アラブ首長国連邦の対イラン経済関係と今後の展望

中東レビュー

Volume 3

齋藤 純 著
2016年3月発行
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概 要

はじめに
2015年7月に達成されたイラン核合意と2016年1月の核協議の合意実施を受け、対イラン経済制裁の段階的な解除に向けて拍車がかかることになった。このような状況の中、アラブ首長国連邦(United Arab Emirates: UAE)をはじめとする湾岸アラブ諸国は、イラン市場の開放を見据えてどのように対応しつつあるのだろうか。歴史的・地理的な関係性の強さから、長年イランとの貿易取引を行ってきたUAEにとって、対イラン経済制裁の解除は、石油価格が低迷する現状からの経済回復に向けて大きな弾みとなると期待されている。他方で、経済制裁の解除は、イランの国際経済への復帰を促し、ペルシャ湾岸地域における経済的存在感と周辺への影響力を増大させるという警戒感も根強くある。

本論考では、湾岸アラブ諸国の中でもイランとの密接な経済関係を維持し続けてきたUAEを対象に、これまでのイランとの経済関係の変化の状況を整理し、今後の展望について考察を行う。両国間の経済関係を観察するうえで特に着目するのは貿易関係と労働者送金である。2000~2014年を対象に、対イラン経済制裁が強化され、その後のイランを取り巻く状況変化に対して、UAEとイラン間の貿易取引と労働者送金がどのように変化したかに焦点を当てる。

本論考の構成は以下の通りである。第1節では、近代以降におけるUAEとイラン経済関係の素地について整理する。後節で具体的なデータ分析を行う前に、UAEとイランの歴史的な経済関係についてまとめる。第2節では、貿易関係と労働者送金の2つの視点から、両国の経済関係の変化を概観する。最後に、UAEとイラン間のこれまでの経済関係についてまとめ、対イラン経済制裁が解除された後、両国間の経済関係がどのように変化しうるかについて議論する。