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アブドゥラ首相とマハティール前首相の攻防

アジアの出来事

マレーシア

地域研究センター 中村 正志
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激しいことばのやりとり、法廷でのスキャンダル暴露、口封じを狙った機密文書の公開。いまマレーシアでは、1998年のアンワール元副首相解任間際とよく似た現象が見られる。昨年来マハティール前首相は、現政権下での自動車政策や外交政策を批判してきた。6月7日には、それまでの政策批判の域を超え、自身が手がけた事業を次々に変更、中止に追いやるアブドゥラ首相の「裏切り」への怒りを吐露した。

この発言は、即座にアブドゥラ政権を危機に陥れるものではない。閣僚および与党幹部は、現首相への支持を表明している。しかし前首相の社会的影響力は無視できず、このまま放置すれば政権の信用を損ねかねない。6月下旬に入り、前首相が野党幹部の出席する会合でアブドゥラ批判を繰り広げたことで、前首相と野党が共闘する可能性まで出てきた。これを契機に現政権側は、激しいマハティール批判を始めた。

7月6日、アブドゥラ側に法廷から強い追い風が吹き始めた。国の不良債権処理機関を相手とする訴訟で、タジュディン・ラムリ元マレーシア航空(MAS)会長が、1994年に中央銀行からMASの株式を買い取るにあたり、前首相との間で買い戻しに関する密約を結んだと主張したのである。タジュディン氏によれば、前首相は、為替投機の失敗で損失を出した中央銀行を救済すべく、MAS株を買い取るよう同氏に圧力をかけた。そのかわり、タジュディン氏が負債を被らないかたちで後に政府が株を買い戻すと約束したという。通貨危機後の2000年12月、政府は売却時と同じ価格(市場価格の2.2倍)でMAS株を買い戻した。密約が事実であれば、前首相の法的責任が問われる可能性もある。

現政権側はさらに、前首相が2002年にシンガポールのゴー首相(当時)と交わした書簡などの機密文書を公開して、同国との外交政策を批判する前首相の主張の矛盾を暴いた。
アンワール事件と今回の件との大きな違いは、前首相には政権への野心がないことである。現政権にとっては、前首相が黙ってくれればそれでいい。問題は、自身が手がけた事業が潰えていく現実を、前首相が黙視できるか否かである。
2006年7月