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ICCがケニア副首相ら4人の第1審裁判部送致を決定

ケニア情勢レポート

アフリカ研究グループ 主任研究員 津田 みわ
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ケニアでは、現役の閣僚、国会議員、政府高官を中心とする6人が、2007/8年紛争で「人道に対する罪」を犯した被疑者として、国際刑事裁判所ICC予審裁判部の審理を受けていました。2012年1月23日、その6人のうち4人が、公判のために第1審裁判部に送致されることが決まりました。(2012年1月23日)

ICCウェブサイト上のケニア・ページ
http://www.icc-cpi.int/menus/icc/situations%20and%20cases/situations/situation%20icc%200109/situation%20index?lan=en-GB

ICC予審裁判部の決定は以下からダウンロードできます
http://www.capitalfm.co.ke/news/?cat=6
(このページのPresentation by ICC judges in Kenya case 1 and 2をクリックするとダウンロードが始まります)

2012年1月23日の予審裁判部による決定(ICC配信動画。29分)
http://www.youtube.com/watch?v=jnyc7x9a3jI

同決定を報じたデイリー・ネーション紙記事
http://www.nation.co.ke/News/-/1056/1312800/-/yx4v7yz/-/index.html

なお、ICCに関するローマ規程は以下からダウンロードできます
(外務省の作成している日本語公定訳、および原文)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/treaty166_1.html

被疑者6人は、殺人、住民の追放または強制移送、強姦、迫害、その他同様の非人道的行為を、間接的(または直接)に行ったとの容疑をかけられていました。

被疑者の顔ぶれは、(1) ケニヤッタUhuru Kenyatta副首相兼財務大臣(キクユ人)、(2) ルトWilliam Ruto国会議員(元高等教育・科学・技術大臣ほかを歴任。カレンジン人)、ムザウラFrancis Muthaura公務員長官兼官房長官(メル人)、コスゲイKiprono Kosgey国会議員(元工業化大臣、カレンジン人)、アリMohamed Hussein Ali郵便局長(元警察長官、ソマリ人)、サングJoshua arap SangFM放送局員(カレンジン人)の6人です。

6人はICCのモレノ=オカンポLuis Moreno-Ocampo検察官の名前にちなみ、ケニアではオカンポ・シックスOcampo6としばしば総称されます。

このICC予審裁判部での審理は、公判の前段階で行われるものであり、通常の裁判とは違って有罪かどうかを決定するものではありません。そうではなく、この予審裁判部という機関は、被疑者6人それぞれについて、「犯罪を行ったと信じるに足る実質的な理由を証明するために十分な証拠があるか否か(第60条7)」を決め、(証拠十分と決定した場合は)被疑者を公判のために第1審裁判部に送致します。

2012年1月23日のICC予審裁判部の決定は、被疑者6人のうち、ケニヤッタ副首相、ルト国会議員、ムザウラ公務員長官、サングFM放送局員の4人について、第1審裁判部に送致する、というものでした。コスゲイ国会議員とアリ元警察長官については、「十分な証拠は存在しない」と決定しました。翌24日にモレノ=オカンポ検察官も、コスゲイとアリについては、「追加的証拠による犯罪事実の確認要請を行わない」旨を述べました。これをもって、この2人はICCの被疑者ではなくなりました。

2012年1月24日に行われたモレノ=オカンポICC検察官による記者会見(ICC配信動画。30分)
http://www.youtube.com/watch?v=0-WYkNYXvug

同記者会見内容を報じたデイリーネーション記事
http://www.nation.co.ke/News/politics/Ocampo+to+probe+police+killings+/-/1064/1313332/-/5c76as/-/index.html

キバキ大統領は23日のうちに、「この件への政府対応を決めるため、司法長官Attorney Generalに命じて諮問のための委員会を設立する」との方針を発表しました。これを受けてムイガイGithu Muigai司法長官は、10名の諮問委員会を設立する一方、現職のケニヤッタ副首相兼財務大臣とムザウラ公務員長官兼官房長官については「現段階では、解任の必要はない」との見解を24日に表明しました。

ムイガイ司法長官の見解を報じたデイリーネーション紙記事
http://www.nation.co.ke/News/Uhuru+Muthaura+to+stay+in+office+AG/-/1056/1313004/-/13p22k3/-/index.html

