アジア経済
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論文
抑圧のミスマッチ――2000年代後半のエジプトにおける政治的抑圧と抗議行動――
上野 祥
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2024 年 65 巻 1 号 p. 29-56

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抄録

なぜ権威主義体制において政府が抑圧によって大規模抗議行動の発生を防ぐことができない場合があるのだろうか。この問題に対し,本稿は「抑圧のミスマッチ」という視点を提示する。政府が主張と動員能力の両面で脅威と認識する反対派がすでに存在する場合には,主張と動員能力の両面で相対的に脅威が小さいと判断される反対派が新たに登場しても,政府は後者を脅威として認識しない。その結果,後者による大規模抗議行動が発生しやすい状況が形成されるのである。本稿は新聞記事や人権団体の報告書を用いて2000年代後半のエジプトにおける政府高官の脅威認識と抑圧の状況を分析した。その結果,政府がムスリム同胞団を脅威として認識する一方で,当時活発化していた抗議行動の中心となった活動家たちを脅威として認識していなかったこと,その結果後者への抑圧の程度が小さくなり,後者による抗議行動が1月25日革命に結びついたことを明らかにした。

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© 2024 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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