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論考: 「雇用なき成長」下のモザンビークにおける雇用政策

アフリカレポート

No.54

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■ 論考: 「雇用なき成長」下のモザンビークにおける雇用政策
網中 昭世
■ 『アフリカレポート』2016年 No.54、pp.56-66
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要 約
モザンビーク社会は2000年代を通じて高いマクロ経済成長率を記録する一方で、2008年、2010年、2012年には経済的困窮に対する都市部住民の不満が暴動という形で表出した。モザンビーク人の雇用が促進されず、貧困率の悪化を伴うような経済成長は「雇用なき成長」と非難されてきた。近年の暴動の主体は、経済成長を実感できぬ貧困層であった。彼らは野党の支持者となりうるだけに、FRELIMO政権は、貧困層に対して、いかに雇用を提供するかという課題を抱えている。

本稿では、FRELIMO政権による雇用政策について次の3つの観点から考察を加える。第1に、近年の経済成長をもたらすことになった経済政策を振り返る。第2に、経済成長にも関わらず、雇用を通じた貧困状況の改善がなされない要因を探るため、経済活動人口の教育水準を確認し、低就学歴者層を対象とした政府の雇用政策に焦点をあてる。第3に、低就学歴者に対する雇用政策の実績と意義について検討する。
キーワード : モザンビーク マクロ経済成長 海外直接投資 雇用創出
はじめに
モザンビーク社会は2000年代を通じて7%という高いマクロ経済成長を達成してきた一方で、貧困率の悪化した2008年、そして物価が高騰した2010年と2012年には都市部住民の不満が暴動という形で表出し、数日間にわたって首都機能が麻痺した経験がある。雇用が促進されず、貧困率の悪化を伴う経済成長は、「雇用なき成長」と非難されてきた[Léautier and Hanson 2013]。しかし、モザンビークにおける「雇用なき成長」は、多少なりとも労働需要が生まれているにもかかわらず、国民の大多数の就学歴が極めて低く、労働需要の条件を満たすことができないために、モザンビーク人の雇用に結びつかないというのが実情である。モザンビーク政府による貧困削減のための直近の取り組みでは、より多くの国民が裨益する包括的な経済成長と貧困削減を目標に掲げ、貧困率の削減、農水産業分野の生産拡大および生産性の向上、雇用の促進、人間社会開発、ガバナンスの強化、そしてマクロ経済および財政管理の強化の6つを重点として設定していた。しかし、国際通貨基金(International Monetary Fund: IMF)による評価では上記6つのうち、雇用促進の達成率が最も低い[IMF 2014] 1

モザンビークでは、経済成長を実感できぬ人々が近年の暴動の主体となってきた。そうした人々が野党の支持者となりうるだけに、政権与党のモザンビーク解放戦線(Frente de Libertação de Moçambique: FRELIMO)は、現時点で経済活動人口の大半を占める低就学歴者に対して、いかに雇用を提供するかという課題を抱えている。雇用対策には、波及効果が薄い近年の経済成長の在り方に対処する富の再分配機能が期待され、2014年10月大統領選挙・国民議会選挙の際にも争点の一つとなった。この争点について、FRELIMOのF・ニュシ(Filipe Nyusi)は、A・ゲブザ(Armando Guebuza)前政権(2005~2014年)下で達成された経済成長の持続性を訴えるだけでなく、前政権の雇用創出の実績をアピールした。それに対して、野党第一党のモザンビーク民族抵抗(Resistência Nacional Moçambicana: RENAMO)党首のA・ドゥラカマ(Afonso Dhlakama)は、前政権下で特定集団への権力の集中、富の蓄積、格差の拡大が加速したことを非難し、小農・中小企業の支援を手厚くすることを訴えた。大統領選挙の結果、ニュシは57%の支持を獲得し、ドゥラカマは、敗れはしたものの、37%の票を獲得している[Africa Research Bulletin 2014]。2015年1月に発足したニュシ政権は、雇用創出を通じて野党による批判の矛先となる格差を解消すべく、雇用問題に積極的に取り組む姿勢を見せている。

