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資料紹介: 都市と農村を架ける——ザンビア農村社会の変容と人びとの流動性——

アフリカレポート

資料紹介

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■ 資料紹介:伊藤 千尋 著 『都市と農村を架ける——ザンビア農村社会の変容と人びとの流動性——』
網中 昭世
■ 『アフリカレポート』2016年 No.54、p.91
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本書は、ザンビア南部農村住民の多様な生計活動の分析を通じて、現代アフリカの農村と都市の関係を理解するための分析枠組みに再考を迫るものである。本書の基になっているのは、2006年から現地調査を行ってきた著者が2012年に京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究科に提出した博士論文である。

従来、南部アフリカの都市化プロセスは、植民地期の開発プロジェクトや白人商業部門に牽引されてきた。そうした「上から」の社会変容に対して、1990年代以降に経済自由化が進むにつれ、地元住民も経済活動のアクターに加わり、変容を引き起こす主体が多様化している。農村から都市へと現金収入を求めて移動する人の動きは、それ以前の構造的な政策の枠組みによる移動ではなく、自発的なものが目立つようになる。以来、アフリカ農村部の各地で「脱農化」の進展が指摘されているが、著者の観察によれば、それは「都市化」の進行ではないという。なぜならば、農民は農業を捨てるでもなく、農業と非農業活動の間、農村と都市という空間の間を文字通り「行ったり来たり」しながら、都市と農村での営みを巧みに使い分け、流動的に生きているからだ。

著者は、そうした個人や世帯の移動の意思決定プロセスに注目し、多様化する農村経済の中に出稼ぎを位置づけなおす。さらには、1990年代以降の変化を、より長期的な社会変容とも結びつけて論じてもいる。例えば、調査対象であるトンガ社会は伝統的には母系制の社会であり、それに従えば土地や家畜の生産財は母方のオジから相続されることになる。しかし、調査地では1950年代のカリバ・ダム建設に際した強制移住に伴って母系相続の伝統が部分的に父系相続へと変化するなど、社会構造が必ずしも固定化されておらず、むしろ緩やかになっている。著者は、その社会構造の「ゆるさ」が、著者が「農村ビジネス」と呼ぶ農村での非農業活動を許容する一因になっていると指摘する。

著者の目には厳しいと映る環境、不安定な農業生産と不確実性に満ちた調査村の人々は、それらの条件を前提に生活している。都市との関係を模索する調査村は、今のところ集落機能の維持に困難をきたす限界に達するどころか、新たな展開を予感させる。その様子は、著者も言及する通り、都市化が進み「限界集落」を抱えるに至った日本社会のあり方を考え直す上でも多くの示唆に富んでいる。

網中 昭世(あみなか・あきよ/アジア経済研究所)