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論考: 誰が「海賊」を処罰するのか?
——「地域訴追モデル」とケニアにおける海賊裁判——

アフリカレポート

No.54

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誰が「海賊」を処罰するのか?——「地域訴追モデル」とケニアにおける海賊裁判——
■ 論考: 誰が「海賊」を処罰するのか?——「地域訴追モデル」とケニアにおける海賊裁判——
■ 杉木 明子
■ 『アフリカレポート』2016年 No.54、pp.1-12
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要 約

2000年代半ば以降、アデン湾・ソマリア沖で急増した海賊問題は、海賊の取締や処罰を国際社会に問い直す問題である。海賊の不処罰が顕在化する中で新たな対応に迫られた国際社会は、様々な選択肢の中で拿捕国が拘束した海賊被疑者をソマリア近隣諸国へ引渡し、第三国が普遍的管轄権のもとで訴追・処罰する「地域訴追モデル」を次善策とみなした。ケニアはソマリア近隣諸国の中で最も多くのソマリ海賊被疑者を受入れ、処罰してきた。本稿ではケニアの先駆的な海賊裁判の事例から「地域訴追モデル」の問題を明らかにし、海賊および海上犯罪を処罰するためにどのような取り組みが必要であるか検討する。


キーワード : 海賊 普遍的管轄権 ケニア ソマリア 地域訴追モデル



はじめに

2000年代半ば以降アデン湾・ソマリア沖で急増した海賊・武装強盗問題(以下、ソマリア沖海賊問題)は海上安全保障の重要性を認識させ、海賊行為を誰が取締り、誰が処罰するのかを国際社会に再考させた。古くから海賊は「人類共通の敵」とされ、海賊行為は普遍主義のもとで取締の対象とされてきた。従来の慣習法を成文化した国連海洋法条約(United Nations Convention on the Law of the Sea: UNCLOS、以下、海洋法条約)では公海およびいずれの国の管轄権に服さない場所において海賊行為が発生した場合、いずれの国の軍艦も海賊船舶を臨検し、拿捕し、自国の裁判所で処罰できると定めている。そして第100条では、全ての国に最大限に可能な範囲で海賊行為の抑止に協力することを求めている。だが、このような規定がソマリア沖海賊問題に対する国際協力を即座に導き出すものではない。

アデン湾・ソマリア沖は年間約2万隻の船舶が通航し、世界の原油輸送の約12%が通過する海上交通の要所である[USANSC 2008, 4]。そのため、国連安全保障理事会(以下、安保理)の決議をふまえ、様々な国が海上警備を行ってきた。しかし、国内法の不備等の問題から、多くの国が拘束した海賊を武装解除された上で釈放していることが次第に明らかになった。このような慣行は海賊問題の解決を阻む一因であると考えられ、安保理や実務家レベルの会合で海賊の逮捕・訴追・処罰を行うための様々な提案が出された。これらの中で拘束した海賊(容疑者)をソマリア周辺の第三国が普遍的管轄権を適用して受入れ、国内裁判所で容疑者を訴追し、裁判を行う、「地域訴追モデル」が実施されてきた[Karim 2014, 64]。だが、このモデルが海賊の取締・処罰において適切なのだろうか。本稿では、地域訴追モデルの主軸となったケニアにおける海賊裁判の実態と問題を明らかにし、海賊や海上犯罪の処罰に対して、国際社会はどのように対応すべきかを考察する一助にしたい。