そこで本稿では、前政権までの低就学歴者に対する雇用政策を整理し、新政権の課題を示す。そのために、第1節では、近年のマクロ経済成長をもたらすことになった1992年の紛争終結以降の経済政策を振り返る。第2節では、経済成長にも関わらず、雇用が促進されない一要因を探るため、経済活動人口の教育水準の低さを示し、低就学歴者層を対象とした雇用政策に注目する。第3節では、従来、低就学歴者に雇用を提供してきた代表的産業(南アフリカ鉱山業)における雇用喪失の問題に対するモザンビーク政府の施策について考察を加える。第4節では、前政権以来の低就学歴者向けの複数の補助金制度の運用状況を確認し、現段階での実績とその雇用政策としての意義について検討する。
1.近年の経済政策とマクロ経済成長
近年のモザンビークにおける高いマクロ経済成長率は、1992年の紛争終結後の経済復興の過程で、FRELIMOを率いたJ・シサノ(Joaquim Chissano)政権(1986~2005年)とゲブザ政権下で輸出を志向する海外直接投資を積極的に誘致した結果である。2014年に発表された長期計画「国家開発計画(Estratégia Nacional de Desenvolvimento)2015~2035年」も、大型投資を中心とした従来のマクロ経済成長路線を踏襲し、天然ガスを含む採取産業を筆頭に、農業、漁業、製造業、そして観光業を重点とした工業化を通じ、経済構造を変革することを目標に掲げている[República de Moçambique 2014]。

紛争終結直後に海外直接投資の先駆けとなったのは、2000年から生産に入ったモザンビーク・アルミニウム精錬工場モザール(Mozal)であり、誘致の過程では優遇税制の下地が作られた。2005年に発足したゲブザ政権は、これを前例として、重点分野である農業、観光・ホテル業、鉱業、採取業で、法人税から所得税に至るまで幅広い減免措置を施してきた。第1期ゲブザ政権は、2007年に財務経済省の傘下にモザンビーク経済特別区開発促進事務所(Gabinete das Zonas Económicas de Desenvolvimento Acelerado: GAZEDA)を設け、GAZEDAが業務調整を行う経済特区(Zona Económica Especial: ZEE)や産業自由区(Zona Franca Industrial: ZFI)で活動する企業の法人税は、最初の3年間は100%、4~10年目までは50%、11~15年目までは25%免除された 2 。しかし、2010年以降の第2期ゲブザ政権期の初頭にモザンビーク北部沖合の天然ガス埋蔵量が世界有数であることが判明すると、政府は、もはや税制上の優遇措置がなくとも十分に投資を引き付けられると判断し、法人税の減免適用期間を短縮する動きが見られた[Buur et al. 2011]。

上記の経済政策を受けて、モザンビークにおける海外直接投資の受入額は、図1に示す通り推移してきた。モザンビークの2013年の海外直接投資の受入額は59億3500万ドルであり、アフリカ大陸内では南アフリカの81億8800万ドルに次いで第2位となり、55億5300万ドルを受け入れるナイジェリアを3位に抑えた。2010年時点で経済規模が南アフリカの40分の1(1人当たりGDPは18分の1)、ナイジェリアの25分の1(同3分の1)のモザンビークに、2010年以降はかつてない規模の海外直接投資が流入している[UNCTAD 2014]。

