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時事解説: TICADと市民社会——多元化する国際社会での新たな連携を求めて——

アフリカレポート

No.54

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TICADと市民社会——多元化する国際社会での新たな連携を求めて——
■ 時事解説: TICADと市民社会——多元化する国際社会での新たな連携を求めて——
■ 藤井 泉
■ 『アフリカレポート』2016年 No.54、pp.101-106
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はじめに
1990年代、国際的に活動するNGOの数が増え、グローバルな政策プロセスの中で課題設定や政策立案、モニタリング等において積極的な役割を担い、国内外で様々なネットワークを構築するようになった。こうした市民社会の複雑多様なネットワークは国際社会の重層性を構成するとともに、国家や国際機関との相互作用を強め、多元的な行為主体が現場の知見を提供することで議論の包括性を確保し、政策の効果を高めている1[国連開発計画(UNDP)2002]。

今年8月の第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)を前に、本稿では国際社会が多元化する中で、TICADやアフリカに関わる市民社会ネットワークも拡大していった過程を指摘する。その上で、TICADが初めてアフリカでの開催となり、また、2015年9月の国連総会での持続可能な開発目標(SDGs)の採択を受けて、多様な行為主体間の新たなパートナーシップが求められている市民社会のTICADへの参加の課題と展望を考えたい。


1.TICADプロセスへの市民社会の参加(TICAD I-TICAD III)

TICAD I-IIIが行われた1990年代から2000年代初頭は、市民社会の国際的な議論への参加が萌芽し、TICADへの市民社会の参加もその枠組みを築いていった時期であった。

1990年代初頭は日本政府の国際協力への市民参加に関する認識は高くなく、アフリカに関わるNGOや研究者も個々の活動に従事していた。そこで1993年にTICADが開催されるのを前に、アフリカで活動する人々の実情や彼らの開発に関する見解を政策決定者や日本社会に伝えるべくシンポジウムを開催したのが、アフリカに関わる市民社会ネットワーク形成の始まりである。翌年、シンポジウム主催者がアフリカに関わる個人のネットワークとしてアフリカ日本協議会を設立し、同団体は現在までTICADに継続的にかかわっている。

TICAD I前のシンポジウムにて市民社会の意見を集約した提言書はTICAD本会合の参加者に配布されたが、成果文書に反映されるには至らなかった。こうした背景から、市民社会が政策の策定から実施までのプロセスにおいて効果的な関与をするには、準備会合からの提言が必要との認識が生まれた。そして、TICAD II以降は各準備会合でも、アフリカと日本の市民社会の提言書を日本政府に加え、TICAD共催者である国連開発計画(UNDP)をはじめとする国際機関にも出すようになった2。例えばアフリカ協会を中心に日本のNGO等10団体が加盟したNGOネットワーク「ACT」は、1998年のTICAD IIに向けて、ネットワーク内外のアフリカと日本の市民団体へ声をかけて意見を集約し、地域ワークショップをはじめとする準備会合や首脳会議で、TICADへの市民社会の参加や個別の政策に関する提言書を出した[アフリカ日本協議会1997, 1998, 1999]。そしてTICAD IIIでは、すべての政策策定プロセスにおける市民社会の参加が実現している。2000年のミレニアム開発目標(MDGs)の採択を受けて、日本政府も人間中心の開発や人間の安全保障等、市民社会と共有する価値を強調し、多様な主体の国際会議への参加に関する認識も高まり、TICADでもそれが枠組みとして保障されるようになったといえる3

とはいえ市民社会の参加の枠組みが保障されても、その提言は日本の対アフリカ政策として残る成果文書に必ずしも反映されてはこなかった。加えて、市民社会は準備会合へ参加して議論の内実をみる中で、TICADは外交フォーラムに過ぎず、国際協力の潮流を決定づける国連サミットやWTO閣僚会議等、アフリカ開発に関するTICAD以外の国際会議の重要性を認識することとなった。こうしてこれ以降、市民社会は保健や農業等、個別具体的な政策議論を行う場や、G7/ G8や国連サミットのようにグローバルな課題を扱う場においても複雑多様なネットワークを形成し、アフリカ開発の議論は分野横断的かつ複合的に行われるようになった。アフリカに関わる市民社会ネットワークの重層化と相互作用の深化の始まりである。

