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時事解説: 抄訳:TICADプロセスの文脈におけるガーナのコミュニティベース保健強化——強靭な保健システム促進——

アフリカレポート

No.54

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■ 時事解説: 抄訳:TICADプロセスの文脈におけるガーナのコミュニティベース保健強化——強靭な保健システム促進——
■ Kweku Ampiah 訳: 牧野 久美子
■ 『アフリカレポート』2016年 No.54、pp.128-134
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2016年のアフリカ開発会議(TICAD)は、1993年の同会議開始以降、初めてアフリカの国での開催となった。それ以前のTICADはすべて日本で開催されたが、TICAD VIは8月27-28日にケニアのナイロビで開催された。アフリカでのTICAD開催は、2010年にアフリカ連合委員会がTICADの共催者になったことに伴い、決定されたものである。TICADプロセスにおけるこの重要な変化は、日本をはじめとする開発パートナーが、TICADイニシアティブにおけるアフリカのオーナーシップをさらに強化しようとしていることを示すものといえよう。

2013年のTICAD Vで採択された横浜宣言は、個人の安全と福祉の根源的な重要性を強調する人間の安全保障の概念を明確に打ち出した。これは、保健サービスの提供などを通じた、人道上の課題に対応する能力の強化によって到達可能な理念として理解される[Ministry of Foreign Affairs 2013]。それに関連して、またTICAD V以降にアフリカ諸国が直面してきた新たな課題への対応として、TICAD VIでは三つの優先分野が定められたが、その一つが「強靭な保健システム促進」であった。他の二つは、「経済多角化・産業化を通じた経済構造改革の促進」と「繁栄の共有のための社会安定化の促進」である。エボラ出血熱などの近年の感染症のアウトブレイクをはじめとする保健関連の危機を考えれば、高品質な保健サービスの提供を通じて、アフリカにおける保健衛生の改善に力を入れることの必要性が理解されよう。その実現のために、TICAD VIでは制度の強化と、「基礎的なサービス提供を改善するための有能かつ効率的で、責任があり、透明性を備え、公平さと説明責任のある保健システムの強化を通じた国と地域の能力強化」を行うことが合意された[Ministry of Foreign Affairs 2016]。

本稿は、TICADプロセスのなかで日本政府がアフリカの保健システム改善のために努力していることを示すプロジェクトに焦点を当てることによって、ナイロビ宣言の第二の柱として述べられている「質の高い生活のための強靭な保健システム促進」の理念を確認しようとするものである。ここで分析対象としてとりあげるのは、ガーナのアッパーウエスト州の「コミュニティベース保健計画サービス」(CHPS)の強化を目的として、国際協力機構(JICA)が2006~2010年に実施した地域保健強化プロジェクトである。CHPSは、最前線のスタッフである地域保健師(CHO)を通じて、「コミュニティのリーダーシップ、意思決定システム、諸資源を動員しながら、プライマリー・ヘルスケアの原則に基づいて、指定地域(「ゾーン」と呼ばれる)でサービスを提供する」[Ghana Health Service 2007, 53]ものである。

本稿がこのJICAプロジェクトに焦点を当てるのは、アッパーウエスト州の保健指標がガーナの他地域と比べて悪いためであり、JICAがこの地域をプロジェクト地として選んだ理由もそこにあると考えられる[JICA 2014]。また、JICAがアッパーウエスト州の保健サービスに関する行政能力の調整に(プロジェクトの本質として)力点をおいていることも、本研究の動機となっている。

具体的には本稿は、このプロジェクトにおいて日本が果たした役割を明確化し、JICAがその計画・実施において行った介入が、アッパーウエスト州の、またガーナ全体の保健行政に、どのようなインパクトを与えた可能性があるのかを検討する。その際、ガーナの保健システムにおける従来のモニタリング「装置」を見直すうえで、JICAが「支援型スーパービジョン」(FSV)を取り入れたことにとくに注目し、FSVを利用した活動管理によって、アッパーウエスト州の保健行政が改善したことを明らかにする[Aikins et al. 2013]。

要するに本稿は、ガーナの開発における国家(や政府機関)の役割を浮き彫りにし、開発のための基礎的なインフラ提供において国家が主導的な役割を果たすべきことを明らかにするものである。すなわち、以下の議論が示すように、日本の援助の実施機関としてのJICAは、この地域のガーナ保健サービス(GHS)の職員の行政能力の向上を支援した。Karima Saleh[2013, 59]がガーナの保健セクターに関する最近の研究で述べているように、「クリニックのパフォーマンス・スコアは、全体として、想定されている最高スコアよりも相当に低く、技術的な能力の欠如が広範にみられ、臨床ケアの質は基準以下である」ことを考えれば、こうした支援はなおさら必要なものであった。