モザンビーク政府は、流入する海外直接投資が関わる開発計画について、2008年以降は外国人労働者の雇用比率を定めた割当制を導入するなど、モザンビーク人の雇用創出を促す法整備を行ってきた。それにもかかわらず、多額の投資が、期待された雇用の創出に結びつかなかった原因は、労働需要を生み出す側の問題と、生み出された労働需要に労働市場が応じられるか否かという2つに分けて考える必要があるだろう。本稿の関心に即して後者について見ると、実際のところ、近年のモザンビークにおける大規模開発プロジェクトは、溶接などの金属加工、ガス、通信といった分野で、およそ1万~2万件の労働需要を生み出したと言われている[Ross ed. 2014]。しかしながら、それらの職は中等以上の技能を必要としていたため、これに適う技能を持った労働者が不足しているモザンビークの労働市場は、その需要に応えることができなかった[Bower et al. 2010]。雇用が創出されるかどうかは、労働需要の有無だけでなく、労働市場が生み出された需要に応じられるか否かが重要となる。そこで、次節ではモザンビークの労働市場が抱える技能・教育水準の問題について検討する。

図1 モザンビーク、南アフリカ、ナイジェリアの海外直接投資受入額の推移 1980~2014年(単位:100万ドル)
図1 モザンビーク、南アフリカ、ナイジェリアの海外直接投資受入額の推移 1980~2014年(単位:100万ドル)
出典:UNCTAD[2009-2015]に基づき、筆者作成。
注:2014年時点でサハラ以北を含むアフリカ地域における海外直接投資受入額の上位3カ国は、南アフリカ、モザンビーク、ナイジェリアであった。
2.需要に応えられない労働市場
2014年時点で人口およそ2500万人のモザンビークにおいて、15歳以上65歳未満の生産年齢人口の比率は50.6%、およそ1265万人と見積もられ、失業率は22.3%である[INE 2015a]。2015年第2四半期の報告書では、モザンビーク国内の労働市場におけるフォーマル・セクターの規模は就業者人口のわずか6.3%に過ぎず、就労者の9割以上がインフォーマル・セクターで就業していると見積もられる[INE 2015a]。こうした現状に加え、短期的には毎年30万人、2025年以降は50万人の若年労働者が労働市場に参入すると見積もられている[Jones and Tarp 2012]。

生産年齢人口の就学歴について見ると、MDGsの1つであった初等教育の拡充の成果が反映され、就学水準の底上げがなされているものの、近年生み出される労働需要を満たすために求められる中等教育修了という水準には達せず、モザンビーク人の雇用に結びついていないのが現状である。以下に示す図2は、2008年度と2014年度の就学歴を比較したものである。2008年度と2014年度では、2014年度にのみ「就学歴なし」という区分が設けられ、前期初等教育過程以下の就学歴の区分が一致しないため、直接比較することはできないが、後期初等教育課程以上の教育課程を見ると、次のように、15~19歳と20~29歳の若年層の就学状況が改善されていることが分かる。

15~19歳の年齢集団を比較すると、就学の比率は、前期中等教育課程で27.4%(2008年度)から30.1%(2014年度)へと増加に転じ、後期中等教育課程で3.6%から7.1%へ増加し、高等教育課程でも0.2%から0.5%へと増加している。また、20~29歳の年齢集団では、前期中等課程で8.8%から13.4%、高等教育でも1.7%から2.5%へと増加している。だが、2014年度時点で後期中等教育課程以上の就学歴を持つ者は20~29歳で15.9%に留まり、近年の労働需要を雇用に結び付けられる労働力人口は、未だ限定的である。しかし、いずれの年齢集団を見ても教育水準の底上げがなされ、若年層ほど就学歴が伸びているため、今後の雇用創出に結び付く条件は整えられつつある。

図2 年齢別就学歴 (単位:%)
図2 年齢別就学歴 (単位:%)
出典:INE[2010, 2015b]より筆者作成。

なお、モザンビーク政府は、労働市場に参入する若年層に対しては、教育水準を底上げすると同時に、職業教育制度の刷新に取り組んでもいる。政府は、2003年に既存の職業訓練校のカリキュラムの刷新、2005年にコースの新設を決定しているが、現在は2010年までのパイロット事業に続き、2015年までを試験的実施期間、2020年までを強化期間としている[Sapo Notícias 2011]。

