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窮地に立たされるムシャラフ大統領

アジアの出来事

パキスタン

地域研究センター 牧野 百恵
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今年秋から来年1月15日までを期限として、大統領選挙、総選挙を控えたパキスタンでは、政局に新たな動きがみられた。国内外の報道によると、ムシャラフ大統領と国外亡命中のベーナジール・ブットー元首相との非公式会談が、7月27日にアブダビでもたれたようである。会談内容について、両者は明らかにしていないが、大統領が軍のトップであり続けることの承認と、ブットー元首相の首相への返り咲きが交渉されたと考えられている。会談後の両者の発言などからして、交渉は難航しているようである。会談の背景には、ムシャラフ大統領の求心力が低下していることがある。

一つには、「テロとの戦い」に関連して、自爆テロの頻発など、国内の治安が悪化している。とりわけ、イスラマバード市街地でのラール・マスジド(赤いモスク)事件以降、イスラーム武装組織による報復とされる自爆テロが頻発している。シャリーア(イスラーム法)の徹底を掲げ、大統領の「テロとの戦い」を公然と非難してきた同モスクと当局との間では、年初から緊張が募っていたが、7月3日、治安部隊とモスク側神学生を含むイスラーム武装勢力とのあいだで銃撃戦が始まり、10日、モスクの副イマーム(導師)であるアブドゥル・ラシード・ガージー師殺害によって収束にむかった。14日に政府が発表した犠牲者の数は103人であったが、正確な数字は不明のままである。

モスクには、ジャイシェ・ムハンマド(JM)の分派が含まれていたという。JMは、2000年の初めに、カシミール武装闘争を目的として組織されたグループで、パキスタンがアメリカ主導の「テロとの戦い」への協力に乗り出して以降、非合法組織となった。創始者マスード・アズハルは、ムシャラフ大統領暗殺を呼びかけてきた人物である。大統領が、このようなテロ組織に対して断固とした態度で臨まなければならないことに選択の余地はないが、その効果が乏しく、また報復の自爆テロなどが更に増加すれば、軍人大統領の威信は失墜するであろう。

もう一つは、ムシャラフ大統領が3月9日、職権乱用を理由に停職処分にしたチョードリー最高裁長官について、処分の無効が7月20日、最高裁によって決定された。この決定は、3月以来の法曹界の反発と大統領への批判集中に対して、事態の収拾を図ってなされたとの見方が強いが、一連のいわゆる司法危機が、大統領の威信を傷付けたことは否めない。

このようななか、いよいよ非常事態宣言も選択肢の一つとみなされるようになった。発令されれば、司法権は大きく制約され、総選挙も延期されるだろう。大統領は8月9日、公式に発令を否定したが、政局が流動的であるなか、今後の可能性としては否定できず、選挙が実施されるまでの動向には目が離せない。
2007年8月