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資料紹介:ハイパー・インフレの人類学――ジンバブエ「危機」下の多元的貨幣経済――

アフリカレポート

資料紹介

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00049291

■ 資料紹介:早川真悠 著『ハイパー・インフレの人類学――ジンバブエ「危機」下の多元的貨幣経済――』
佐藤 千鶴子
■ 『アフリカレポート』2017年 No.55、p.110
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2000年代後半、ジンバブウェは、ハイパー・インフレという未曽有の事態に見舞われた。1日に2度、3度とモノの値段が変わり、店頭からはモノが消え、ATMには長蛇の列ができた。バス代すら払えなくなった人びとは職場へ行くのをやめ、自宅近くで菜園を耕した。大勢の人びとがボツワナや南アフリカで働くために国境を越えた。本書は、ハイパー・インフレ最末期を含む2年あまりの間に首都ハラレで長期フィールドワークを行った著者が、この激動の時代を人びとがどう生きたのかについて、「お金」にまつわる数々のエピソードをもとに描き出したものである。

特に印象に残ったエピソードが2つある。ひとつは、ハイパー・インフレという尋常ならざる状況で起きた逆転現象である。通常は公務員やサラリーマンの方が、日銭を稼ぐ露天商より経済的には裕福である。だが、2008年6月頃からジンバブウェ・ドル(ZD)紙幣の現金が著しく不足するようになったため、預金の引き出しが極度に制限された。大打撃を受けたのは銀行振込みで給与を受け取っていた公務員やサラリーマンである。他方、こういった措置の影響を受けなかった露天商は彼(女)らよりも「はるかに豊かな生活を送ることができた」(p.114)という。

もうひとつは、外貨(米ドル)を闇両替するときに、ZDを銀行振込みで受け取るか、現金で受け取るかによって全く異なる交換レートが用いられることを利用した荒稼ぎのエピソードである。現地の言葉で「カネを焼く」と呼ばれるこの行為は、2008年6~10月に大流行したそうである。まず、少額の外貨を闇両替しZDを銀行振込みで受け取る。その後、数日かけて辛抱強くATMからZDを引き出す。今度はそのZD現金を外貨に闇両替する。こうすると、たとえば1米ドルの元手が4500ZDの預金となり、それを引き出した4500ZDの現金が5米ドルに化けるのである。そもそも闇両替自体が違法で、「カネを焼く」という行為に後ろめたさを感じる人もいたそうだが、困難な状況の中で生まれた妙案に感心するばかりだった。

本書は「お金」に焦点を当てているため、お釣りとして使われる小額紙幣(といっても額面は500億!)を含めたZD現金の不足問題については扱っているものの、ハイパー・インフレ下で現金不足とおそらく対をなしていたであろうモノ不足の問題についてはあまり述べられていない。しかしながら、ハイパー・インフレを単に混乱と無秩序の時期とするのではなく、混乱のなかで人びとが取った行動に一定の合理性を見出し、新たな価値規範を模索する様子を描いた本書は、ハイパー・インフレ期のジンバブウェを理解する上での必読書である。

佐藤 千鶴子(さとう・ちずこ/アジア経済研究所)