これらの政策の成果はまだ出てはいないものの、今後労働市場に参入する人口も含めた若年者を対象とした基礎教育・技能教育面での策は施されたと言って良いだろう。それに対して、30歳以上の年齢集団の就学歴は、いずれも9割以上が中等教育以下であり、今後の改善の見通しも立っていない。モザンビーク政府は、就学歴の改善が見込まれず、今後労働市場で新たに雇用を確保することが困難であるこれらの年齢集団に対しても、何らかの形で雇用を提供しようと試みている。冒頭でも言及したとおり、選挙戦において雇用創出が争点となるのは、雇用政策が必ずしも若年層のみを対象とするのではなく、有権者の6割以上を占める若年以上の年齢集団をも対象とするからである。
3.雇用喪失対策としての労働力の再配置
従来、就学歴が初等教育に留まるモザンビーク人男性に対して、比較的高い給与の雇用を大規模に提供してきたのが南アフリカの鉱山業であった。しかし、1990年代以降の南アフリカの鉱山業の再編に伴う人員削減のために、南アフリカの鉱山業においてモザンビーク人労働者の雇用機会は失われつつある。南アフリカ鉱山業におけるモザンビーク人の雇用は、二国間協定に基づく国策として、マプト(Maputo)、ガザ(Gaza)、イニャンバネ(Inhambane)の南部3州出身の男性に限定され、12~18カ月間の契約期間が満了すると一旦帰郷し、多くの場合は契約を繰り返す還流型の移民労働である。しかし、1990年代以降、モザンビーク人移民労働者の数は1997年の7万1898人から2001年には4万6948人、2014年には2万7738人にまで減少した[Vletter 1998; MT, DNPET 2005; INE 2015a]。この就業機会は、今後、多少の変動はあるにしても、1990年代の規模を回復することは見込めない。

前述のとおり、南アフリカ鉱山で雇用を失うモザンビーク人移民労働者は、出身地域がモザンビーク南部3州に集中する。南部3州は、1994年の第1回総選挙以来、FRELIMOが70~100%という高い得票率で支持を獲得してきた地域でもある。南部3州に集中する移民労働者の雇用喪失は、FRELIMO政権にとっても支持基盤を維持するためには無視できない問題であると同時に、国内における雇用創出の効果が相殺されかねない問題でもある。そのため、FRELIMO政権は南部3州に特有のこの問題に3つの対処策を講じている。第1に、南アフリカ政府との交渉を通じ、鉱山労働に代わる就業機会として、南アフリカの農業部門に一定のモザンビーク人移民労働者の枠を設けている。第2に、南アフリカでの雇用を失う鉱山労働者に対して、モザンビーク国内、とりわけ北部で開発の進む鉱山への再就職を斡旋している。これら以外の手段で生計を立てるための補助金が、第3の対処策であるが、これについては次節で扱う。

まず、代替的な就業先を確保するため、モザンビーク労働・雇用・社会保障省(MTESS) 3 は、二国間協定を通じて南アフリカの農場労働に雇用を確保し、それはMTESSが公表した雇用状況に「南アフリカ農場向けリクルート」として計上されている。しかし、賃金額と雇用人数の双方の面において鉱山業における雇用喪失を補填するには不十分である。南アフリカ鉱山業の最低賃金は、金、石炭、プラチナ、ダイヤモンドの各鉱山の間で月額4222~6540ランド(498~772ドル、2012年時点)と幅はあるものの、鉱山業の平均最低賃金は4737ランド(558ドル)であった[Gwatidzo and Benhura 2013]。これに対して、南アフリカの農場労働者の最低賃金は、引き上げられた2016年時点でも2779ランド(185ドル)である[DOL 2016]。