このプロジェクトの力点が公務員(この事例では政府の保健スタッフ)の行政能力の開発と強化に置かれているという事実は、国家とそれに付随する機関がガーナの保健サービス、さらには開発全般において中心的な役割を果たすべきであることを、ドナー[=日本]が理解していることを示している。ここから、筆者は次のような主張を提示したい。すなわち、ガーナの保健インフラの既存の欠陥を踏まえれば、ガーナの保健システムが十分に機能するには、GHSとその下部機関が基礎的なサービス提供に必要な行政的・技術的な能力を備えることが必要だ、という主張である。この点で、ドナーとしての日本は、ガーナの保健システムの発展・強化の実現を支援する役割を担ったのであった。

ガーナの保健システムとCHPS
CHPSは、社会のあらゆるセクターを尊重するような形で、保健サービスのアクセスをめぐる国内の不平等を是正し、全体として効率性と公平性のバランスをとるべく、保健サービスの目的を見直す国家プログラムの一部である。CHPSはコミュニティベース、コミュニティ指向であることを特徴とし、コミュニティ自身がイニシアティブをとって地域の保健サービスを活用・強化することが重視されている。しかし、それと同時にCHPSは、GHSによって指揮されるという点では、国家の管理下にあるという側面ももつ[Nyonator et al. 2005, 28]。

何十年にもわたるGHSの保健政策、戦略、インフラの機能不全は、1980年代以降の世界銀行による改革で公的サービスの削減を余儀なくされたことでさらに悪化した。「保健システムの欠陥が、能力の深刻な制約をもたらし」、保健サービスへのアクセスは全般的に限定された[Aryeetey and Goldstein 2000, 290]。CHPSが導入されたのは、一つには、こうした状況があったからであった。1994年に始まったCHPSは、プライマリー・ヘルスケアのレベルを、準郡保健センターから、常設の保健インフラを欠くことも多い農村部へと設定・配置しなおした。より具体的には、CHPSは農村部における外来部門の利用率の低さ、妊産婦や乳幼児の死亡率や疾病率の高さに対処しようとするものであった。CHPSは、「コミュニティに対して、自分の健康に関する決定を自分で行い、健康をつくりだすのは何よりも世帯内の個人、とりわけ母親であることに気づくよう働きかけることによって、コミュニティレベルでのサービスを実現する手段」[Ghana Health Service 2005, 2]として理解される。

CHPSにおいては、地域の看護師がトレーニングを受け、地域保健師として人口3000~5000人の地域(ゾーン)を受け持つ。地域保健師は、クリニックを備える地域保健施設に駐在し、そこが当該ゾーンの住民に対してクライアント接近型の保健サービスを提供する拠点となる[Williams et al. 2015, 7]。地域保健師の基本的な活動は、家庭訪問を行い、簡単な医療処置、アドバイス、保健ガイダンスを提供することだが、場合によって患者を準郡保健センターや郡病院内のより専門的な医療機関に紹介することもあり、その意味で三層構造のガーナの保健サービスを強化する役割を担っている。

しかしながら、CHPSの運営には、資金不足や、またより重大な問題として、行政能力の弱さに起因する弱点があり、その戦略もいくつかのレベルで欠陥を抱えてきた[Republic of Ghana, 2010, 9-30; Binka et al. 2009]。たとえば、国家レベルから準郡レベルに至るまで、「フルタイムでCHPSを担当する職員がおらず、[このことは]コミットメントと支援の欠如[を示す]」[Ntsua et al. 2012, 12]。また、CHPSは地域保健師による家庭訪問を基本的な柱として組み立てられているが、地域保健師は「予防的保健教育のために毎日10件の家庭訪問を行う」べきとされているところ、実際には「平均で週に1件」しか家庭訪問が行われていなかった[Ntsua et al. 2012, 5]。これはCHPSのサービスが治療に偏りがちであることを示しており、予防を重視するこのイニシアティブの本来の目的に反するものである。別の言い方をすれば、地域保健師はサービス提供地点にとどまり、必要なサービスを受けるためは患者側がそこに行かなければならないという「静的なサービスの提供」になっている。これはイニシアティブの本質を損なうものである[Ntsua et al. 2012, 8]。