今後のポイントとして挙げられるのは、以下の2つです。

1つが、副首相らが現職にとどまるか否かです。設立された諮問委員会がいかなる選択肢を政府に示すのかが注目されるのはもちろんですが、解任などの実施にあたっての大統領、首相の政治判断が重要になってきます。現在のケニアは2007/8年紛争調停による暫定政権下にあり、閣僚人事をはじめとする重要な決定は、キバキ大統領が単独で行うのではなく、とオディンガRaila Odinga首相との協議と合意の上で行うことが定められています。


紛争調停を経て結ばれた、暫定政権設立に関する合意文書
http://www.dialoguekenya.org/docs/Signed_Agreement_Feb281.pdf

閣僚人事でキバキ大統領とオディンガ首相の協議と合意が必要と定めた「国民調和と和解法The National Accord and Reconciliation Act, 2008」
The National Accord and Reconciliation Act, 2008, Kenya Gazette Supplement No.20 (Acts No.4) Nairobi:Government Printer.
(ここに上記の法律名を入力して検索すると本文を閲覧できます)http://www.kenyalaw.org/kenyalaw/klr_home/

暫定政権樹立に関連する憲法改正
Constitution of Kenya (Amendment) Act, 2008, Kenya Gazette Supplement No.19 (Acts No.3), Nairobi 18th 2008, Nairobi: Government Printer.

実はケニアは、今年後半から来年3月にかけて総選挙を控えています。キバキ大統領は憲法の3選禁止条項のためもはや出馬できませんが、オディンガ首相は自身が大統領選挙の最有力候補でもあります。そして、23日の決定によりICCの被告人となった現職閣僚のケニヤッタもまた、大統領選挙の有力候補の一角を占めています。

上述したように、暫定政権の取り決めにより、閣僚の解任はキバキの一存ではできず、常にオディンガとの合意の上で実行されます。ケニヤッタの副首相職/財務大臣職の解任という決定は、単なる「閣僚の解任」にとどまらず、「総選挙直前に、有力候補の一方(オディンガ)が、別の有力候補(ケニヤッタ)の閣僚職を奪った」、という意味をも孕むことになります。ICC被告人の現職を解くか否かという問題は、来たる大統領選挙にも少なくない影響を及ぼすことになります。

もう一つの見るべきポイントが、まさにこの総選挙との関連です。現職閣僚の解任か否かという問題と並び、「ICC被告人が大統領選挙や国会議員選挙への立候補資格を有するかどうか」が、ケニア国内では重要な争点となっているのです。被告人となった4人のうち、現在、大統領候補への出馬の意向を表明し、かつ有力候補にもなっているのは、上で述べたケニヤッタ副首相と、そしてルト国会議員です。

新憲法(2010年制定)では、国会議員については「有罪が確定し6カ月以上の投獄に(立候補届出日もしくは総選挙投票日時点で)処せられている場合」は立候補資格がない、と明示されています(第99条)。が一方、大統領の立候補資格については、その定めはありません(第137条。2011年選挙法The Elections Act, 2011の定めも同じ)。

ケニア新憲法はこちらからダウンロードできます
http://www.kenyalaw.org/klr/index.php?id=741&0=
http://www.communication.go.ke/default.asp
http://www.parliament.go.ke/index.php?option=com_docman&task=doc_details&gid=460&Itemid=

2011年選挙法はこちらからダウンロードできます
http://cickenya.org/sites/default/files/Acts/THE%20ELECTIONS%20ACT_0.pdf

一方で新憲法には、公職に携わる者の資質と責任に関する第6章「リーダーシップと高潔性integrity」(第73~80条)があります。「人道に対する罪」を犯したとしてICCの被告人となっているケニヤッタ副首相とルト国会議員が、この「高潔性条項」に抵触しているのか否か。もちろんケニヤッタ副首相は出馬の意向を変えていませんが、その一方でたとえば司法大臣が「彼らは立候補資格を有しない」との見解を明らかにするなど、政府内でも見解は一致していません。

オディンガ首相(とキバキ大統領)により、ケニヤッタが副首相、財務大臣の職を解かれるか、解かれないか。また、いずれの場合にしても、ケニヤッタとそしてルトという、オディンガに対抗する有力候補が大統領選挙に出馬するか否か。出馬が禁じられる場合、それはどの機関によるどのような決定の結果としてそうなるか。

2012/13年の実施が予定されている次回総選挙は、未曾有の紛争につながった前2007年総選挙から5年を経て、初めて実施される極めて重要な選挙です。ケニヤッタとルトの大統領選出馬/非出馬とその経緯は、選挙そのものの正統性を左右するだけでなく、ケニアの政治的安定に直結する重要性を持っています。今後の行方が注目されます。

(2012年1月25日記)