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北朝鮮ミサイルと最高人民会議

アジアの出来事

朝鮮民主主義人民共和国

地域研究センター 中川 雅彦
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この記事は2009年4月8日にデイリープラネット(CS放送)「プラネットVIEW」でオンエアされた『北朝鮮ミサイルと最高人民会議』(中川雅彦研究員出演)の内容です。

Question北朝鮮は、4月5日、「弾道ミサイル」を発射しました。そして、朝鮮中央テレビは、ミサイル発射の瞬間の映像を放送しました。また、4月9日には、「最高人民会議」が開かれます。今回のミサイル発射の意味とは?北朝鮮の思惑とは一体何なのでしょうか。

Answer朝鮮側の公式発表では、「試験通信衛星」の打ち上げとなっています。国家宇宙開発展望計画の第1段階と位置づけられ、今後数年の間に国家の経済発展に必須の通信、資源探査、気象予報などに利用する実用衛星を打ち上げるための準備とされています。これを特に否定する材料はこれまでのところ存在しません。もちろん、人工衛星打ち上げの技術が弾道ミサイルと共通のものであることは周知の事実であり、軍事的な意味があることも間違いないでしょう。さらに、明日、最高人民会議が開かれますが、この前祝の花火という意味もあると思われます。1998年8月末にも人工衛星の打ち上げをやっていますが、国会に相当する最高人民会議の代議員が改選された直後であり、党と国家の権威を向上させる効果は大きかったと思われます。

Question北朝鮮は、人工衛星の打ち上げは成功し、軌道にのせたと発表しました。朝鮮中央テレビのニュースでは人工衛星が軌道に進入したことをしめすグラフィック画面も放送されました。しかし、アメリカなど各国は「衛星は軌道に進入していない」と、失敗だったという見方を強めていますが。

Answer軌道に乗った衛星もその衛星から発せられているという電波もこれまでのところ他の国の機関によって確認されていないわけですから、軌道に乗ったという公式発表のほうがあやしいといえるでしょう。朝鮮の通信衛星の実用化にはまだまだ時間がかかると見られます。

軍事的な意味では、日本を跳び越すロケットの打ち上げは1998年8月末に続いて2度目ですが、1998年のときも今回も2カ月以上にわたる発射準備段階から捕捉されています。北朝鮮側の軍隊が今日明日にも日本を攻撃できるミサイルを常時備えているわけではないといえます。

日本では朝鮮側が日本をミサイルで攻撃しようとしているのではないかという想定がなされることがありますが、逆に朝鮮側の立場で見ると、日本を直接ミサイル攻撃することに大きな軍事的な利益はないんです。朝鮮側が軍事的に相手にしているのは基本的にアメリカであって、その次が韓国です。日本にある米軍基地を狙ったところで、米軍の朝鮮半島における力に大きな影響を与えるものではありません。ただし、日本としては最悪の事態も想定せざるを得ないため、今回は日本の迎撃体系の存在をアピールする必要があったことは間違いありません。

Questionそれでは今回のミサイル発射を受け、今日本にとって最大の焦点となっている国連安全保障理事会での北朝鮮への対応ですが、今後どうなるのでしょうか?

Answer日本では国連安保理で朝鮮に対する何らかの措置を期待するところがありますが、これはかなり困難でしょう。まず、ミサイルかどうかは確認されていません。朝鮮側の主張どおり人工衛星の発射であれば、これまでの国連安保理決議とは抵触しないことになります。

Question5日の「ミサイル発射」と、昨日から今日にかけて朝鮮中央テレビが次々と公開した金総書記の去年8月から12月まで行ったとされる視察の映像や写真。これらは、4月9日に行われる「最高人民会議」をにらんでの動きだと思われますが、その「最高人民会議」はどういったものなんでしょうか?

Answer最高人民会議は日本の国会に相当するものです。この最高人民会議のほかに、日本でいう県レベルである道と、市・郡の地方人民会議があり、3種類の人民会議の代議員が直接選挙によって選ばれます。今回のロケット発射に先立ち、3月8日に最高人民会議の代議員選挙が5年7カ月ぶりに行われました。しかしこれに関していえば、すでにこの国の政治では朝鮮労働党による一党支配が確立していて、選挙としては形骸化しているため、政治的な分析を行う意味はありません。

代議員の構成に関していえば、46%ぐらいが新しく代議員になった人たちで、世代交代が進展していることをうかがわせます。そして、軍隊の中に設けられた61の選挙区のほかに、ざっと数えたところ地方別の選挙区から41人の軍人が代議員になっており、軍人が代議員の中で占める割合は15%となっています。軍人の地位はかなり高いといえます。

Question今回の「最高人民会議」は、何が注目されるのでしょうか?

Answer最高人民会議では内閣の人員が決められますが、今の総理は2007年4月に就任してさほど長い期間が経っているわけではないこと、昨年末から今年にかけて内閣のメンバーにかなりの交代があったことから、基本的に今の内閣がそのまま任命されることになると見られます。むしろ、もっと実務的なこと、国家予算報告と内閣事業報告、とりわけ予算の報告が重要です。この予算報告に出てくる数値を読み解くには、過去の報告と照合するなど、ちょっとした技能が必要ですが、この国の基本的な経済状況が現れます。

2008年の歳入計画では4%の増加が見込まれていましたが、おそらく、実績はこれよりも結構高いものになると思われます。すでに、2008年の工業総生産が9%の増加であったと発表されているからです。それから、あまり強く期待できるものではありませんが、国防費の割合が下げられる可能性もあります。

2007年10月に核実験をしたとき、これで国防の心配がなくなったので経済に力を集中できると言っていましたが、これまでのところ国防費は予算総額の15%ぐらいが維持されてきました。私の計算では国家予算は国民所得の6割以上を占めており、国家予算の中の国防費は国民所得の9%ぐらいに相当します。この国の経済力ではかなりの負担であることは間違いありません。経済に力を集中させる気が本当にあるのであれば、金額を削るまで行かなくても予算の中のシェアを小さくすることは出来ると思います。

Question後継者問題ですが、人民会議では、後継者について触れられることはあるのでしょうか?

Answer後継者問題は 金正日の健康問題と結びつけてしばしば議論されていますが、とくに今回は昨年8月半ばから1月半、金正日が公に姿を現さなかったこと、そして、今年に入って、公開された写真で痩せた姿が公開されたことで、健康悪化説が出ています。ただ、医者でもない人が健康状態そのものを議論するのは不適切だと思います。公式報道を見ると、寒い時期に地方視察にも出ているし、軍隊の訓練を外に出て視察しています。ということは、金正日は国内で少なくない人々の前に姿を見せているわけで、執務に支障があるような状態ではないということでしょう。

後継者については、憶測による報道や根拠の怪しげな情報が多くありますが、今回の最高人民会議代議員選挙では後継者に関する動きは見られなかったことは重要です。後継者は決まっていないし、おそらく金正日も自分の後をどうするかということには今のところ、大きな関心を払っていないと見られます。

2009年4月