1. ソマリア沖海賊問題の概要

ソマリア沖海賊の起源には諸説あるが1、集団的な海賊行為は1991年に始まり、図1のように2008年に急増したという説が有力である2。遠藤[2009]が海賊活動は政府の統治機能が弱体化し、沿岸地域を十分に管理できなくなった場合に活性化しやすいと指摘しているように、ソマリア沖海賊問題は、ソマリアの政治情勢と密接な関連がある。ソマリアでは1991年のバーレ政権崩壊以降、事実上3つの政体(北西部のソマリランド、北東部のプントランド、および南部)に分かれている。2005年に成立した暫定連邦政府(Transitional Federal Government: TFG)、および2012年に誕生した連邦政府(Federal Government of Somalia: FGS)は合法的な「中央政府」とみなされているが、TFG/FGSが実効支配しているのは南部の一部にすぎない。ソマリアの海賊集団は主にソマリア北東部のプントランドおよび中央部のムダーグに拠点を置いている場合が多く[UNSC 2008]、海賊活動の活性化は1998年に樹立宣言をしたプントランド自治政府の実態と関連している3。大半のソマリ海賊は「身代金要求型海賊」で、改造した中古のトロール船などを母船として利用してソマリア沿岸からインド洋やアデン湾へ移動し、標的に接近すると、母船から降ろした小型の高速ボートで標的の船を襲撃し、船と乗員を拘束する。人質の確保に成功すると、海賊集団と関係が深い「ネゴシエーター」とよばれる身代金交渉者が乗員の関係者(通常は乗員の雇用主、海運会社、海上保険会社など)と交渉を行い、合意に達すると身代金は現金で海賊集団のリーダーへ届けられる。獲得した身代金は、海賊活動の資金提供者、情報提供者、実動部隊(海賊実行犯、人質の世話係等)だけでなく、地元の有力者(有力な政治家、クラン、サブ・クランのリーダー、ビジネスマン、ソマリ・ディアスポラなど)へも分配される[UNSC 2010a, 99]。プントランド自治政府の有力者や治安維持機関は、海賊から得られる経済的利益を考慮して海賊活動を黙認している。そのため、海賊集団が取締対象になることは稀で、逮捕された場合でもほとんどの海賊は処罰を逃れてきた[UNSC 2008c, 31-32]。

海賊行為が海上輸送や世界経済に与える影響は深刻で、経済コストは2010年で年間70~120億ドル、2011年で年間66~69億ドルに上ると推計されている[Bowden and Basnet 2012]。安保理は度々決議を採択し、公海およびソマリア領海(領土も含む)における海賊・武装強盗の取締を承認し、北大西洋条約機構(NATO)、ヨーロッパ連合(EU)、アメリカ主導の第151連合任務部隊(CTF-151)、およびロシア、インド、中国、マレーシア、韓国、日本、イラン等の各国が海賊の取締を行ってきた。さらに、2008年12月の安保理決議第1851号をうけて海賊問題に対処するための国際協力と情報交換を目的とする「ソマリア沖海賊コンタクト・グループ(Contact Group on Piracy off the Coast of Somalia: CGPCS)」を2009年1月に発足し4、ソマリア周辺沿岸諸国は2009年に「ジブチ行動指針(Djibouti Code of Conduct: DCoC)」を採択した。だが、海賊対策が本格化した2009年以降もソマリ海賊の襲撃は減少せず、ピーク時にはソマリア沖から約700海里も離れたセーシェル周辺海域でも襲撃が報告された。2010年5月の時点で海軍又はコーストガードに拘束された9割以上の海賊が訴追されずに釈放されていたことが明らかになった[UNSC 2011a]。それは国内法の不備、移送に伴う時間と多大な費用、ノン・ルフールマン原則などから5、自国の船舶又は乗員が襲撃されたケースを除き、海賊を拘束した国は海賊容疑者を自国へ移送し、訴追することを躊躇したためである。このような海賊の不処罰は海賊行為を抑止する障害の1つと考えられた。

図1 アデン湾・ソマリア沖襲撃件数(2000年~2014年)
図1 アデン湾・ソマリア沖襲撃件数(2000年~2014年)
(出所)ICC-IMB[2000-2014]から筆者作成。

2.地域訴追モデル

海賊は普遍的管轄権が適用される唯一の国際犯罪と言われてきたものの6、グローバル・レベルで海賊行為の訴追・処罰はあまり制度化されてこなかった。その要因の1つは、19世紀後半になると海賊問題が沈静化し、海洋法条約の規定を適用しうる事案が殆ど発生しなかったことにある。1990年代にマラッカ・シンガポール海峡で急増した船舶襲撃事件の大半は沿岸国の領海で発生した武装強盗であり、基本的に沿岸国の管轄権において対処しうる問題であった。これまで制定されてきた海洋法条約や「海洋航行の安全に対する不法行為防止に関する条約(Convention for Suppression of Unlawful Acts Against the Safety of Maritime Navigation、以下、SUA条約)」では諸国の共通利益を害する犯罪を国内法レベルで訴追、処罰することを求めているが、海賊や海上犯罪の処罰を一元的に担う国際機関や国際裁判所は存在していない。ソマリ海賊の不処罰に対処するため、国連事務総長は2010年7月に海賊裁判に関する7つの選択肢を提示し[UNSC 2010b]、様々な実務家や研究者はソマリ海賊の裁判に関する新たな方策を示すなど、海賊の訴追・処罰に関して多様な案が提案されてきた。これらの提案は、主に以下の4タイプに分類できる。

