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論考:イスラエル経済の構造変動の現段階 第Ⅱ部:産業政策と「起業国家」モデル

中東レビュー

Volume 5

清水 学 著

2017年10月発行

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概要

はじめに

第Ⅰ部で述べたように独立以降のイスラエル経済を大きく分けたのは1985年の中央銀行改革を軸とする新自由主義的経済体制への転換であった。イスラエル経済は1970年代後半以降、一種の行き詰まり現象が見られるようになり、高インフレと証券市場の混乱に直面した。当時米国を中心にケインズ学派から新自由主義への「パラダイム転換」が進展していたが、この新潮流はイスラエルの経済学者にも影響を及ぼし始めていた。それを背景とする新自由主義の導入には米国の圧力と支援も大きく寄与したが、この転換は摩擦を伴いながら、各種経済規制の緩和とヒスタドルート(労働総同盟)の影響力後退を伴った。このマクロ政策の枠組み転換が、民間資本の活動と海外資本の参入の条件を改善したことは事実であるが、新自由主義的改革の導入が常に民間資本を主体とする経済発展に結びつくわけではない。また同時期に国際的に進展し始めた貿易・資本のグローバル化に対応し得る経済主体が自然に生まれるわけではない。企業形態とガバナンス、労働力の質と労働市場、資本市場と資本調達、技術水準、海外を含む販売市場などの条件の総合的作用によって、その転換が成功する。イスラエルの場合、前世紀末頃からIT/ICT部門および軍事技術のスピルオーバーと見られる産業分野での存在感が目立つようになり、さらにベンチャー企業の叢生も注目されるようになり、「起業国家」の一つのモデルとして注目されるようになった。そのなかでイスラエル経済は先進国型に移行し、2010年8月にはOECDのメンバー国として受け入れられた。ここでは新自由主義的環境が整備されるなかで、具体的な産業発展のありかたを規定した条件とその指導的技術産業の特徴を検討し、「起業国家」のモデル性とその制約条件の模索を試みることを課題とする。