資料紹介:ジハード大陸――「テロ最前線」のアフリカを行く――

アフリカレポート

No.56

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050436

資料紹介:服部 正法 著『ジハード大陸――「テロ最前線」のアフリカを行く――』

■ 資料紹介:服部 正法 著『ジハード大陸――「テロ最前線」のアフリカを行く――』
■ 岸 真由美
■ 『アフリカレポート』2018年 No.56、p.80
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2013年1月、アルジェリアの天然ガス精製プラントでイスラム過激派の人質拘束事件が起き、日揮関係の社員など日本人10人が犠牲になった。この事件は、遠くの出来事に思えていたテロが日本人も対象になると認識させられた事件だった。

アフリカ大陸は、イスラム過激派(本書では「ジハーディスト」と呼ぶ)との戦いの最前線である。ソマリアを本拠地とし、ケニアでショッピングモールや飲食店などの襲撃事件を起こしているアルシャバブ、マリ北部で勢力を伸ばすアルカイダ系組織アンサル・ディーン、ナイジェリアで女子生徒200人以上を誘拐したボコ・ハラム――。本書は毎日新聞社の元アフリカ特派員である著者が4年にわたって取材を行い、アフリカで勢力を伸ばすイスラム過激派の実態に迫ったルポルタージュである。

アルシャバブの場合、著者はソマリアのモガディシオ、ケニア北部のガリッサなどでの取材から、国境を超えて活動するイスラム過激派のネットワークを明らかにする。戦闘員への若者の勧誘と資金獲得の仕組みは国境を超えて機能している。ソマリ系住民が多数を占めるガリッサでは、勧誘がソマリ系のみならず、非ソマリ系の住民にも及んでいるという。勧誘を支えるのは洗脳とカネである。外部との接触を断ってイスラムの敵を攻撃する「聖戦」の意義を繰り返し教え込みつつ、参加する戦闘員に多額の報酬を提示する。ジハーディストの勧誘の手は、ケニアの首都ナイロビの、失業率が高いスラム街にも伸びる。その資金源は、ソマリアから湾岸諸国に輸出される木炭、ケニアに密輸される砂糖である。ほかに象牙の輸出や中古日本車の輸入、麻薬取引も資金源になっている。実は砂糖の密輸にはケニア軍関与の疑いもあるとのことだ。

アルシャバブに限らず、アフリカ各地で起こるイスラム過激派の事件を理解するには、点ではなく線で見る必要がある。マリのイスラム過激派に対するフランス軍の介入は、冒頭のアルジェリアの事件とつながっている。過激主義が広がる土壌は宗教問題ではなく、過酷な貧困と格差や権力の腐敗である。本書はイスラム過激派を深く理解するための好著である。ぜひ手に取ってほしい。

岸 真由美(きし・まゆみ/アジア経済研究所)