GHSの2007年の年次報告書[Ghana Health Service 2007, 53]によれば、同年のCHPSの稗益率は人口の6.4%であった。2009年の戦略レビュー[Binka et al. 2009, 18]によれば、2000年から2008年のあいだに、機能しているCHPSコンパウンドの数は、図1に示す通り19から401に増加した。計画では2008年末までにCHPSゾーンを1314にまで増やすことが目指されていたが、実際に活動していたのはその31%に過ぎなかったことになり、「全国でのCHPSプログラムの実施レベルは、平均以下にとどまっていた」。GHSの事業全体のなかで、この戦略は優先事項とされていたにもかかわらず、CHPSの拡大の動きは鈍かった。その主な理由としては、郡保健局の行政能力の欠如、地域保健師の数の不足、十分な資格をもった地域保健師の不在[JICA 2014]、「地域の人々の参加レベルの不十分さ」、そして「機能しているCHPS」の定義に関するコンセンサスの欠如、などが挙げられる[Aikins et al. 2013, 1]。GHSの報告書[2007, 53-54]は次のように記している。「[CHPSの]強化の進展は、資金不足や、指導的地位にある人々の一部にみられるCHPSに関する理解不足のために、阻害されてきた」。この問題は、政策策定者の多くがCHPSの目標達成を緊急を要する課題として認識していないことによって、さらに深刻なものとなっている。はたして、国レベルではCHPS専用の予算がまったくないのである[Binka et al. 2009]。
ガーナ・アッパーウエスト州CHPSプロジェクトと日本
上記のような問題と、アッパーウエスト州の保健指標がガーナの他地域よりも立ち遅れてきたという事実を踏まえれば[Ghana Health Service 2011, 57]、ガーナのなかでも最も人口が少なく、最も都市化率の低い地域のひとつ(人口の84%が農村部に居住)である同州の保健サービスを改善するには、どうしても外部からの介入が必要であったといえる。ガーナ政府から日本政府へのCHPSプログラム支援要請に基づき、日本政府はアッパーウエスト州地域保健強化プロジェクトを通じてこのイニシアティブを支援することに同意した。このプロジェクトは2006年3月に開始され、2010年2月に終了した。プロジェクト費用は約5億円(US$4,043,549)で、ガーナのGHSと保健省、および援助実施者としてのJICA間の協力によって実施された。なお、本稿の議論は2010年に完了したプロジェクトに絞り、その後、2010年9月から2016年9月までのJICA技術協力プロジェクトとして立ち上げられた「アッパーウエスト州妊産婦・新生児保健サービス改善プロジェクト」は分析対象としていない。

上述のように、アッパーウエスト州地域保健強化プロジェクトは、FSV実施を通じて、「GHSのCHPS実施[のための]制度的能力」を強化することを中心にデザインされていた[Republic of Ghana et al. 2010, 1-2; JICA 2014; Aikins et al. 2013, 1]。ここでいうFSVとは、次のような一連の能力強化の階層的なプロセスのことである。すなわち、まず州保健管理チームから、体系的なトレーニングと監督を通じて、郡保健管理チームに対して地域保健の適切な方法に関する最新の情報が伝達される。このプロセスはさらに、郡保健管理チームから、行政機構内の下部チームである準郡保健チーム(地域保健師を監督する責任をもつ)に対する、同様のトレーニング・監督方法の適用・実施へと続く。具体的には、このプロジェクトは、以下の実践を通じて農村部の保健サービスを強化しようとするものであった[JICA 2014]。
  1. 保健行政管理のトレーニングの標準化
  2. 地域保健師と地域看護師のトレーニング
  3. CHPSの活動状況分析と監督システムの整備
  4. 患者紹介システムの状況分析とガイドラインの整備
  5. コミュニティ参加に関する状況分析とそのためのトレーニング教材の開発
  6. トレーニングとガイドラインの共有を通じた、グッド・プラクティスの州内の他郡への普及
これらが実行でき、成功するかは、州の保健行政の制度的能力を改善し、明確化できるかどうかに依存していた。さらにそれは、州保健管理チーム、郡保健管理チーム、準郡保健チームという、州の保健サービス提供において最も重要な三つの機関におけるモニタリング・システムを、FSVの導入・実施を通じて再定式化・強化できるかどうかにかかっていた。地域保健師の能力強化も、上述のとおり、FSVの枠組みのなかに組み込まれていた。表1は、州の三つの保健機関が、それぞれのFSVプロセスのなかでどのような責任を負うかを示す、能力強化活動のリストである。

