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フェアトレードのマーケッティング

アジアの出来事

アジア

研究支援部長 佐藤 寛
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この記事は2008年11月11日にデイリープラネット(CS放送)「プラネットVIEW」でオンエアされた『フェアトレードのマーケッティング』(佐藤寛研究員出演)の内容です。

前回は、 フェアトレードが途上国の生産者に少しでも多くの収入を得てもらうために、どのような方法で生産者から農産物や手工芸品を買い取るのか、その仕組みについてお話ししました。

グローバル化が進む今日の世界では、世界中からいろいろなものが日本に輸入されています。そして、途上国からはコーヒー、紅茶、チョコレートの原料になるカカオ、コットン、そして様々なエスニックテイストのカバンや洋服が輸入されています。

通常の貿易では、間に貿易業者が入り、できるだけ良い商品を、できるだけやすく仕入れ、できるだけ多くの利潤を得ようとします。その場合、販売競争が激しければあまり高く売ることはできません。 よって、なるべくやすく仕入れることに努力する結果となり、途上国の生産者は買いたたかれ、少ない収入しか得ることができなくなります。場合によっては、安い労働力として子供を働かせることにもつながります。

Question子供が働くと、学校はどうなりますか?

Answer家計を助けるために子供が働かなければならないとすれば、学校に行く余裕はありません。そうすると、十分な教育が受けられず、一生単純労働にしかつけない結果になりかねません。そこで、通常の貿易の貿易業者の代わりに、フェアトレード団体が入ると、どうなるでしょうか。フェアトレード団体の目的は、自分たちの利潤よりも、途上国の生産者の収入が増え、生活が向上することにあります。そのため、前回もお話ししたような3つの優遇買い取り条件で、商品を仕入れるわけです。

フェアトレードの仕組み

Questionでも、そうすると仕入れ価格は通常の貿易よりも高くなりますね。消費者は買ってくれるのでしょうか?

Answerそうです。それを承知で消費者が買ってくれないとフェアトレードは成立しません。ここからが、今日のメインテーマですが、では先進国の市場で消費者がフェアトレード商品を買ってくれるようになるためには、何が必要なのか。言い換えれば、フェアトレード団体はどのようなマーケティング戦略をとればいいのか、に知恵を絞ることになるわけです。

Questionどんな工夫があるのですか。

AnswerCRM:コーズ・リレーテッドマーケティング普通の消費者は同じ品質ならより安いものを買いますが、特別な理由があれば、高くても買うことがあります。フェアトレード商品のマーケティングではこの「特別な理由」を消費者に伝えることができるかどうかがカギになります。これは、専門用語ではCRM=コーズ・リレーテッド・マーケティングと呼ばれているものなのですが、わたしはこれを「物語つきマーケティング」と呼んでいます。

つまり、商品やサービスの品質・価格だけでなくその商品にまつわる社会的背景(=物語)を付け加えることによって付加価値を与え、買ってもらおうとすることです。ホワイトバンドって、ご存じですか。

Question「ほっとけない、世界の貧しさ」キャンペーンで売っていた、白い腕輪ですね。

Answerはい。あれは途上国の貧困問題の解決という物語をつけた「物語つきマーケティング」の第1号です。自分の消費行動が、途上国の支援につながるという感覚が新しかったのですね。



Questionでは、「物語つきマーケティング」というのは新しいマーケティング方法なのですか。

Answerベルマーク途上国の貧困問題と関連づけるという意味では、新しいですが、実は日本国内ではかなり歴史のある仕組みなのです。それは、ベルマークです。ベルマークはそれを集めることで学校の備品に変えられたり、国内の僻地校の支援に使われたり、最近では途上国の学校建設などにも使われています。消費者は、同じ品質の商品なら、ベルマークのついているものを買って、それを切り取って学校に持って行くわけです。つまり、ベルマークの背景に「物語」があるからそっちを選ぶのですね。フェアトレード商品も、こうした物語をつけることによって消費者に訴えようとしています。

Questionでも、一つ一つのフェアトレード商品の背景にどんな物語があるか、消費者にはわかるのでしょうか。

AnswerFLOラベルIFATラベル確かに、カタログ販売やインターネット販売なら、商品の写真の隣に「物語り」を展開できますが、店先で買おうとする人にはいちいち説明することは困難ですね。そこで、考案されたのが「フェアトレードラベル」です。

Questionこのラベルはどいう商品につけられているのですか

Answer誰でも勝手につけて良いというわけではありません。これはもともと欧米のフェアトレード団代が編み出したもので、その商品が途上国の労働者を搾取しない方法で生産、調達されているかということを審査して、条件に合ったものにだけつけることができるのです。たとえば、日本で売られているコーヒーなどにはこのラベルがついているものも増えています。また、フェアトレード商品をカタログ販売している団体の中には団体認証を受けているところもあります。そして、このラベルがついていれば、フェアトレトードによる生産者支援という物語があることがわかるわけです。

Questionでも、このラベルのことを知っている人はどれくらいいるのでしょうか?

Answer実は、それが問題です。日本ではまだこのラベルはあまり認知されていません。それに、このマークをつけていなくてもしっかり途上国支援をしているフェアトレトード商品も山ほどあるわけです。それに、日本の消費者は一般的な「途上国支援」よりも、この商品を買うことで、どこの国のどんな人を支援できるのか、といった具体的な物語を求める傾向にあります。自分の支援が役に立っている、という確証がほしいわけですね。

Questionそもそも途上国支援、というテーマに関心を持っている人は多いのでしょうか。

Answerこれも、アフリカを植民地にしていた歴史を持つヨーロッパの国々に比べると、日本では関心を持っている人は少ないかもしれません。しかし、最近ではフェアトレード以外にも途上国支援のための様々な「物語つきマーケティング」が現れています。

たとえば「テーブル・フォー・ツー」という運動は、社員食堂で特定のメニューを選ぶと、一食について20円が途上国の給食に寄付されるという仕組みです。また、「1リットルで10リットル」というキャンペーンは、ミネラルウォーターを買うとその売り上げの一部がアフリカの井戸掘り資金になるというもので、こうした物語につられて、購入する消費者も増えています。大きな視点で見るとフェアトレード商品もこの流れの中に位置づけられると思います。

Questionフェアトレードと環境の関係もありましたよね?

Answerフェアトレード商品の認定基準の中に「環境配慮」というのもあります。そしてこれもやはり「環境に優しい」という物語をつけることによって消費者にフェアトレード商品を選んでもらおうとする努力と考えることもできます。

Questionフェアトレード商品を扱うのはフェアトレード団体だけなのですか?

Answer最初はそうでした。しかし、フェアトレードラベルが普及すると、この物語を自分たちの商品のマーケティングに活用しようとする大企業も出てきます。そうした民間企業はもちろん利潤のために活動するのですが、近年ではCSR(企業の社会的責任)という言葉も普及して、途上国の貧困削減や環境保全のために売り上げの一部を還元するということも始まっています。これも形を変えたフェアトレードと言えますね。

2008年11月