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肥料安全保障とアフリカ

アフリカ情勢

地域研究センター 平野 克己
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2012年5月
わが国のアキレス腱である資源問題とアフリカ政策はとても深く関係している。最近ではレアメタル、とくにレアアースの調達問題が耳目を集めているが、忘れてはならないもののひとつに肥料がある。

肥料製造のための原料はリン酸肥料がリン鉱石、カリ肥料がカリ鉱石である。窒素肥料はアンモニアだが、アンモニアの合成にはおもに天然ガスが使われるので実質的な原料は天然ガスだ。

リン鉱石とリン酸肥料の世界最大の生産国は中国である。中国におけるリン酸肥料生産の拡大スピードはすさまじく、1990年代になると輸入依存が急速に減って2007年から輸出超過の局面にはいった。しかし翌2008年からは、国内消費を優先させるためリン鉱石やリン酸肥料に100%をこえる輸出税が課せられるようになって、輸出抑制がはかられている。

中国に次いで第2位のリン鉱石産出国であるアメリカでは資源が枯渇しつつあり、すでに禁輸措置がとられている。それでもアメリカはリン酸肥料については依然最大の輸出国であって、第2位はロシアであるが、両国とも輸出量は減少気味だ。日本は中国からリン鉱石を輸入してきたが、現在は南アフリカやモロッコからの調達に代替しつつある。日本のリン酸肥料生産は1970年代にくらべると半減しており、輸入依存度が50%まで高まった。

カリ鉱石の53%はカナダに埋蔵されていて、カリ肥料の生産・輸出ともカナダが首位、第2位はやはりロシアである。日本はカリ肥料の供給を輸入にあおいでおり大半はカナダから調達している。一方窒素肥料にかんしては、日本は1960年代まで輸出国であったが1973年のオイルショック後は急速に生産が減退、現在は20%ほどを中国などからの輸入にたよっている。

肥料原料の価格は2008年に急騰しているが、これは穀物価格全般が騰貴した年だ。ここから業界が動きだす。2010年、資源メジャーのBHPビリトンがカナダの肥料大手ポタシュ社に買収をしかけた。これはカナダ政府によって阻止されたが、翌2011年にはロシアのカリ肥料大手2社が合併、さらにはベラルーシの肥料企業を傘下におさめるべく国をあげての工作がはじまった。リン鉱石もカリ鉱石も賦存が偏在している資源だが、カリについては、カナダに次ぐロシアとベラルーシをあわせるとその埋蔵量は世界の30%に達する。鉱物資源と同様カリ資源についても寡占化が進んでいるわけで、カリ肥料の原料となる塩化カリの販売はカナダのカンポテックス社と、ベラルーシに本社をおくベラルシアン・ポタシュ社に集約されて、いまやこの2社の売り手独占といってよい状況だ。リンとはうってかわってカリにおいては世界最大の輸入国である中国は、ベラルシアン・ポタシュ社からの購入に多くをたよっているが、カリ権益を確保しようとベラルーシ肥料業界への資本進出を模索している。

日本が考えなければならないのは、日本農業が収益力のある産品ポートフォリオと効率的な生産体制を構築していくにあたって絶対的に必要な肥料の安定確保だろう。食料安全保障のほうは、日本が必要としている農産品の供給国とのあいだで安定的な貿易関係を維持していくことのほかないが、国内農業の再構築のためにはちがう方途がいる。かつては輸出産業であった窒素肥料においてさえ国内生産が減退して肥料全体の輸入依存が高まっている一方で、中国はじめ新興国における肥料需要の拡大スピードに世界の供給量がおいついていない。一方では供給の寡占化が進行している。こういった状況をみると、北アフリカの肥料・肥料原料輸出国との関係強化が今後日本にとって重要になってくる。

2011年に双日、住友商事、東洋エンジニアリング、三菱重工の4社連合がアンゴラでの肥料工場建設を受注した。同国の天然ガスを使ってアンモニアと尿素を生産するというものだ。今年にはいってからナイジェリアの尿素肥料会社ノートルと三菱商事が新規工場を建設することで合意している。日本企業による開発途上国での肥料工場建設はアフリカ以外でもはじまっているが、高い技術力をもちながら国内市場の縮小と国内生産の競争力低下で利益をだせなくなっているという事情は、日本の産業全般に通じる。こうやって果敢にうってでることで、日本の技術は収益力を回復できる。

アフリカにおける貧困問題の元凶である農業の低開発を克服するにはアフリカ諸国政府の強い政策意思が必要である。その意思があるかどうかは、20年ぶりに謳歌している経済成長のなかで手にした資源収入を農業投資にまわしていけるかどうかでわかる。さらには、潜在的には膨大であるはずのアフリカの肥料需要をみこんで、日本にかぎらず民間投資が動きだしている。

私は、いま日本に必要なもののひとつにアグリビジネスの創設があると思っている。農水省が永年にわたって保護してきた農家は老齢化し、近々生産現場から退出する。彼らにかわって日本の農業を担っていく新しい生産主体を支えるには「肥料安全保障」が欠かせない。肥料の国内市場が縮小し国内生産が競争力をうしなったいま、これから市場が成長していく開発途上国で日本の技術を展開すれば、そこから収益をうみだすことができる。それがひいては、日本と世界の食料安全保障に資するのである。