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金融グローバル化と翻弄される途上国

アジアの出来事

アジア

開発研究センター 国宗 浩三
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この記事は2008年12月24日にデイリープラネット(CS放送)「プラネットVIEW」でオンエアされた『金融グローバル化と途上国』(國宗浩三研究員出演)の内容です。

Question現在、米国発の金融危機が世界中に深刻な影響を与えています。これほど短期間に、悪影響が世界中に広がったのは、国境を越えた金融取引が活発に行われるという金融グローバル化の進展が裏目に出たということでしょう。

金融グローバル化にはメリットもデメリットもありますが、先進国も開発途上国も同じように金融グローバル化の恩恵を教授し、また、その弊害を蒙っていると言えるのでしょうか?

Answer最初に大まかな結論を申しますと、「金融グローバル化が進み、その便益を享受してきた先進国と、金融グローバル化と通貨・金融危機の発生を順番に繰り返してきた開発途上国」という対比が成り立ちます。

1990年代に入ったころより、国境を越える金融取引が一貫して増大を続け、金融グローバル化が進展してきました。一方、ちょうどこの時期に、先進国政府と開発途上国政府の対外経済政策に大きな違いが見られるようになりました。

Question具体的にどのような違いでしょうか?

Answerそれは、外貨準備の保有についての政策スタンスの差です。
 

外貨準備/輸入


こちらは、先進国と開発途上国それぞれについて、外貨準備が輸入の何カ月分あるかを示したものです。これを見ると、90年代に入ってから、先進国は外貨準備を継続的に減らしてきたのに対し、途上国は継続的に増やしてきたことが分かります。その結果、2006年末では、先進国の外貨準備は輸入の2カ月分を少し上回るほどでしかなくなりましたが、途上国では輸入の9ヶ月分に相当する大きさとなっています。(ちなみに、80年代には世界全体の外貨準備保有高のうち途上国は、その約4割を保有していましたが、2006年には、約7割を占めるまでになっています。)

Questionこうした違いは、どのような意味を持つのでしょうか?

Answer金融グローバル化を先導する先進国では、企業や金融機関といった民間の経済主体が、積極的に国際金融取引に乗り出す一方で、政府は外貨準備を減らしていたのです。一方の途上国においては、金融グローバル化は政府の警戒心を高める効果があったようです。つまり、万一の事態に備えて外貨準備を積み増ししたのだと考えられます。

Question外貨準備を多く持つということに問題があるのでしょうか?

AnswerIMFの対応:途上国と先進国外貨準備は、万一の場合の備えとしての役割が期待されるので、比較的に換金が容易で安全な資産(具体的には米国の財務省証券など)の形で保有されます。こうした資産の収益率は低いのです。外貨準備の対象となる通貨は米ドルをはじめとする先進国通貨ですから、開発途上国の政府は、先進国に対して低利での融資を行っているのと同じことになります。

これは、先進国の利用可能な資金量を増やし資金コストを低下させました。こうして、豊富で安価な資金を手にした先進国の企業や金融機関は、その一部を開発途上国への投資にまわしました。こちらは、民間ベースの活動なので、当然のことならが高い収益を目指します。そして、実際に高い投資収益を稼いできたのです。

Question開発途上国は損をして、先進国が得をしたということでしょうか?

Answer例えば、アメリカは純債務国になって久しいですが、米国の投資収支は黒字です。つまり、米国は借金が超過しているにもかかわらず、米国が受け取る利払いや配当の額の方が、支払う額よりも大きいのです。(借金だらけなのに、金利と配当収入で暮らせるなんて夢のような話ですね。)

もっとも、今回の金融危機では先進国も含めて世界的に金融グローバル化が後退することは避けられず、こうした構図が今後も続くかどうかは流動的です。

Question今回の金融危機は途上国にどういった影響を与えるのでしょうか?

Answer今回の危機との関連では、すでにハンガリー、ウクライナ、パキスタン(開発途上国ではないがアイスランド)などがIMF支援を要請し認められています。今後も支援を必要とするケースが出てくる可能性は残ります。大まかに言うと「新興ヨーロッパ諸国」と称される中東欧、バルト三国などで危険性が高いと思われます。

世界地図

しかし、そのほかの地域では(これまで、問題を起こすことも多かったラテンアメリカやアフリカ地域も含めて)、おしなべて金融面での悪影響は限定的です。先ほどは、外貨準備蓄積のマイナス側面を指摘しましたが、万一の事態に備えるという意味では、その役割を果たしたと言えるでしょう。先進国における輸入需要の急速な落ち込みと、世界的な株安による悪影響はありますが、少なくとも通貨・金融危機に至る事態は回避できそうです。

 

 

Questionアジア地域ではどうでしょうか?

