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資料紹介: Made in Africa ——Industrial Policy in Ethiopia——

アフリカレポート

資料紹介

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Made in Africa
■ 資料紹介:Arkebe Oqubay, "Made in Africa ——Industrial Policy in Ethiopia——"
福西 隆弘
■ 『アフリカレポート』2015年 No.53、p.76
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経験に基づいた産業政策論がアフリカでも議論されるときが来たことを、本書を読み終わって実感した。産業政策とは産業構造の変化を促す政策全般を示すが、一次産品に依存する経済構造の転換が重要課題だと認識されていたアフリカ諸国では、独立直後から産業政策が積極的に実施されていた。しかし、構造調整政策が導入されて以降、経済と貿易の自由化が推し進められ、国営企業、企業への補助金や低利融資、輸入関税といった産業政策のための手段が次々に奪われたのである。自由化政策は市場が成長産業を決めるとの「信念」に基づいているが、その後、アフリカ諸国では長く経済の停滞が続き、成長傾向がみられる近年はますます一次産品への依存を深めていることは周知の事実である。

著者は、エチオピアの首都アジスアベバの市長や首相アドバイザーとして長年かつ現在も政策にかかわっている人物である。エチオピアは、援助機関による経済自由化政策の要請に粘り強く抵抗し独自の産業政策を実施してきた経緯があり、その経験に基づいて産業政策の重要性を訴えるのが本書である。セメント産業、切り花産業、皮革産業を対象に、政策責任者として得た知識だけではなく、関係者や企業に対する聞き取り調査を積極的に用いて、具体的な政策の内容とその評価が詳述されている。アフリカの貧困国で行われた最も包括的な産業政策を知るうえで、非常に有意義な資料である。

産業政策をめぐっては、それを支持する非主流派の経済学者や政治経済学者が主流派経済学を批判しているが、両者の議論がかみ合っているとは言い難い。産業政策の効果を科学的に証明することの難しさから、前者の議論は厳密性に欠けることが多く、他方、後者はその効果よりも政府が市場に介入することの潜在的な問題を重視する傾向がある。本書における産業政策の評価も根拠が弱い場合が多いが、アフリカにおいて産業政策を実施し、それに伴って産業が成長しているという現実に基づいている点に、他にはない強みがある。

同様の産業政策が他のアフリカ諸国でも実現できるかどうかは、著者も指摘するようにいくつかの留保が必要だと思われる。特に、産業に優先順位をつけることは複雑な利害関係の調整が必要であり、また腐敗を防ぐことも容易ではないだろう。しかし、今後も産業政策に消極的な姿勢を続ければ、経済官僚から産業育成の知識が失われ、産業構造の転換が遠のくと危惧する。

福西 隆弘(ふくにし・たかひろ/アジア経済研究所)