2.アフリカに関わる市民社会ネットワークの重層化と専門化(TICAD IV-TICAD V)

MDGsはグローバルな市民社会ネットワークの発展を後押しするとともに、個々の政策提言の連動性を促した。特にTICAD IVに向けて結成された「TICAD IV・NGOネットワーク(TNnet)」の加盟団体は、開催地横浜のNGOネットワークである横浜NGO連絡会や、ワールド・ビジョン・ジャパン、オックスファム・ジャパン等国際NGOを含む43団体に及んだ。また、その一部は2008年のG8洞爺湖サミットに向けたNGOフォーラムに加盟するとともに、環境や教育、貧困削減等個別の開発課題に関するネットワークにも所属し、課題別の政策提言を行っていた。さらにこの時期、TNnetはアフリカ側のTICADへの提言の主体性や効果を高めるべく、これまでTICADにかかわってきたアフリカの市民団体やUNDPのリストに掲載された約1500のアフリカのNGOに声をかけ、TICADに取り組むアフリカ市民社会ネットワークとしてアフリカ市民協議会(Civic Commission for Africa: CCfA)を設立した。TICAD IVでは、このうちTICADへの提言に積極的であった100を超えるアフリカのNGOとの議論を重ねて提言書を発表した[アフリカ日本協議会2008b]。こうして国際社会での行為主体の増加に伴い、TICADに関わる日本とアフリカのネットワークの重層化が飛躍的に進んだ。

加えて市民社会ネットワークの発展は提言内容を精緻化させ、国際的な議論における市民社会の発言も活発化した。例えばTICAD IVの当初の柱は、日本政府案では経済成長の促進、人間の安全保障の確立、地球温暖化への対応とされていたが、TNnetがTICADをMDGsの流れに位置づける提言を続けた結果、人間の安全保障の確立の下にMDGsの達成と平和の定着という2つの協力分野が設定されるに至ったとされている[アフリカ日本協議会2008a, 2008b]。

こうした多元化した国際社会の構造の中でアフリカ開発の議論を行う動きは、TICAD Vにも引き継がれている。日本のNGO 50団体が加盟した「TICAD V NGOコンタクト・グループ」は、MDGsに関する政策提言とキャンペーンを行うNGOネットワークである「動く→動かす」内に設置されたTICADアドボカシー・チームを中心に、農業や保健、水と衛生、MDGs後の国際目標に関するポスト2015年開発アジェンダ等への政策提言をアフリカ市民協議会(CCfA)とともに行った。市民社会のネットワークの重層化に伴い、アフリカに関わる議論も様々な国際議論の中での相互作用を生み出し、TICADへの市民社会の参加は確かな前進をみせるようになった。

3.TICAD VIに向けて—SDGs時代における展望と課題

TICAD VIは、2015年の国連総会で持続可能な開発目標(SDGs)が採択された後初めてのアフリカ開発会議であり、日本政府もSDGsをいかにアフリカで実現するかという点で重要な会議と位置付けている。持続可能な開発をアフリカで進め、包括的な社会を築くべく、国際社会の様々な行為主体間の連携の在り方が模索されている。また、今回TICADが初めてアフリカで開催されるにあたり、政策提言の成果の帰結として、市民社会がTICAD共催者らとともに、アフリカ側の主体性を確保したパートナーシップの青写真を、いかに具体性をもって描けるかが要である。