(1)第三国にソマリア法廷を設置し、ソマリア国内法で海賊を訴追・処罰する
(2)海賊裁判のための国際裁判所もしくは地域裁判所を新設する
(3)既存の国際裁判所の管轄権に海賊行為を含め、海賊容疑者の裁判を実施する
(4)ソマリア周辺諸国が国内法を整備し、各国の裁判所において海賊・海上犯罪の被疑者に対する訴追・処罰を行う

上記の案のうち、(1)はソマリアと受入国の間で合意が必要であり、裁判を行うにはソマリアの海賊処罰法および刑事訴訟手続きの整備、裁判官、検察官の養成が必要であるために、設立に時間がかかる。TFGはこの案を拒否し[UNSC 2011b]、アメリカやイギリスも反対した[Sterio 2012, 119-120]。(2)と(3)に関しては、新たな規約の制定又は規定を改正するために多国間交渉が必要であり、時間と費用がかかる。そのため既存の国内裁判所を利用し、ソマリア周辺諸国が協定を締結した第三国が逮捕又は拘束した海賊又は武装強盗の容疑者を引受け、容疑者を訴追し、有罪判決をうけた場合は収監するアプローチが現実的であると考えられた。国連事務総長が提出したソマリ海賊の訴追に関する報告書にはどの選択肢が最も適切であるかは明示されていないが、地域諸国の裁判所における海賊・武装強盗容疑者の訴追・処罰が効果的であると記されており[UNSC 2010b]、地域諸国の国内裁判所における海賊裁判が現実的な選択肢と考えられていたことが窺える[Geiβ and Petrig 2011,171]。国連薬物犯罪事務所(United Nations Office on Drugs and Crime: UNODC)も地域訴追モデルを支持し、2009年に開始した海上犯罪プログラム(Maritime Crime Programme)において、ソマリアおよびソマリア周辺諸国を支援してきた[UNODC, n.d.]。

地域訴追モデルでは、海賊被疑者を拘束した国が、協定を結んでいるソマリア周辺の第三国へ被疑者を引き渡し、当該第三国が国内法に基づき、被疑者を訴追・処罰することになっている。拿捕国から第三国への海賊の引渡は、通常の2国間による犯罪人引渡し(extradition)とは異なり[Geiβ and Petrig 2011, 192-193]、海洋法条約に拿捕国以外の第三国が海賊を訴追することを明示した規定はない。近年の議論では海洋法条約第105条は拿捕国に訴追する権限があることを示しているが、拿捕国以外の国が海賊を訴追する権限を排除したわけではなく、協力義務を課した第100条と併せてみれば、海賊処罰規定をもつ第三国への引き渡しは排除されていないとみる説が有力である[坂元2012, 177-178]。また構成要件が合致していれば、SUA条約に基づいてSUA条約締約国が海賊の逮捕・訴追・処罰を行うとともに[山田2013, 40]、拿捕国が海賊容疑者を第三国へ引き渡すことができると解されている。安保理では全ての国に海賊・武装強盗の逮捕、訴追・処罰に協力することを求め[UNSC 2008a, 2008b, 2008d, 2009]、2015年11月に採択された安保理決議第2246号でも地域レベルで海賊の訴追、裁判、処罰を制度化することをあらゆる国に求めている[UNSC 2015]。2009年4月に締結されたDCoCは参加国が海賊・海賊容疑者の逮捕、捜査、訴追を行うことと、国内法に基づき、逮捕国以外の第三国の被疑者に対して法を執行することを認めている[IMO 2009]。以上の点から、アデン湾・ソマリ沖で海賊を拿捕した国は、海賊を訴追・処罰する第一義的権利を持つが、それを放棄して他の第三国に容疑者を引渡し、当該第三国が訴追・処罰する法的根拠は担保されていると考えられる[Geiβ and Petrig 2010, 198-220]。


