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温家宝首相の日本訪問

アジアの出来事

中国

地域研究センター 松本 はる香
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中国の温家宝首相が2007年4月11日から3日間、中国の首脳としては実に6年ぶりに日本を訪問した。中国は、昨年10月の安倍晋三首相訪中を「氷を打ち砕く旅」と譬えたのに続き、温首相訪日を「氷を溶かす旅」と譬えた。これは、日中関係が所謂「政冷経熱」(政治は冷たく、経済は冷たい)状態から脱却しつつあることの一つの表われと言えよう。特に、中国国内では日中友好ムードの演出に力が注がれた。中国メディアは、温首相訪日に先立って、数週間にわたり日本の特集テレビ番組や、日中青年討論会等を積極的に報道したのである。

4月11日の日中首脳会談では、「戦略的互恵関係」を構築していくことが謳われ、両国の政府、議会、政党間のハイレベルの往来を強化して、交流と対話を拡大することで合意した。とりわけ、エネルギー、環境保護、金融、IT、知的財産権保護等をはじめとする幅広い分野の協力強化を進めていくことが確認された。特に、防衛分野に関しては、今秋の中国の国防部長の訪日や、日中双方の艦艇の訪問等の海上協力等の防衛交流を積極的に推進していくことになった。また、東シナ海ガス田問題に関しては、両国が受入れ可能な比較的広い海域での共同開発の実施で合意した。さらに、台湾問題に関しては、中国側は台湾独立の不支持について、日本側のより踏み込んだ立場を求めたものの、安倍首相は日中共同声明を堅持する立場を口頭で述べるにとどめたと言われている。

4月12日には、温首相が衆議院演説に臨み、中国全土でも実況テレビ中継された。今秋の第17回党大会に向けて、胡錦濤=温家宝体制の権力基盤を固めつつあるなか、中国国内で不必要な反発を誘発しないという難しい舵取りが迫られている。このような状況を配慮してか、演説は日中友好を演出しつつ、歴史問題ではクギを刺すという内容となった。これに関しては、温首相が演説原稿の、戦後の日本が平和発展の道を歩んできたことを中国が支持しているというくだりを読み飛ばしたことをめぐって様々な憶測が流れた。勿論その真意については未だ不明だが、中国の国内事情が多少なりとも反映している模様だ。

温家宝首相訪問によって日中間の氷が解け出した。だが、近年の有人宇宙飛行成功や、弾道ミサイルによる衛星破壊実験実施にも象徴されるように、「宇宙大国」化をも目指す中国の軍事力の巨大化は大きな懸念材料である。日中両国には、安全保障問題、歴史問題、台湾問題等をめぐる不協和音が依然として燻っており、氷解した水面の下での模索が当面は続きそうだ。
2007年5月