実際、TICAD VIに向けた市民社会の政策提言も一定の成果を得ている。具体的には、TICAD VI閣僚級準備会合を前に出された成果文書素案では、アフリカ経済の多角化に向けて、質の高いインフラ投資や企業の役割の重要性が強調されたが、TICAD VIに向けて活動する「市民ネットワーク for TICAD」はアフリカ市民協議会(CCfA)とともに、環境や人権に配慮し、コミュニティを中心とした産業の育成を提言した。また、同素案に欠けていた人間の安全保障の理念や、SDGsの中核である周縁化した人々を包括する社会の構築、開発への市民参加等、過去のTICADの要素を継承しつつ、現在の国際的な議論にTICADを明確に位置付けることを求めた。こうした提言内容は、2016年6月のTICAD VI閣僚級準備会合で大筋合意に至った成果文書に概ね取り入れられている。

成果を生み出した背景の一つには、アフリカ連合のアジェンダ2063でアフリカの人々が牽引する開発が打ち出されたのをはじめ、開発への市民社会の参加に関する理解がアフリカ側でも深まりつつあることが挙げられる。実際、TICAD VI閣僚級準備会合を前に、アフリカ市民協議会(CCfA)と国際家族計画連盟、SDGs実施に関するケニアの市民社会ネットワークである「SDGsケニアフォーラム」は、ケニア政府や国際機関の後援の下でTICAD VI市民社会啓発会合を開催し、100名を超える参加者を集めて、市民社会の宣言文を採択した[Civic Commission for Africa and Japan Citizen’s Network for TICAD 2016]。

近年、中国や欧米諸国のアフリカ進出と影響力の拡大が進む中、日本政府はTICADを通じて、アフリカで質と信頼性を重視した貿易や投資の拡大を推進しようとしてきた[産経新聞2016]。アフリカ側もTICAD VIに日本の投資を大いに期待しているが、一方で、これまでのTICADが重視してきたアフリカの現場に生きる人々による開発の尊重という考えも、ケニアを中心とするアフリカ側の政府やTICAD共催者である国際機関、市民社会の間で着実に呼応し、浸透していた。

とはいえ、TICADに関わる市民社会ネットワークの持続的な運営や活動の源泉を維持する上では限界もある。第一に、政策提言型NGOが複数のネットワークに所属することにより発生する「ネットワーク疲れ」である。アフリカ開発に関する議論は、グローバルな政治や経済、開発課題を扱うG7/ G8やG20のほか、保健や難民、栄養、農業等、個別課題に関する専門的な国際機関が主導する会議の場で複合的かつ多面的に行われており、政策提言型NGOの関与を強めている。しかし、個々のNGOや個人が限られた資源で複数のネットワークでの活動を続けるには十分な主体性や積極性に欠け、ネットワークは形成と衰退を繰り返し、原動力を維持することが困難になっている。

第二に、現代におけるアフリカと日本の市民社会の連携の在り方である。日本の市民社会はアフリカ市民社会の人々の開発に関する見解を集約し、TICADに反映させるよう、その主体性を尊重してきた。しかし、アフリカ54か国の市民社会による現地のニーズの汲み上げ方や、アフリカ側のネットワーク運営に関する代表性とその正統性、日本との緊密な連携は、必ずしも上手くいっているとはいえない。TICADに向けて活動するアフリカ市民協議会(CCfA)はアフリカ5地域の代表を中心にして運営されているが、各代表が地域の市民社会の意見を集約し、一つの提言に取りまとめることは労力的にも困難となっている。加えて日本側は初のアフリカ開催により、地理的に遠いアフリカへ渡航し、TICADプロセスへの参加の意義を見出すNGOは多くなく、TICADへの実質的な提言を行う団体はTICAD IVやVより少ない。市民社会側のネットワーク疲れや財政、人的資源の不足による課題は、会議への参加そのものにも影響する。アフリカと日本の市民社会が各々の主体性を発揮して連携し、成果を出せるかが、改めて問われているといえる。