Answerアジア地域でも、基本的には同じですが、いくつかの例外もあります。まず、パキスタンですが、前述の通りすでにIMF支援プログラムの下に入っています。しかし、パキスタンには政情不安や「テロとの戦い」の最前線に立たされていることなど、特殊な要因が大きく、他のアジア諸国との共通点は少ないと言えます。もうひとつは韓国です。

為替レート

上の図からわかるように、主要なアジア諸国では、パキスタンと並んで韓国の為替相場下落が激しいものとなっています。しかし、外貨準備が底をついてしまったパキスタンとは異なり、韓国は十分な外貨準備を維持しており、これほど通貨が売り込まれるのは不思議なことです。

Questionその理由はどういったことでしょうか?

Answer実は、少し前までは、韓国は、外国人投資家からの受けが大変良い国でした。その結果、韓国への投資資金の流入が続いていたのです。一時期は、韓国の株式市場での売買の8割が外国人によるものだと言われるほどになりました。しかし、現在は、こうした外国人投資家がいっせいに換金売りに転じて、株価や通貨の激しい下落の原因となっているのです。

Questionどのような対策が必要なのでしょうか?

Answer個別国ごとの政策対応でなんとかなる国と、そうではない国が出てくると思いますが、後者の場合に備えて支援などの国際的な協力枠組みの拡大、および改善が必要です。しかし、これまでの経験から言えるのは、従来のIMF支援には多くの問題があったということです。

IMFの対応

こちらに簡単にまとめて対比させてみましたが、伝統的にIMFが開発途上国に求めてきた政策というのは、現在、金融危機に直面した先進国が行おうとしている政策と、見事なまでに正反対のものです。このような支援を忠実に実行した場合には、経済成長への悪影響は非常に大きなものとなります。

QuestionIMFが厳しい経済政策を要求してきた理由はなんでしょうか?

Answer大きく分けて二つあります。ひとつは、IMFの資金支援額が小さすぎること。もうひとつは、IMFの意思決定に先進国の立場や見解ばかりが反映され、開発途上国の意見が反映されていないことです。

IMFの厳しい対応のワケIMFのすすめる政策は、その国の経済成長には非常に良くない政策ですが、対外的な支払い能力を回復するには有効な政策です。本来であれば、IMFが十分な資金支援することによって、経済成長を犠牲にしない形で危機への対応ができることが望ましいのですが、IMF支援に利用できる資金が少なすぎるために、逆に経済成長を犠牲にして対外的な支払い能力を高める政策をとらざるを得なくなるわけです。

また、IMFの意思決定に開発途上国の意見が反映され難いために、経済成長を犠牲にするという「痛み」を伴う政策でも、簡単に承認されてしまうのです。

Question日本の役割はどういったことでしょう?

Answer日本は重要な役割を果たせるし、果たすべきです。

短期流動性融資制度(SFL)

今回の危機に際して、日本政府は、10月のG7で危機の伝播に苦しむ開発途上国にとって、従来のものよりも使い勝手のよいIMFの金融融資制度が必要だという提案を行いました。IMFはこれに応えて、10月末には短期流動性融資制度(SLF)という新制度を創設しています。その後も、日本政府はIMFの出資額倍増を提案し、それが実現するまでの措置として、(外貨準備を活用して)最大1000億ドル(10兆円)の資金をIMFに貸し付ける用意があることを表明しています。同時に、IMFの意思決定方法の改革が必要であるとしています。

Questionそれに対し、どう評価されているのでしょうか?

Answerこうした対応は、他国に先駆けて行われており、また、前述したIMF支援の問題点への対応としても適切なものです。正直申しまして、日本政府がここまで積極的で建設的な提案を行うとは思ってもいなかったので、個人的には大変びっくりしましたが、率直に評価したいと思います。残念なのは、むしろ、日本国内における評価が低いことです。日本自身の経済問題の方が、日本人にとって一番重要であることは当然のことですが、国際的な場面における日本の行動についても、もっと注目し、また、正当に評価するという国民の姿勢が欲しいところです。こうした、バックアップがなければ、日本が国際社会で一目をおかれるような外交を展開することは難しくなるでしょう。  

2008年12月