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資料紹介:食と農のアフリカ史——現代の基層に迫る——

アフリカレポート

資料紹介

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00047667

■ 資料紹介:石川博樹・小松かおり・藤本武 編『食と農のアフリカ史——現代の基層に迫る——』
福西 隆弘
■ 『アフリカレポート』2017年 No.55、p.22
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本書を読んで、食にまつわる歴史はとても興味深いと感じた。食べることは人にとって最も重要な活動であるので、食は文化の中心であり、民族や国の伝統を象徴するものだと評者は思いこんでいた。ところが実際には、アフリカ大陸で主食として栽培されている作物の多くは、他の大陸からもたらされたものであり、主食の入れ替わりがしばしば生じている。本書によると、紀元前後にプランティンを含むバナナがアジアより東アフリカに到来したと推定され、その後、12世紀にアジアイネが同じくインド洋を渡り、大航海時代の16世紀に新大陸よりキャッサバとトウモロコシが持ち込まれている。他方で、加工方法にはアフリカ独自の発達が見られる例もあり、本書では、キャッサバの毒抜き方法の発達の歴史が示されている。

各論考を通じて、気候や土壌などの栽培条件だけでなく、必要な労働投入量、長期保存や運搬の容易さ、食味といった作物の特性が農民の求める条件に合致しているかどうかが、作物の伝播と普及に影響することが示される。さらに、農民の持つ栽培技術や加工技術が発達したり、味に対する嗜好が変化することによって、それまで受け入れられていなかった作物が普及する様子も明らかにされる。本書では、栽培だけでなく加工、調理も分析の対象としており、その結果、食の歴史研究にはさまざまな分析視角があることを伝えている。なお、取り上げられる作物は、上記の作物のほか、テフ、エンセーテ、ナツメヤシ、クローブ、ブドウなど幅広い。

作物普及の大きな歴史が描かれる一方、随所で、現代における農民の工夫や実践が紹介される。それらの記述は、アフリカの農民の先祖たちが、作物受容の過程で新しい作物や土地に悪戦苦闘し、創意工夫を凝らしたであろう事実を気づかせてくれる。また、本書の射程は現代にまでおよび、農業・土地政策や貿易、外国直接投資も取り上げている。非常に広範な時代、国、作物を対象に本書が示す多様な論点は、この分野の豊かな可能性を示しているように思う。

福西 隆弘(ふくにし・たかひろ/アジア経済研究所)