資料紹介:Do Refugee Camps Help or Hurt Hosts? The Case of Kakuma, Kenya

アフリカレポート

No.56

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050438

 資料紹介:Jennifer Alix-Garcia, Sarah Walker, Anne Bartlett, Harun Onderd, and Apurva Sanghie, "Do Refugee Camps Help or Hurt Hosts? The Case of Kakuma, Kenya"

■ 資料紹介:Jennifer Alix-Garcia, Sarah Walker, Anne Bartlett, Harun Onderd, and Apurva Sanghie, "Do Refugee Camps Help or Hurt Hosts? The Case of Kakuma, Kenya"
福西 隆弘
■ 『アフリカレポート』2018年 No.56、p.82
(画像をクリックするとPDFをダウンロードします)

難民の受け入れは、特に先進国でその是非、規模、受け入れ態勢を巡って鋭く対立する問題となっており、政権選択にも強い影響を与えている。不正確な情報に基づいた議論を補うように、難民の流入が受入国の雇用や賃金に与えた影響を分析する実証研究は増えている。では、アフリカでの難民受け入れは、どのような経済的影響を及ぼすのか。本論文は、ケニア北部のカクマ難民キャンプを対象に、キャンプ近隣のトゥルカナの村々を分析している。

難民の流入が及ぼす影響について、本論文では労働市場と財市場の二つのルートを考慮している。彼らは雇用を求める労働者(または起業家)であるとともに、財やサービスを購入する消費者でもあるので、前者として労働と財の供給を増やし、後者として需要を生み出す。供給の増加は受け入れ地域の労働者や生産者との競争を生み、需要の増加は雇用機会と顧客を増やす可能性がある。他方で、難民とともに大量の援助物資が流入するため、それらが地元の市場にも流れると農産品などの価格が下がる可能性もある。つまり、難民流入の影響は、難民による労働と財の需給、および援助物資が地元市場にどの程度流れるかによる。

本論文は、衛星でとらえた夜間の光量を利用して、難民の数が増えるほど、また難民キャンプに近い村(特に10km以内)ほど経済活動が活発になることを示している。さらに、難民キャンプに近い村では賃労働で収入を得る家計が増えること、難民の数が増えると近隣の市場で家畜の価格が上昇することを示し、難民が主として地元市場の需要を増やしていることを報告している。

この結果はそれほど驚きがないように思われる。カクマでは難民がキャンプ外で就労することが禁止されており、地元市場で労働供給が増えることはそもそも想定されていない。難民をキャンプに収容する方法が効果を表していると解釈できるので、本論文は、制度設計によって受け入れ地域の経済的負担を減らせることを明らかにしたと評価できる。他方で、難民を受け入れ地域に統合する方法では負担が増えるのだとすれば政策的に重要な意味を持つので、実証の積み重ねが待たれる。なお、本論文はミクロ経済実証の研究としては因果関係の識別についてかなり甘いとの印象を受けるが、それでも定評のある雑誌に掲載されたということは、途上国における難民受け入れ問題の重要性が評価されているのかもしれない。

福西 隆弘(ふくにし・たかひろ/アジア経済研究所)