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スラユット暫定内閣が発足、首相の調整手腕に期待

アジアの出来事

タイ

地域研究センター 東 茂樹
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クーデターを主導した統治改革団は10月1日、暫定憲法を公布するとともに、暫定首相にスラユット枢密院議員を任命した。スラユット政権の下で、憲法起草委員会が新憲法を180日以内に起草し、国民投票の承認をへて新憲法が制定される。同委員会は憲法起草後に選挙関連法案を作成して、立法議会の審議に諮り、来年10月に総選挙が行われて、民政に移管される予定である。

スラユット首相は元陸軍司令官であるが、政治とは距離を置いて職業軍人を貫き、清廉な人柄が国民から広く信頼されている。統治改革団による暫定首相の選定過程では、暫定内閣の喫緊の課題である経済や法律に詳しい専門家、また対外的なイメージを回復するために国際的な知名度の高い人物が候補に挙げられていたが、最終的に内政を重視し、国民和解を推進できる人物に落ちついた。スラユット首相は就任後の記者会見で、政治混乱の解消と南部国境県の治安回復に全力を傾ける決意を示し、タクシン政権とは異なって、道徳を念頭に置き、GDPよりも国民の幸福を重視した政策運営を表明している。

政権を委譲した統治改革団は国家安全保障評議会に名称を変更し、今後の役割は治安維持に限定している。ただし暫定憲法の規定では、同評議会議長が、憲法起草委員や立法議会議員などを選出し、首相の任命、罷免権限を有するなど、政治的な影響力は残している。他方で、同評議会や憲法起草関係者が2年間、下院や上院議員への立候補を禁止する歯止めも設けた。統治改革団は政権委譲の直前に布告を相次いで出し、タクシン政権の汚職や不正蓄財について徹底的に追及する構えを鮮明にしている。組織替えした不正調査委員会には、タクシン政権に批判的な委員が数多く任命され、調査権限も付与された。また解散命令を受けた政党の役員は、5年間政治活動が禁止されることになった。

スラユット首相は10月9日、26名の閣僚とともに国王認証式に臨み、暫定内閣が発足した。経済政策の運営は、中央銀行総裁のプリディヤトーン副首相兼財務相、バンコク銀行執行役員会議長のコーシット副首相兼工業相が中心となる。閣僚の大半は元官僚あるいは学識経験者であり、実務の遂行を重視した布陣である。主要な政策は前政権を踏襲すると思われるが、大型プロジェクトや民営化などの進捗は減速することになろう。スラユット内閣は、経済成長とともに社会の安定や調和を考慮する政策運営に取り組まねばならない。タクシン政権時に亀裂が拡大した都市と農村住民の修復をいかに図るか、前政権の不正追及にいつ区切りをつけて国民和解へ導くかなど、首相の調整手腕が期待されている。
2006年10月10日