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論考:スィースィー政権はエジプトに持続的成長をもたらすか

中東レビュー

Volume 5

2018年2月発行

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概要
はじめに

エジプト経済は、2011年「1月25日革命」によって失速した。政治と治安が混乱するなか、計2年半にわたって平均所得がマイナス成長になるなど、2011年以降の経済低迷は深刻かつ長引いた。

経済低迷要因の一つと考えられていた政治的な混乱は、2013年7月のムルスィー大統領の追放を機に鎮静化に向かった。再び政治権力を握った軍の管理下で2度目の政治移行が開始され、憲法改正(2014年1月)、大統領選挙(2014年5月)、議会選挙(2015年11~12月)が実施された。そして、2016年1月に新議会が招集されたことで政治移行は正式に完了し、エジプト政治は「正常化」した1

治安面では、現在(2017年11月)もシナイ半島北部での過激派掃討作戦は続いているが、その他の地域でのテロは散発的になっている。都市部での治安組織やコプト教会をターゲットとする爆弾テロが一掃されたわけではないが、経済活動に支障をきたす脅威にはなっていない。治安問題は、依然として懸念される要素ではあるが、その中心はシナイ半島北部で、またテロ集団の主な対象は治安組織(警察、軍、治安機関)であり、経済活動の妨害を主要な目的とするようなテロはほぼなくなった。

以上のように、第2移行期(2013年7月~2015年12月)の進展とともに、経済活動を阻害するような政治と治安の混乱は鎮まった。現在では、スィースィー政権の発足から3年半が過ぎ、政権運営も安定している。強権的な政権に対する人権NGOなどからの非難の声はあるものの、少なくとも表面上は国土の大部分で通常の日常生活が戻っている。

しかし、経済はいまだ十分に回復していない。2014年6月に発足したスィースィー政権は、経済再建を目的として、発足当初から財政赤字の削減や社会保障制度の見直しといった経済改革を実施したが、速やかな経済復調に結びつかなかった。むしろ、2016年11月の一連の経済改革によってインフレ率が急上昇し、国民の多くが再び経済的な困難に直面した。

エジプト経済は、大胆な改革に伴う現在の苦境を乗り越えれば、停滞を脱するだろうか。言い換えれば、スィースィー政権は今後成長期を迎えるだろうか。本稿では、統治と開発政策の観点から、スィースィー政権の中長期的な経済成長の見通しを考察する。なかでも、持続的な経済成長に不可欠とされる「包括的」な政治・経済体制の構築について、スィースィー政権の施策と現状に注目し、エジプトの持続的経済成長を展望する。

以下、第1節で統治手段、第2節で経済政策を検討する。そして第3節でスィースィー政権での経済開発の枠組みと持続的成長への見通しを考察する。

脚注
  1. ここでの「正常化」とは、有効な憲法の下、正式な大統領(行政)と議会(立法)が存在する状況を指す。