3.ケニアにおける海賊裁判

2008年12月ケニアはイギリスと交換書簡を交わし、それ以後、本格的に第三国が拘束した被疑者の受入を開始した。2010年4月に、ケニア政府は協定締結国が拘束した海賊被疑者の受入中止を発表し[News 24, 2010]、2012年に実際の受入を停止するまで、ケニアはソマリア周辺沿岸諸国の中で最も多く第三国が拿捕した海賊被疑者を訴追し、処罰してきた。

(1)海賊裁判の法的根拠
ケニアで海賊被疑者に対する訴追と処罰を行う法的根拠となるのが2009年に制定された商船法、2010年に改正された憲法、およびケニアが批准した海洋法条約、SUA条約、人質行為禁止条約等の国際条約である。商船法が2009年9月1日に発効する以前は、1967年に制定された刑法(Penal Code)第69項が海賊行為を処罰する法的根拠であったが、商船法の発効により刑法第69項は廃棄された。商船法では海洋法条約やSUA条約など主要な海洋犯罪関連の国際条約が国内法化されている。商船法の第370(4)項で、公海および領海で海賊行為を行った者は自国民でなくても起訴の対象となることが記されている[Ganthii 2010, 429-430]。また、2010年ケニア憲法第2条第5項及び6項で、ケニアが批准した条約や協定は国内法の一部として直接適用される国際法一元論の立場が明示された[ROK, 2010]。このように国内法が整備されたことから、普遍的管轄権の適用により、自国民でない海賊容疑者の訴追がケニアで可能となった。

なお、商船法が発効したのが2009年9月1日であることから、それ以前に被疑者が拘束された海賊裁判10件(76名)では管轄権の有無が裁判で争点となった[Ganthii 2010, 417]。第三国がケニア領海以外で拘束した海賊容疑者をケニアへ引き渡した最初の裁判は、2006年に治安判事裁判所(magistrate court)で行われたRepublic V. Hassan Mohamud Ahmed and 9 Othersで、治安判事はケニアの管轄権を認め、10名の海賊容疑者に7年の実刑を科した。この判決を不服とする容疑者らは高等裁判所へ上訴したが、棄却された[Ganthii 2010,432]。

(2)海賊裁判の概要
ケニアが海賊容疑者を受入れていた時期、その処理は以下のように進められてきた。協定締結国が拘束した海賊容疑者がケニアへ引き渡されると、年齢確認が行われ7、モンバサにあるシモラテワ(Shimo la Tewa)刑務所に拘留される。海賊容疑者の仮釈放は認められておらず、ケニア刑事訴訟法(Criminal Procedure Act of Kenya)に基づき裁判が行われる。ケニアはソマリアと犯罪者引渡協定を結んでいないため、既決囚のソマリアへの移送は行われていない8。シモラテワ刑務所は1954年に設立されたケニアで最も警備が厳重な刑務所の1つで、2014年9月の時点で、海賊および海上犯罪の容疑で逮捕された既決囚94名と未決囚16名が別の罪状で収容されているケニア人達から隔離されたコンパートメントに収監されていた9。海賊裁判は通常の刑事裁判と同じプロセスで行われる。検察として海賊裁判を担当する特別チームが、モンバサおよびナイロビに拠点を置く6名の検察官を中心に編成され、海賊・海上犯罪部(Piracy and Maritime Crime Division)が取調と裁判を担当している10

2012年までにケニアが第三国から受入れた海賊・武装強盗被疑者の裁判は2014年9月の時点で1件を除き、治安判事裁判所レベルでの裁判は終了し、上訴された数件が高等裁判所で審議中であった11。2008年から2012年にかけてケニアが協定国から受入れた164名の海賊・武装強盗容疑者のうち、有罪が確定した既決囚94名の最高刑は20年で、最も短い刑期が4年であった12。なお、2015年6月に刑期を終えた62名がソマリアへ送還され、今後刑期を終了する受刑者が釈放される予定である[Shabelle Media Network 2015]。