次に、MTESSは、近年、開発が進むモザンビーク国内の産業に、元鉱山労働者を斡旋しようとしている。再配置による雇用の確保はパイロット事業を展開している段階であり、2015年11月の時点では、段階的に2016年4月までに2500人が再就職をする見込みであると報じられている。現在のところ、ナンプラ州モマで重砂の採掘を行うアイルランド系企業Kenmareに10人、テテ州で鉄道建設事業に携わる南アフリカ系企業Aveng Mocambique Ldaには、モザンビーク進出を決定した時点で1000件の雇用が見込まれていたが、2015年時点で27人が再就職したに過ぎない 4 。なお、テテ州のモアティゼ炭鉱では、開発当初の建設段階で短期雇用を含めて2万5000件、さらに計画中の火力発電所が2000件の雇用を生むと試算されていた。しかしながら、モアティゼ炭鉱に代表される炭鉱開発は、資本集約的な露天掘りの工法を採用しており、創出される雇用の規模は7000件程度と、南アフリカの鉱山業に代わるだけの雇用創出は期待できない[Resenfeld 2012]。

この再就職先の斡旋は、賃金面でも不十分である。モザンビークの採取産業の最低賃金は、2015年時点において5643メティカル(161ドル)[Verdade 2015]、南アフリカにおける同産業の賃金の3分の1から2分の1以下である。現金収入のほとんどを南アフリカ鉱山への移民労働に依存してきた南部3州の家計にとって、仮に国内に職を得られたとしても、大幅な減収になることは否めない。さらに、現世代が北部の採取産業に就業するパターンが定着したとしても、次世代に対して同様の雇用斡旋を行なうことは、国内の地域対立を引き起こす要因となる。鉱山開発の現場であると同時に、一部が野党の支持基盤となっている北部で南部出身者の職を優先的に斡旋するということは、北部出身者の労働市場を狭めることとなり、この政策に関しては地域的な摩擦が生じることが予想される。
4.補助金による雇用創出
2015年1月のニュシ政権発足後、早々にMTESSの年次報告書が公表された。その中でも、補助金によって創出されたとされる雇用が持続可能性のあるものか否かという観点から、表の雇用促進手段と雇用創出状況を見る。

表 労働・雇用・社会保障省(MTESS)発表の雇用促進手段と雇用創出状況(単位:件)
表 労働・雇用・社会保障省(MTESS)発表の雇用促進手段と雇用創出状況(単位:件)
出典:MTESS[2015]より筆者作成。
注:「南アフリカ鉱山向けリクルート」と「南アフリカ農場向けリクルート」の項目は、12~18カ月の契約労働を繰り返す移民労働であり、創出された雇用数の実態は、移民労働者の再契約が成立する度に新規雇用として計上されたものである。その一方で、契約期間満了による事実上の失業者数は考慮されていない。

まず、促進手段として「自営(元鉱山労働者の社会統合を含む)」の項目に計上されている数は、前節で述べた南アフリカ鉱山の雇用を失った元鉱山労働者に対する補助金によって行なわれた事業を含んでいる。2014年は、南アフリカの雇用を失った元鉱山労働者によって組織された組合12団体に対して、養鶏、畜産、製粉業などのための初期投資資金として補助金を出している[MTESS 2015]。なお、この補助金が給付金であるのか、あるいは貸付金であるかは不明であるが、これまでのところ返済実績等に関する議論は見られない。

次に、2006年から開始した地方開発のための助成金「郡開発基金(Fundo de Desenvolvimento Distrital: FDD)」および2010年に発表された「都市部貧困削減のための戦略計画(Programa Estratégico para a Redução da Pobreza Urbana: PERPU)2010~2014年」について見る。FDDは、マクロ経済成長一辺倒と批判されたゲブザ政権が貧困対策として2005年に「地方イニシアチブ投資予算(Orçamento de Investimento de Iniciativa Local: OIIL)」として設立し、2010年にその名称はFDDと変更された。OIIL/FDDは2006年から全国の128郡に毎年700万メティカル(およそ30万ドル)の予算を直接配分し、個人もしくは団体を対象としたマイクロ・クレジットの制度である。企画開発省(Ministério da Planificação e Desenvolvimento)によれば、OIILは2006~2008年に10万7950件、年間平均3万5500件以上の雇用を創出したと報告されている[Orre e Forquilha 2012]。FDDの直近の雇用創出件数も表に示すとおり、各年ともに3万~4万件の雇用を創出している。