おわりに

国際社会の行為主体が相互依存性を強める現代、各行為主体間の連携が一層求められており、それはSDGsの下での中心的課題である。市民社会は、国際的な議論や政策の実施において、現場のニーズを汲み上げ、政策プロセスの中で専門的な見解や経験に基づく知見を提供し、政策の効果を高めるという点で大きな役割を担う。

TICADの23年の歴史の中で、アフリカに関わる市民社会のネットワーク化は確実に発展を遂げ、政策提言の内容や場も広がりをみせてきた。多元化する国際社会において、個別課題に関するネットワークの発展は市民社会や専門の国際機関、各国政府諸機関、専門家等の協力関係を構築している。その中で、市民社会はTICAD共催者との連携も強化することで、実質的な参加をしやすい環境をつくってきた。また、初めてのアフリカ大陸での開催は、アフリカの市民社会の発展とその開発の担い手としての存在をTICADの共催者に明確に認知させることにつながった。

今、市民社会は政策提言の成果文書への反映の先に何を求めているのか、改めてその意義が問われている。現在、アフリカ開発に関して中国や欧州、米国等様々な地域フォーラムが行われ、TICADの先見性に揺らぎが見え隠れしている。そのような中で、政府諸機関や国際機関、NGOをはじめとする市民社会が、政策議論と政策の実施を担う細分化された行為主体内外で、いかに調和した重層的な関係を築き、TICADでの議論の成果を現場で発揮させることができるか。国際社会でもTICADの意義が問われる中で、市民社会のTICADへの参加も新たな局面を迎えていると言えよう。

参考文献

〈日本語文献〉
  • アフリカ日本協議会 1997.『アフリカNow』31.
  • アフリカ日本協議会 1998.『アフリカNow』37.
  • アフリカ日本協議会 1999.『アフリカNow』43.
  • アフリカ日本協議会 2008a.『アフリカNow』80.
  • アフリカ日本協議会 2008b.『アフリカNow』82.
  • 国際協力機構 2008. 『課題別指針「市民参加」』
    http://www.jica.go.jp/partner/about/ku57pq00000qrt95-att/kadaibetsu_siminsanka.pdf, 2016年8月12日アクセス).
  • 国連開発計画(UNDP)2002.『人間開発報告書—ガバナンスと人間開発』国際協力出版会.
  • 『産経新聞』2016.「質重視の支援で中国牽制—「ナイロビ宣言」骨子判明」6月9日.
  • 山本武彦 2014.「グローバル・ガバナンスの鳥瞰図—多層化するグローバル・ガバナンスの構造—」『グローバル・ガバナンス』創刊号(12月)2-13.
    http://globalgovernance.jp/wp/wp-content/uploads/2016/03/GlobalGovernance_1st_TakehikoYamamoto.pdf, 2016年8月12日アクセス).
〈外国語文献〉

(ふじい・いずみ/アフリカ日本協議会)


脚 注
  1. グローバル・ガバナンスの多層性や市民社会の成熟に関しては[山本2014]が体系的にまとめている。
  2. TICADは首脳会議に先立ち、事務レベルで成果文書の枠組みを議論する高級実務者会合、成果文書の中身を議論する閣僚級準備会合等が行われる。TICAD IIやIII、IVでは地域準備会合が行われ、日本やアフリカ各国政府に加え、TICAD共催者である国際機関として、国連開発計画(UNDP)、国連アフリカ及び最貧国特別調整室(UNOSCAL)、アフリカのためのグローバル連合(Global Coalition for Africa: GCA)等との政策議論が行われた。なお、UNOSCALはTICAD IVより国連アフリカ担当事務総長特別顧問室(UNOSAA)に代わっている。また、TICAD IIIからGCAに代わって世界銀行が、TICAD Vからアフリカ連合委員会が共催者に加わっている。UNDPは第1回から今日まで継続して共催者である。
  3. 2003年の政府開発援助(ODA)大綱ではNGO等の援助関係者との連携や国民各層の広範な参加が謳われている[国際協力機構2008]。