(3)裁判実施上の問題
ケニアで海賊裁判を行う上で懸念されたのが、被疑者の基本的人権の保護、とりわけ公正な裁判を受ける権利の保障であった。海賊の引渡が始まった当初、海賊が勾留されている刑務所が過密で衛生状態に問題があり、裁判を行う上での基本的権利が保障されていなかった[VOA 2009]。UNODCは司法関係者や刑務官に対する訓練プログラムを実施し、刑務所内の整備を行うとともに、被疑者の弁護人や裁判に必要な費用を負担した。また、Kituo Cha Sheriaなどの人権NGOは必要に応じて弁護士を斡旋し、定期的に刑務所を訪問してソマリ海賊達と面談を行い、モニターしている。その結果、刑務所にいる海賊および容疑者達の環境や食事は、2009年に到着した時よりも改善したと報告している[Oriso 2011, 14]。

しかしながら、海賊裁判を市民及び政治的権利に関する国際規約等に定められている公正な裁判を受ける権利からみた場合、逮捕されてから訴追されるまで時間がかかること、推定無罪の原則が守られていないこと、刑事手続き上の諸権利に関する問題などがみられた。特にケニアの海賊裁判では第三国が逮捕した被疑者を訴追する際、刑事手続きに関する3つの問題がみられた。第1は、証拠の確保である。海賊裁判では、ケニア以外の国が被告を拘束したため、海賊を逮捕した国が証拠を提供する必要がある。だが、海賊が拘束前に証拠の隠滅を計ったり、コーストガードや海軍兵士が海賊行為に関連した証拠を適切に押収や保全しておらず、証拠不十分のために、海賊容疑者が釈放されることが度々起きた[Muteiti 2013,74]。

第2は、証人の召喚である。海賊裁判での主要な証人である乗員、コーストガード、海軍の兵士等は1年の大半を海上で過ごしている場合が多く、一定期間ケニアに滞在し、証人として裁判に出頭してもらうことは難しい。また証人の中には身の危険を感じ、法廷で証言することに躊躇する人もいた[Lorenz and Paradis 2015, 216-218]。証人の確保をより効率化するために、2011年にケニア高等裁判所は、テレビ会議システムを使った証人尋問を許可し、一部の海賊裁判では、証人がいる在外のケニア大使館と法廷をテレビ会議システムで結び、証人喚問が行われた[Murungi 2011]。第3は法廷通訳の問題である。ケニアでは、刑事訴訟法(Criminal Procedure Code)および2010年憲法において、被告は自らが理解する言語で裁判を受ける権利が保障されている。裁判時の使用言語は基本的に英語であり、ソマリ人の被告の多くは英語を理解せず、話すことができないため、公判中は法廷通訳がソマリ語と英語を通訳している。また証人尋問が行われる際にも証人が使用する言語に応じた通訳が必要となる。ケニアでは、ソマリ語と英語の通訳を見つけることはさほど問題はないが、それ以外の言語に対応できる法廷通訳を見つけることは容易ではない13。その結果、裁判では度々複数言語によるリレー通訳が行われ、裁判の遅延や誤訳等の問題が生じた[Mwangura 2011]。


4.地域訴追モデルの評価

ケニアにおける海賊裁判は、普遍的管轄権を適用して多くの海賊被疑者を訴追し、処罰した先駆的事例となった。しかし、地域訴追モデルが海賊を訴追・処罰する司法機能を担うには様々な問題がある。紙幅の制約上、ここでは主要な問題を5点指摘しておきたい。

地域訴追モデルにおける第1の問題は海賊被疑者受入国の政治的意思である。地域訴追モデルが機能するには、多くの国が実際に拿捕された被疑者を受入れ、普遍的管轄権に基づき海賊を訴追、処罰することが必要である。ソマリア近隣諸国では、ケニアの他にセーシェル、モーリシャス、マダガスカル、タンザニア等が法制度を整備し、協定締結国が拿捕した海賊被疑者の受入・訴追を合意している。しかし、大半の国が普遍的管轄権の適用を限定している。例えば、セーシェルはEUと海賊・武装強盗容疑者の引渡に関する交換書簡を締結したが、セーシェルが受入を合意したのは、(1)セーシェルの領海、内水、排他的経済水域で拘束された海賊・武装強盗容疑者、(2)公海上でセーシェル船籍の船舶、又はセーシェル船籍でない船舶に乗っていたセーシェル人を襲撃した海賊で、公海上でセーシェルと直接関係ない船舶を襲撃した海賊の受入はセーシェル政府の裁量に委ねられている[EU-Seychelles Transfer Agreement 2009]。タンザニアの場合も、2010年に改正した刑法で訴追される海賊被疑者はタンザニア船籍を襲撃した場合か、タンザニアと提携を結んだ国が公海上で海賊を拿捕した場合に限定している。また、海賊容疑者の訴追を行うには検事総長の合意が必要となった。刑法がこのように改正されたのは、タンザニアが「海賊の投棄処分場」になるのを防ぐための措置であるといわれている[Egede 2014, 260-262]。普遍的管轄権の適用に基づく海賊の訴追・処罰の意義は理解されていても、後で述べるように、海賊の受入・訴追に伴う負担から、多くの国は国益に基づき被疑者の受入を選別せざるをえないのが現状なのかもしれない。