保健スタッフのパフォーマンス基準 1 の指標をみると、目覚ましく向上したことが見て取れる。準郡保健チームについては、パフォーマンス基準は2008年の10.9%から、2009年の最終評価時点では56.7%に、さらに2012年3月の事後評価時点では69.8%まで向上した。地域保健師についても、2008年の7.5%から2009年の23.7%へと進展が見られた(ただし、事後評価については数値が公表されていない)。郡保健管理チームのパフォーマンスは州の保健行政機関のなかでは最も高く、97.2%であった[JICA 2014]。

また、このイニシアティブによって、アッパーウエスト州の保健スタッフの能力向上のほかに、CHPSの稗益率の向上も実現した。すなわち、CHPSの裨益地域は、2006年の24ゾーンから2009年の81ゾーンへと増えた。これはターゲットとなる197ゾーンの、それぞれ12%と41%にあたる。2010年のプロジェクト完了から3年後に実施された事後評価では、表2が示すように、さらに166ゾーン(ターゲットの84%)にまで拡大した[JICA 2014]。
結論
以上の議論では、CHPSプロジェクトを通じてアッパーウエスト州の保健人材のパフォーマンスの向上を図るJICAのイニシアティブに焦点をあててきた。このプロジェクトは、ガーナの保健サービスの欠陥に対応するものであった。保健スタッフの業務能力向上に力点が置かれたことからは、保健管理チームの能力が高まれば、CHPSプロジェクトがより効率的・効果的にターゲットとなる住民に役立つものとなる、との仮説が提示される。要するに本稿は、経済開発に必要な制度やスキルを含めた基礎的なインフラの提供を国家が主導することの重要性を例証し、開発において国家が果たすべき役割を浮き彫りにするものであった。

アッパーウエスト州地域保健強化プロジェクトは、2016年のナイロビ宣言で示されたビジョンのうち少なくとも次の二つ、すなわち、「人材開発のための努力の加速化」と、健康改善のための「強靭な保健システム促進」に明らかに対応している[Ministry of Foreign Affairs 2016]。このこととの関連で、2013年のTICAD Vにおいて、「アフリカの民間および公的セクターの両方において人材育成が必要」であるとの認識のもと、日本政府が「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ」(ABEイニシアティブ)を打ち出したことが特筆に値する[Opportunities for Africans 2016]。また日本政府は、「人材育成奨学計画」によっても、ガーナ政府の職員(軍人を除く)が日本の大学の修士課程で学ぶための資金を提供しており、そのなかには「保健政策実施能力強化」のためのモジュールも含まれている。はたし て、その候補者のターゲットとなっているのは、保健省とGHSの職員である。
図1 各年のCHPSゾーンの数、2000~2008年
図1 各年のCHPSゾーンの数、2000~2008年
(出所)Binka et al. 2009.

表1 能力強化活動のリスト
レベル 能力強化活動
州保健管理チーム
  • CHPS施設建設のための提案書執筆トレーニング
  • FVS実施システムの確立およびFSVツールの開発のための支援提供
  • トレーニングのベスト・プラクティスの拡散
郡保健管理チーム
  • CHPS施設の建設のための提案書執筆トレーニング
  • FSV実施システムの確立とFSVツール開発
  • トレーニングのベスト・プラクティスの拡散
準郡保健チーム
  • CHPS実施についての理解を深めるための支援
  • トレーニングのベスト・プラクティスの拡散
  • 患者紹介システムの強化のための支援
  • FSV実施システムの確立とFSVツール開発のための支援
(出所)Adapted from Republic of Ghana et al. 2010, 10.


表2 プロジェクトの目的と全体目標
機能しているCHPSゾーン数の増加 項目 プロジェクト開始時(2006年) プロジェクト終了時評価(2009年) 事後評価(2013年) 2015年のターゲット
機能しているCHPSゾーン数 24 81 166 197
(出所)Modified from JICA 2014.
参考文献
(Kweku Ampiah/University of Leeds)

(まきの・くみこ/アジア経済研究所)
脚 注
  1. パフォーマンス基準とは、供給管理、情報管理、地域保健師への技術的支援、会合管理、地域保健施設の状態、文書管理の改善を指標化したものである。Aitkins et al.[2013, 4]によれば、各チームの「FSV評価は、明示されたイシューに関する一連の問いに対する「はい」「いいえ」の回答に基づき行われる」。それぞれの問いに対する回答をもとにスコアがつけられ、地域の開発尺度を用いてスコアが数量化される。「最終スコアは標準化され、パーセンテージで表される。そのうえで最終スコアは、パーセンテージ尺度に対応した「よい(good)」「まあまあ(fair)」「悪い(poor)」の三段階で評価される」。