しかし、近年のOIIL/FDDに関する研究は、いくつもの問題点を指摘している。それは、用途や配分手法が未確定で計画性を欠いたままOIIL予算が成立し、最終的にマイクロ・クレジットの体裁を取ったものであることに加え、マイクロ・クレジット事業を行なった経験もない郡政府に指導もなく配分を委ねたという点である。申請者の側でも、名目上の組合組織を作り、助成金をその成員で分配し、個々人が利用した末に返済不履行が頻発している。さらに、OIIL/FDDの受給対象者が政権与党の支持者に極端に偏っているという、助成金の分配に対する政治的影響が指摘されている。OIIL/FDD運用後、5年目となった2011年、政府が公表した貸付金の返済実績は、全体のわずか5%に過ぎない[Orre e Forquilha 2012]。

地方農村部を対象としたOIIL/FDDに対して、対象地域を都市部に限定したのがPERPUである[República de Moçambique 2010]。同プログラムは、2008年の物価高騰に対して都市部で発生した暴動に応える形で、2010年当時の企画開発省、財務省、内務省、労働省、そして女性・社会福祉省が省庁横断的な議論の末に設立したものであり、雇用促進と社会保障に焦点を当てている。PERPUは雇用促進のために具体的な手段を3つ設定している。まず、公共施設ならびに道路建設や補修といった土木・建設業、自治体の清掃業など、労働集約的な公共事業への動員である。次に、職業教育、組合組織の設立、公的融資制度へのアクセスを持たない事業者に対する金融支援を通じた自営業者の育成や起業の促進である。そして、大企業に対する中小企業との下請け契約の推奨である。また、PERPUはこれらの手段の他に、雇用環境の整備として更新可能な1年以内の短期雇用契約を推奨している。

表に各雇用促進手段として設けられた項目、すなわち公共部門における雇用、生産組合、職業訓練、国内契約労働、そして補助金の対象となっているPERPUによる金融支援はPERPUで設定された項目とほぼ対応しており、政府としてはこれらをPERPUの成果として位置付けている。しかしPERPUによって推奨されている生産組合の設立も、設立自体が雇用を創出するわけではなく、むしろ既に就労している人々が生産組合を設立したと捉えるのが妥当である。同様に、職業教育・訓練も、その課程の修了が直ちに雇用に結び付くわけではない。したがって、MTESSが公表した雇用創出状況は、PERPUの成果をアピールすることを強く意識しつつも、必ずしも実態に即しておらず、雇用創出件数が増幅された感が否めない。

その他に、青年層を対象として2012年から開始された「プロ・ジョーヴェン(Projovem)」プロジェクトは、毎年100万メティカル(2万300ドル)の予算を確保し、個人に対しては5万メティカル(1010ドル)、団体に対しては10万メティカル(2020ドル)を、貸付から3カ月後以降の返済を条件に貸し付ける制度である。同プロジェクトは、各地方自治体を窓口として、5年間で青年層が経営する企業4500社を設立し、3万件の雇用を創出することを目標としている。最後の「青年イニシアチブ支援基金(Fundo de Apoio à Iniciativa Juvenil: FAIJ)」は青年スポーツ省(Ministério da Juventude e Desportos)の管轄の元に、各地方自治体レベルの同省下位組織が窓口となり、18~30歳の青年層を対象として、過去に融資を受けていない新規事業の開始あるいは事業の拡大を支援するものである 5