第2の問題は、海賊裁判実施国における負担である。ソマリアと隣接しているケニアは海賊の襲撃に伴い海上輸送や観光産業が打撃をうけた。当時首相であったR・オディンガ(Raila Odinga)は、海賊の襲撃は世界の安全保障に対する脅威であるとともに、ケニア経済へ悪影響を与えていることから、ケニアは海賊を訴追しなければならないと主張した[Kilner 2009]。また、欧米諸国はケニアに対して様々な技術支援や訓練の提供を表明し、海賊を受入れ、訴追することを説得したと言われている[Obuah 2012, 52]。しかし、ソマリ海賊出没によるケニア経済への影響は認知されつつも、次第に海賊容疑者の受入はケニアの司法制度や安全保障に過度な負担をもたらすとみなされるようになった。2010年12月の時点で、欧米諸国の海軍等が拿捕した海賊容疑者に普遍的管轄権が適用された裁判の76%がケニアで行われていた[Dutton 2013,75]。海賊の訴追が大幅に増えたため、モンバサでは刑事訴訟の未処理案件がさらに蓄積し、刑務所の過密状態が悪化した。また協定締結国が約束した裁判所や刑務所設備の改善や、司法関係者への支援を十分に行っていないとケニア当局は述べている[Daily Nation 26 June 2010]。協定国が逮捕した海賊容疑者の受入を決定した政府の政策は安全保障の観点からも非難された。ケニアでは、ソマリアの武装組織アル・シャバーブ(Al-Shbaab)や、それに共鳴するアル・ヒジュラ(Al-Hijra)などの武装集団が行ったとみられる爆発事件やテロが頻発した[津田 2012]。ケニアがソマリ海賊を訴追し、処罰することは、ソマリ武装組織によるテロや報復の対象となるリスクを高めることになると危惧された[Osiro 2011, 15]。

第3の問題は、訴追国における海賊に対する量刑の差異である。世界全体で2006年から2014年5月の間に判決をうけたソマリ海賊407名の量刑の平均は約14年で、量刑の平均はヨーロッパ諸国が10.8年で、ケニアが約8.3年であるが、セーシェルは約14年である[Kontrovich 2015, 302-305]。地域訴追モデルの場合、各国が自国の刑法規定で処罰を行うため、おのずと刑罰が異なる。同種の海賊行為に従事しても訴追される国よって量刑が異なることは、公正な処罰や人権の保障という点では問題である。

第4の問題は、海上で実際に海賊もしくは武装強盗に関与し、拘束された実行犯のみが訴追され、処罰されることである。地域訴追モデルでは、海賊集団のリーダー、資金提供者、ネゴシエーターといった海賊ビジネスを計画し、指揮し、最も利益を得る責任者を逮捕し、訴追することができない。UNODCは、2013年6月の時点で訴追することができた海賊集団のリーダーや資金提供者は12名以下だと報告した[Cole 2013]。第5に刑期を終了した元海賊の処遇である。現時点で刑期を終えた元海賊をケニアはソマリアへ送還しているが、ソマリアの治安は不安定で人権侵害も深刻であるため、ノン・ルフールマン原則の点から、元海賊を送還させることには問題があるかもしれない。また、現行の制度や協定には刑期終了後の元海賊に対する社会更生やフォローアップがないため、再び海賊行為に関与する可能性がある。

