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資料紹介:"Identifying and Spurring High-Growth Entrepreneurship――Experimental Evidence from a Business Plan Competition――"

アフリカレポート

資料紹介

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00049296

■ 資料紹介:David McKenzie, "Identifying and Spurring High-Growth Entrepreneurship――Experimental Evidence from a Business Plan Competition――"
福西 隆弘
■ 『アフリカレポート』2017年 No.55、p.115
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ビジネスプランはあるが資金を持たない若手起業家たちに500万円を提供したら、彼・彼女らはビジネスを成長させることができるのか、そんなリスクの高いもしくは無駄遣いとも思える試みがナイジェリアで行われ、その結果を分析したのが本論文である。

この研究の背景には、アフリカに数多くある零細企業はほとんど成長していないという事実がある。それらが中堅企業へと成長すれば、生産性が向上して雇用が増え、持続的な経済成長を支えることが期待されるので、零細企業の成長はアフリカ諸国の政府にとって重要な課題である。零細企業は信用制約にあること、すなわち、零細ゆえに金融機関から市場利子率で融資を受けられないことが成長を阻害しているという説明は有力な仮説の一つであるが、実証研究は決め手を欠いていた。それは、成長に必要な資金をサンプルとして十分な数の企業に貸し付けるためには多額の費用が必要であり、因果関係の分析ツールとして定着したランダム化対照試行の実施が難しいためである。ナイジェリアで行われたプログラム(Youth Enterprise with Innovation in Nigeria)は、40歳以下の起業を志す者に対してビジネスプランを募り、特に評価が高かった475件と、上位10%のうち抽選で700件余りに対して、平均500万円の資金を供与する大規模なものであった。本論文は、これを利用して資金供与の効果を実証している。

抽選で資金を得た起業家と抽選に外れた者を追跡調査した結果、3年後の時点で、資金を得た起業家が生き残っている確率は37パーセントポイント高かった。また、10人以上を雇用する企業になる割合は23ポイント高く、資金供与によって零細企業からの脱皮が進んでいる様子がうかがえる。さらに、資金の収益率は市場利子率を上回っているので、無駄に多くの資金を費やしているわけではないと著者は主張する。ただし、このプロジェクトは貸し付けではないので、厳密には信用制約を解消すれば成長するという結論は導けない。他方で、起業家への資金供与は、政策手段として零細企業の成長および雇用の増加に効果があると解釈できるであろう。

評者が驚いたのは、資金を持ち逃げした起業家がほとんどいない(と思われる)ことである。国家事業としてジョナサン大統領(当時)も参加を呼び掛けたということであるが、それが効果的であったのだろうか。モラルハザードの検討も、政策効果の分析には重要であると思う。

福西 隆弘(ふくにし・たかひろ/アジア経済研究所)