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大型国有企業の新規株式公開をめぐるジレンマ

アジアの出来事

ベトナム

地域研究センター 藤田 麻衣
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これまで遅々として進まなかった国有企業改革が、大型国有企業株式化の実施という新たな段階に突入している。

2003年頃から、企業集団などを含む大型企業も例外なく改革の対象とし、とくに株式企業への転換(株式化)を行う企業については証券市場への上場を通じて競争力の強化を図るという路線が打ち出されてきたが、依然として進捗には遅れが目立っていた。ところが、昨年来の証券市場の高騰や外国からの投資資金の急増により、国有企業にとっての株式化と証券市場上場の魅力は急速に高まった。さらに、WTO加盟を契機とした市場開放が進むなか、競争力の強化は喫緊の課題ともなった。かくて、2006年末に発表された2007~2010年の株式化対象企業リストには主要な大型国有企業が名を連ねた。今年7月には、海外の有力企業が株式化対象の国有企業の「戦略投資家」となり、出資を含む中長期的な提携関係を結ぶことを可能とする株式化規則の修正がなされた。大型国有企業の株式化がついに動き出すのか、それらがどのような外国企業と資本関係を結ぶのか、注目が集まった。

しかし、証券市場が低迷に転じた今年3月以降、株式化計画の先行きを危ぶむ声が出始めた。相次ぐ新規株式公開(IPO)によって証券市場は供給過剰気味となっており、ここ数ヵ月の間に行われたIPOでは、売却対象の株式のうちごく僅かしか売却できずに終わった事例が出ている。今後の株式化計画には、従来の株式化対象と比べ桁違いに規模が大きい国有商業銀行や通信企業などが名を連ねているため、大量の株式が放出されることによって市場の需給バランスが大きく崩れ、IPOを通じた資金調達という目標の達成に支障をきたすことが懸念された。このような状況を踏まえ、7月には、ズン首相から財務省や国家銀行に対し、国有商業銀行や総公司、企業集団などの株式化計画の再検討を行うよう指示が出された。

計画の断行か先送りか。大型国有企業の株式化スケジュールをめぐって様々な議論が行われている。8月末、ベトナム外商銀行(Vietcombank)の株式化計画が政府によって原則承認されたと発表されたことは、従来発表されていたスケジュールよりも大幅に遅れたとはいえ、一歩前進といえよう。現在の国内外の情勢を踏まえれば、株式化の流れを一気に後退させるような政策オプションは現実的でないと思われる。政府は、経済の根幹を担うことが期待される大型国有企業の資金調達の成功と証券市場の安定を実現すべく、市場や外国企業の動向を睨みながらタイミングを見定めていくことになるのではないか。
2007年9月