資料紹介:海賊の世界史――古代ギリシアから大航海時代、現代ソマリアまで――

アフリカレポート

No.56

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資料紹介:桃井 治郎 著『海賊の世界史――古代ギリシアから大航海時代、現代ソマリアまで――』

■ 資料紹介:桃井 治郎 著『海賊の世界史――古代ギリシアから大航海時代、現代ソマリアまで――』
津田 みわ
■ 『アフリカレポート』2018年 No.56、p.16
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「海上で船を襲い、沿岸の町を略奪し、人びとを殺し、連れ去り、富を奪い去る存在」――本書は、広義の「海賊」をこう定義したうえで、タイトルにあるとおり古代ギリシアから現代ソマリアまで、それぞれの場所と時代における「海賊」のありようをたどる。古典を含む多様な文献にあたりつつ、海賊とそれを取り巻く人びとを描き出した筆致は臨場感にあふれる。しかも本書は単なる海賊伝にはとどまっておらず、そのことがこの本を――評者のようなソマリアの治安問題ひいてはアフリカ政治への関心から本書を手に取った読者にとっても――とりわけ魅力的なものにしている。

たとえば、前書きでこそ、現代のソマリア海賊を「犯罪者」と記している本書だが、本文を読んでいくと、著者の立場が単純な勧善懲悪とは異なり、何かを一方的に犯罪と断じるような態度とは一定の距離を保とうとしていることが分かってくる。古代ローマの時代、捉えられたある一人の海賊が、大王に対し、「私は小さい船でするので盗賊と呼ばれ、陛下は大艦隊でなさるので、皇帝と呼ばれるだけです」と述べたというエピソードが重要な場面で何度も引かれる。著者はこの逸話を、「普遍的な政治学のテーマである力と正義の問題をわれわれに投げかける」(p.13)ものだとし、海賊行為を「悪」と断罪して終わるのではなく、国家のような「大きい側」による暴力独占の「正しさ」は果たしてどの程度のものかを問い続けようとするのである。

そうした相対化の感覚に貫かれた本書では、海賊というキーワードを入り口に、現代におけるテロとの戦いとその正当性、主権国家体制の確立とそこからはみ出る人びと、近年の「国際社会」の成立と深化が同時に生み出す「国際社会外」に対する問題意識へと、考察が展開していくことになる。著者は、現代では国際社会に反する「人類共通の敵」として海賊もテロリストも「根絶が目指され」ているとしつつも、われわれは単に「大きい側」にいるだけではないか、と警鐘を鳴らすのである。本書はまた、イスラームの伝播、奴隷貿易の盛衰、植民地支配の開始などのテーマにも、海賊問題を通じた新しい角度で光を当てる。なお、前書きでは、本書で描かれる「海賊」とそれをとりまく世界史の展開がいずれも西洋史中心になっているとして詫びられているのだが、そんなところにもかえって著者のバランス感覚が読み取れて清々しい。多くの人に手に取ってもらいたい良書である。

津田 みわ(つだ・みわ/アジア経済研究所)