地域訴追モデルが機能するには、各国が普遍的管轄権を適用し、第三国が拿捕した海賊容疑者を訴追し、拿捕国を含めた関係諸アクターが訴追国に協力することが不可欠である。しかし、海賊を訴追することに過度な負担が伴えば、直接的に国益に関わらない事案でない限り、多くの国は普遍的管轄権を積極的に行使することはないだろう。だが、セーシェルやタンザニアのように自国の国益に直接又は間接的に関わりのある被疑者のみを受入れるのであれば、地域訴追モデルは形骸化してしまう。ソマリア周辺諸国に海賊の訴追が可能となる司法制度が整備された場合でも、実行犯ではない海賊組織のリーダーを逮捕し、訴追することは難しい。これらの点からみると、地域訴追モデルはソマリア沖海賊の実行犯を処罰することはある程度可能であるが、限界がある。


おわりに

ローマ帝国時代から19世紀に至るまで、海は万民の共有物とされ、公海はいかなる国民の領有に服さず、自由な利用が認められた領域として、「漁業の自由」と「航行の自由」からなる「海洋の自由」が国際的に受け入れられてきた。しかし、国際海洋資源の保護と持続的な利用のため海洋法条約が制定され、それ以後、「漁業の自由」は管理の時代へ移行した[都留2005]。「航行の自由」に関しても、海賊問題、海上テロ、海上犯罪などに対処するため、海洋の自由の原則から旗国主義(但し、海賊行為に対しては旗国主義の例外として普遍的管轄権)へ移行し14、2005年のSUA条約改正議定書制定のように更なる管理が模索されている。アフリカ連合で、2009年10月に「アフリカ海運憲章(African Maritime Transport Charter)」を採択し、「2050年アフリカ統合海洋戦略(2050 Africa’s Integrated Maritime Strategy)」を打ち出したように、アフリカ諸国も「海洋の管理」の重要性を認知している。

しかし、アフリカではソマリア沖海賊問題が顕在化するまで、海賊問題や海上安全保障に関する関心は相対的に低く、これらの問題の対策は殆ど講じられてこなかった。現時点(2015年11月)でソマリア沖・アデン湾では海賊による襲撃は沈静化しているが、海賊組織が壊滅したわけではない。また、アフリカ域内ではギニア湾での海賊事件は続き、海賊以外の海上犯罪も多発しているのに対して、十分な取締や処罰が行われていない。第一義的には海賊拠点国が海賊を処罰することが望ましいが、海賊ビジネスが繁栄するのは、海賊の拠点地域がいわゆる「破綻国家」、「脆弱国家」といわれる統治・司法機能が欠如、もしくは脆弱であることが多いため、そうした国々に取締・処罰を期待できない。また地域訴追モデルでは海賊行為の処罰に完全には対処できない。海賊行為の広域性、海賊処罰が国家の裁量に委ねられている現状、地域訴追モデルの問題等を考えると、国際レベルもしくはアフリカ地域、又は準地域レベルで集権的な裁判所の新設、あるいは既存の地域裁判所の利用を検討する必要があるのではないだろうか。その場合、捜査、逮捕、引渡しに関しては諸国の協力が必要であるが、国際もしくは地域裁判所が管轄権を行使するため、国益に関係なく訴追が可能となり、海賊裁判の負担の集中、量刑の差異の問題も解決解消できる。但し、海賊集団のリーダーに対する訴追・処罰を実現するには、実行犯や海賊集団内部からの情報や証言、身代金や活動資金の行方等の情報を収集するために、関係諸国、安保理、国際警察刑事機構等の国際諸機関、金融機関などから協力を得る権限が当該裁判所に付与される必要がある15。海賊の処罰という課題は、海洋という「コモンズ」の共通の利益を醸成し、共通の不利益を防ぐための各国の政治的意思と国際社会のコミットメントを改めて問いかけている。



参考文献

<日本語文献>
  • 遠藤哲也2009.「ソマリアの破綻状況と海賊現象」『海外事情』57(3):57-70.
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(すぎき・あきこ/神戸学院大学)