MTESSの報告書では、上記のFDD、PERPU、Projovem、FAIJの補助金によって創出された雇用件数の合計として、2013年には26万8616件のうち4万5395件(16.9%)、2014年には29万816件のうち5万6901件(19.6%)が計上されている[MTESS 2015]。しかし、実態としては新規に事業を起こすケースよりも、既存の事業に対してこれらの補助金が活用されている[Orre e Forquilha 2012]。その運用実態に照らせば、これらの雇用件数は、あくまでも補助金の対象数であり、そのすべてを新規に創出された雇用として計上することは妥当ではないだろう。さらに、補助金の返済率の低さから、制度自体は持続可能性がなく、事業を継続する限り、政府は追加的予算を投入するものと思われる。
おわりに
本稿では、近年のモザンビークにおいてマクロ経済成長の波及効果を受けにくい低就学歴者に対する雇用政策の必要性について示し、前ゲブザ政権期の主要な政策とその実績について考察を加え、以下の点を明らかにした。まず、従来、低就学歴者に雇用を提供してきた南アフリカ鉱山業における雇用喪失という問題に対して、その失業者をモザンビーク国内の他の開発地域に優先的に再配置するという対策は、対象者の規模や賃金水準において不十分であるだけでなく、モザンビーク国内地域間で新たな政治社会的対立を引き起こすことが懸念される。また、上記の失業者、若年層、それ以外の人々の雇用創出を目的とした各種補助金制度の対象となった雇用の質については、貸付金の体裁を採る制度の運用実績から、持続性が極めて低いことが伺える。そして、貧困削減のための雇用創出という当初の政策の補助金対象者が与党支持者に著しく偏り、最終的に一部の国民に対するばらまきに転じている点も、与野党支持者間における社会的亀裂をもたらしかねない問題を醸成している。

それにもかかわらず、2015年1月にニュシ政権が発足して間もなくMTESSから出された年次報告書は、高い経済成長率を達成してきた前ゲブザ政権期の雇用促進の実績を評価するものであった。その背景には、これまでのFRELIMO政権が、毎年30万人の労働人口が新規に労働市場に参入するという見通しに対して、それを充たすペースで雇用創出を果たしてきたことをドナーに対して示したいという意図が伺える。その姿勢から判断して、ニュシ政権においても、従来の補助金は追加的予算を投入しつつ、継続され、受給者の返済不履行を含めた運用実態も続くだろう。しかし、これまでの運用実態を踏まえると、一連の雇用政策が当初の対象として設定されたはずの低就学歴であり貧困状況にある国民から肯定的な評価を得られるとは思われない。さらに、ニュシ政権下では、近年の労働需要を充たす一つの指標である中等教育課程の修了者も順次増加し、労働市場に参入する。試験的実施期間であった職業教育が本格的に始動する。これまで労働需要に十分には応じられなかった労働市場の応答可能性が高まったとき、政府の雇用対策の真価が問われることになるだろう。
参考文献
(あみなか・あきよ/アジア経済研究所)
脚 注
  1. モザンビークにおける貧困削減のための政策は、ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: MDGs)の具体的な中期行動計画「絶対貧困削減行動計画(Plano de Acção para a Redução da Pobreza Absoluta: PARPA)I期:2001~2005年、II期:2006~2009年」、それに続く直近の「貧困削減行動計画(Plano de Acção para a Redução da Pobreza: PARP)2011~2014年」である。上記のIMFによる評価はPARPに対するものである。
  2. これらの特区は2015年時点で全国に4カ所のZEEと4カ所のZFIが設けられているが、今後さらに増設が予定されている。また、個別の企業が独立型の産業自由区を設置することが可能となっている( http://www.gazeda.gov.mz/ , 2016年3月10日アクセス)。
  3. 2015年1月のニュシ政権発足直後の省庁再編では、従来の労働省は労働・雇用・社会保障省(Ministerio do Trabalho, Emprego e Segurança Social: MTESS)と改変された。
  4. “South African Company Aveng Expanding in Mozambique.”
    http://allafrica.com/stories/201305200586.html , 2016年3月10日アクセス)
  5. “Fundo de Apoio à Iniciativa Juvenil beneficiou mais de 60 jovens” 16 de Agosto 2010.
    http://opais.sapo.mz/index.php/sociedade/45-sociedade/8671-fundo-de-apoio-a-iniciativa-juvenil-beneficiou-mais-de-60-jovens.html , 2016年3月24日アクセス)