。

欧米の多国籍企業はかなりBOPビジネスに力を入れて取り組んでいます。日用雑貨を販売するユニリーバ、プロクターアンドギャンブルなどはその代表例ですし、家電メーカーではフィリップス、それ以外にも途上国の企業も取り組んでいる例が増えています。また、携帯電話を利用したBOPビジネスは特にアフリカで爆発的に伸びています。これらについては、ジェトロが昨年から「先行事例調査」として情報を蓄積しています。
BOPビジネスへの参入企業
Question日本の企業はどうでしょうか。
AnswerもともとBOPビジネスとして始められたわけではありませんが、味の素、ヤクルトさんなどは小分け戦略や、貧困地域での対面訪問販売などの戦略で成功している例です。それ以外にはアフリカでマラリア対策用の蚊帳を販売している住友化学の例はありますが、多くの日本企業はようやくBOPビジネスに取り組み始めたところです。太陽光発電や浄水剤・浄水器等の取り組みが増えています。
Question日本や先進国で売っているような商品のままでは売れないのですよね。
Answerそうですね。日本製品の持っている技術力は通用すると思いますが、既存商品を持って行くだけでは貧困層のニーズに合致するとは限りません。

もちろん今後日本企業に可能性はあると思います。ただ、途上国の市場というのはこれまでなじみがない企業がほとんどなので、情報も少なく、どのようなBOPペナルティーがあるのか、どのような潜在的なニーズがあるのかについ見当がつかないという企業も多いですね。そこで、ジェトロでは昨年度から途上国を対象としてBOPビジネス潜在ニーズ調査に取り組みでいます。

それは、アジア、アフリカのいくつかの国を対象に、貧困層の生活実態を調査し、彼らの抱えているBOPペナルティーを整理して、それに対応する潜在的な商品を提案するというものです。
Question具体的にはどんな商品が有望そうですか
BOPビジネス 日本企業の可能性
Answerこれはあくまで例ですが、たとえば井戸で水くみをしているところでは手押しポンプ、飲み水や台所の衛生水準が悪いところでは体に優しい胃腸薬、肉体労働者に消炎鎮痛薬、教育分野では小中学生の制服、マラリアや害虫よけの虫除けリングなどはおもしろいかもしれませんね。

BOPのPointは、企業と貧困層のWin-Win関係です。ただし、口で言うほど簡単には実現できません。あくまでビジネスなので最終的に利益を出さなくてはいけませんが、これまでとは異なる市場なので、貧困層の生活実態に関する草の根レベルの情報収集、息の長い取り組みと、現地での緊密なパートナーシップづくりが欠かせないと思います。ただ、この層は将来的にはボリュームゾーンに成長していく層なので、いまからブランディングしておかないと、欧米企業ばかりではなく新興国の企業との競争にも勝てないということは明らかだと思います。

実は、日本企業はBOPビジネス得意なのです。それは、昭和30年代の高度成長期に大衆消費財が爆発的に売れ始めたのは、単に人々の所得が増え始めたばかりではなく、多くの企業が知恵を絞って、低所得者層にも買いやすい、使いやすい、壊れにくい、そしてコストパフォーマンスの良い商品を開発したからです。そのノウハウは、今再びBOPビジネスで求められているのです。