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資料紹介:自然は誰のものか——住民参加型保全の逆説を乗り越える——

アフリカレポート

資料紹介

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00049289

■ 資料紹介:山越言・目黒紀夫・佐藤哲編著(シリーズ総編者 太田至)『自然は誰のものか——住民参加型保全の逆説を乗り越える——』
佐藤 章
■ 『アフリカレポート』2017年 No.55、p.108
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アフリカでは象牙めあての密猟が深刻だとよく耳にする。同時に、同じアフリカの中でも、保護によって増加したゾウによる農業被害に直面する地域もあると聞く。どちらも自然保護をめぐる現実なのだろうが、なぜこのように正反対な状況が生まれるのだろうか。またそれを見る一人の人間としては、ゾウの側につくか、農民の側につくかといった態度をどのように決めたらよいのだろうか。こういった素朴な疑問に正面から答えてくれるのが本書である。

「アフリカ潜在力」全5巻シリーズの最後を飾る本書は、アフリカにおける自然保護が直面する今日的状況について、理論、経験、実践の面から詳しく論じている。編著者たちの指摘によれば、現在のアフリカは、住民への配慮なしに動物の保護ばかりを優先した「要塞型保全」アプローチへの反省を踏まえ、「住民参加型保全」がキーワードとして語られる時代にあるという。「住民参加型」というキーワードは、動物も住民も当該国政府も外部者もみなハッピーになるかのような語感を漂わせもするものだが、実は、この「住民参加型保全」こそ、「幾重にも逆説を含んだ実践」(p.297)なのだということを、本書は詳しく具体的に説明してくれる。保護区観光から得た収益を住民にどのように分配するか。保護区の管理・運営に関わる意思決定はどのように行うのか。資金提供者はだれで、その意向がどの程度保護活動の方針を左右するのか――各国、各保護区でそれぞれに異なる状況があり、利害を異にする様々な人々の思惑が交錯している。アフリカの自然保護を考えるうえでは、何らかの画一的な態度表明に飛びついてしまうのではなく、まず、個々の場所で生じている事態を具体的に知ることが重要なのだと知った。

編著者はそれぞれの見地から保護の現場に立ち会い、実践もされている方ばかりである。本書は理論面の知見を手厚くとりいれた作りであるが、理論的な問題意識の大元には、そもそも編著者が自身の調査やプロジェクトで実際に直面した試行錯誤や自問自答がある。そのエピソードが随所にふんだんに盛り込まれているところがなんといっても面白い。アフリカの自然や保全に関心を持つ方々を、広く、深く、アフリカの土地に誘う魅力に満ちた一冊である。

佐藤 章(さとう・あきら/アジア経済研究所)