付記:本稿は2015~2017年度科研費(研究課題番号:15K13000)による研究成果の一部である。


脚 注
  1. 例えばMenkhaus[2009]は1991年説、Sorensen[2008]は2003年説を唱えている。この他に1994年説、2003年説、2005年説等がある。
  2. 1989年から1991年にかけて反政府勢力のソマリ国民運動(Somali National Movement: SNM)が船をハイジャックし、押収した物品を転売していた。SNMはバーレ政権支配下にあるベルベラへ物資が輸送されるのを阻止し、政権の弱体化することが襲撃の目的であると発表した。SNMの襲撃は政治的な目的も含まれているため、海洋法条約第101条に定められている海賊の定義に厳密には該当しないと解されている。
  3. プントランド自治政府は、1998年の設立当初はコンセンサスと対話に基づく統治・司法体制の整備が進められ、評価されていた。しかし、2001年11月の大統領選挙で当選したJ・A・ジャマ(Jama Ali Jama)と現職に留まろうとするA・ユスフ(Abdullahi Yusuf)大統領との間で対立が激化し、プントランドでは政治的混乱が続いた。ユスフはTFGの大統領に選ばれ、2004年にプントランドを去った。2005年にM・アデ・ムセ(Mohamud "Adde" Muse Hersi)が大統領に就任すると、さらにプントランドの経済状態は悪化し、財政破綻を引き起した。政府や治安維持機関の腐敗や汚職が悪化した[杉木 2011, 92-93]。
  4. CGPCSの第1回会合は2009年1月14日に開催され、24ヶ国、5つの国際機関が参加した。この会合で海賊問題に関する多国間協力を推進するために5つの作業部会((1)海上警備・能力構築、(2)法律、(3)海運関連、(4)広報、(5)資金ネットワーク)が設けられた。
  5. ノン・ルフールマン原則は生命又は自由が脅威にさらされる恐れのある国へ追放、送還、又は引渡しを禁止する原則で、「難民の地位に関する条約」や「拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約」に記されている。同原則は、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」第7条や欧州人権条約第3条にも適用されている。近年、犯罪人の基本的人権保護の観点から、引渡請求国へ人権基準の保証を得ずに引渡した場合、人権条約違反になるとする見解がある。例えば欧州人権裁判所では、ゼーリング事件でイギリスが死刑存置国であるアメリカへ被疑者を引渡したことは欧州人権条約第3条に違反するという判決を示した。
  6. 「普遍的管轄権」は自国領域外で行われ、行為者および被害者の国籍が自国の国籍でなく、直接自国に利益をもたらす被害でなく、自国とは直接関連を持たないものに対して国家が行使する権限をさす。刑事法の分野では、海賊のみが普遍的管轄権の対象であったが、1990年代以降、ジェノサイドや人道に対する罪など重大な人権侵害とみなされる犯罪に対して普遍的管轄権が行使されるようになった[竹内 2011]。
  7. 本人の供述で年齢が確定しない、もしくは疑義がある場合は、医師の検査により年齢を特定した。これまでケニアに引き渡された海賊容疑者のうち、未成年者1名以外は全員成人であると判断された。Interview with Mr. Samuel K. Nyutu, Assistant Commissioner of Prisons, Shimo la Tewa Prison, 22 September 2014.
  8. Interview with Mr. Stephen Riech, Chief Magistrate, Mombasa Magistrate, Republic of Kenya, 24 September 2014.
  9. Interview with Mr. Samuel Karanja Nyutu, Assistant Commissioner of Prisons, Shimo La Tewa Prison, Kenya Prison Service, 22 September 2014.
  10. Interview with Ms. Catherine Mwaniki, Senior Principal Counsel, Office of the Director of Public Prosecutions, Republic of Kenya, 24 September 2014.
  11. Interview with Mr. Stephen Riech, Chief Magistrate, Mombasa Magistrate, Republic of Kenya, 24 September 2014.
  12. Interview with Mr. Kenrodgers Kyaro, Chief Inspector, Prisoners Records, Shimo la Tewa Prison, 22 September 2014.
  13. Interview with Mr. Stephen Riech, Chief Magistrate, Mombasa Magistrate, Republic of Kenya, 24 September 2014.
  14. 船舶はその旗を掲げる国籍を有し、公海においては原則としてその旗国の排他的管轄権に服することを旗国主義という。旗国主義は船舶のみならず、その船内の人と物すべてにおよび、船内で発生した諸問題に対しては旗国の法令と裁判権が適用される。
  15. 海賊集団のリーダーの訴追・処罰に関しては、国際刑事裁判所規程を変更して海賊裁判を実施し、当該規程第28条の「上官責任」の概念を海賊集団のリーダーに適用して、訴追する可能性も議論されている[Newtown 2015]。