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新興国の成長パターン:南アフリカの通貨高

アフリカ情勢

地域研究センター 平野 克己
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2012年3月
2011年4月、中国海南島で開催されたBRICs首脳会議に南アフリカのズマ大統領が招待され、南アフリカを加えた「ニューBRICS」が誕生した。

ブラジル、ロシア、インド、中国はまさに新興国を代表する存在だ。しかし南アフリカの経済規模はこれらの国々に遠くおよばない。中国のGDPは5兆ドル、ブラジルは2兆ドル、インドとロシアは1兆ドルをこえているが、南アフリカのそれは約3600憶ドル(2010年)であって、1兆ドルのメキシコや7000億ドルに達しているトルコ、インドネシアに適わない。人口も5000万人で、やはりインドネシア、メキシコ、トルコより小さい。南アフリカの経済や人口の規模は、アジアでいうとタイと同じくらいである。

ではなぜ南アフリカが選ばれたのか。ひとつにはこの国がアフリカを代表する経済大国だからだ。南アフリカのGDPはサブサハラ・アフリカ(サハラ砂漠以南の非イスラーム諸国圏)のおよそ3割、アフリカ全体の2割を占めている。南アフリカに次ぐエジプトやナイジェリアのGDPは2000億ドルほどだからアフリカでは断トツだ。BRICSグループに経済成長いちじしいアフリカをとりこむという狙いが、南アフリカ加盟にはあったのである。

とはいえ南アフリカのドル建てGDPはここ数年で3倍以上になっており、世界総生産に占める割合も、2002年の0.3%から2010年には0.6%にまでほぼ倍増している。「南アフリカ経済はなぜ急成長しているのか」という質問は、われわれの研究所にもしばしば寄せられる。

世界各国の経済規模を見比べるには共通の尺度がいるが、いまわれわれが使っているのは米ドルというモノサシだ。各国の通貨で測られたものをドルに換算して、それで大小を判定している。だがこれは、固定相場制の時代ならまだしも、値札をつけかえるのとはわけがちがってむずかしい。

日本を例にとろう。もともとの国内統計で2000年以降の日本の経済成長率を計算すると、名目で年率0.3%、実質では0.8%になる。しかしドルに換算された国連統計を使って名目成長率を出すと3.3%だ。1人当たりGDPは名目ドルで測るから、これが国際社会で認知される日本の姿ということになる。ちなみに国連統計にはドル表示の実質GDP値もあるが、これはあまり意味のある数字ではない。インフレやデフレは各通貨にまつわる各国バラバラの現象であり、ドルで実質化できるのはアメリカだけだからである。国連の実質ドル統計では日本のGDPは中国のGDPよりいまだはるかに大きい。基準年(現在の統計では2005年)のドル換算値に、各国が出している実質経済成長率をかけあわせてつくったのが実質ドルのGDP統計だから、時間がたてばたつほど実態から離れていってしまう。実質ドル統計というのはいわば強引につくりだした産物であって、現状を語っているものではないのだ。

開発途上国の経済開発のパフォーマンス比較、ある国がいまどのあたりまで発展しているか、あの国とこの国とではどちらのほうが大きいか小さいかは、すべて名目ドルで測る。となると、問題は各国通貨の為替である。為替が高いか低いかでドル換算GDPの大きさが左右される。
表 BRICS諸国の経済成長率比較
  実質経済成長年率
(現地通貨建て)
名目経済成長年率
(ドル建て)
為替上昇
ブラジル 4.1 20.4 66.0
ロシア 5.1 21.3 3.2
インド 8.5 16.0 6.3
中国 11.2 20.1 1.2
南アフリカ 3.9 12.2 44.0
日本 0.8 3.3 42.8
(出所:国連統計より作成)

上の表にBRICS諸国の経済成長率を、資源高が始まった2003年から2010年までの平均年率として、現地通貨建てとドル建て双方で算出してみた。中国元はドルペッグされているので為替がほとんど変化していない。今世紀に入ってからの中国の経済成長率は、元建て名目で16.5%、元建て実質で11.2%、名目ドルでは20.1%である。中国の経済成長は国内生産の拡大が源なので、元建てもドル建ても高い値になる。

一方南アフリカをみてみると、現地通貨であるランド建て統計から算出した実質経済成長率は3.9%だが、名目ドルのGDP数列をもとにすると12.2%になる。私も南アフリカに住んでいたので実感としてわかるが、3.9%という数字は妥当なところだ。アジアの開発途上国なら不況期の数字だろうが、南アフリカの経済実態はそんなところだ。

しかし国際社会からみられている南アフリカの姿は、BRICSの一員として認められた成長いちじるしい新興国である。さきに述べたように2000年以降南アフリカのドル表示GDPは3倍増したのだから、そうみられても不思議はない。

いったい年率12.2%という成長率はどこからきたのか。それは、通貨ランドが43%も騰貴したからである。じつはブラジルの事情も似ている。ブラジル自身の実質経済成長率は年4.1%だが、通貨レアルの為替が66%も上昇したので、名目ドルのGDPは20.4%のスピードで急拡大してきたのである。

アジアとちがってアフリカやラテンアメリカの開発途上国は、歴史的にみて資源価格が高いときにしか経済成長しない。資源高になるとまずおこるのが通貨高である。国内生産が増える前に通貨が高くなるのである。しかし「単なる通貨高か」と侮ってはいけない。通貨の価値が高くなることは経済発展の最終目標だとさえいえる。自分たちが稼ぎだし、給料がそれで支払われている通貨の価値があがって、世界中からものを安く買えるようにならなければ、生活水準はよくならない。そのことをわれわれ日本人は身をもって知っている。

しかし一方で通貨高は輸出競争力を弱くする。かつて北海油田の発見で天然ガスの輸出国になったオランダは、当時の国内通貨ギルダーが騰貴して製造業や農業の輸出が後退してしまった。「オランダ病」といわれた現象だ。製造業製品ほどではないが、資源においても輸出が不利になる。南アフリカの石炭はインド市場でインドネシア産石炭に負けつつある。価格競争力がカギを握る製造業に依存してきたアジア諸国は、だから通貨安誘導を行ってきた。豊かになることを後回しにして輸出を優先させたのである。いまの中国も同じだ。

ユーロやドルが弱含みの現在、アフリカの通貨は強くなっている。アフリカにとって次なる課題のひとつは、高くなる通貨にどうやって耐えるかなのである。