資料紹介: アフリカを活用する ——フランス植民地からみた第一次世界大戦——

アフリカレポート

資料紹介

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■ 資料紹介:平野 千果子 著 『アフリカを活用する ——フランス植民地からみた第一次世界大戦——』
網中 昭世
■ 『アフリカレポート』2015年 No.53、p.73
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本書は、2007年~2014年にかけて京都大学人文科学研究所で行われた共同研究「第一次世界大戦の総合的研究」の成果の一冊である。従来、第一次世界大戦は、戦間期の植民地のナショナリズムの高揚に大きく影響を及ぼしたとされてきた。フランス領の場合、インドシナやアルジェリアでは独立戦争が泥沼化した一方で、サハラ以南アフリカではCFAフラン圏の存在を可能にした「親仏的」な関係が見られるなど、いわゆる支配・被支配関係の歴史からは想起しがたい側面もある。本書は、この想起しがたい状況を理解する手がかりを与えてくれる。

本書は3つの章で構成されている。第1章では、第一次世界大戦に際して、フランスが西アフリカでアフリカ人の新興エリート層と伝統的権威の双方にアピールし、植民地兵の動員に成功した手法を詳らかにする。第2章は、アフリカ人の戦時動員を可能にした背景として、「彼らの精神が私たちの意図に沿って形作られる」(仏領西アフリカ教育担当者の書『ある精神の征服』より)ことを究極的な目的とした植民地教育に焦点を当てる。さらに第3章では、1919年創業の自動車会社シトロエンが戦争を契機に行ったアフリカ大陸走破を取り上げ、この冒険心に満ちた官民協力プロジェクトが、国民と植民地の「距離」を縮めるのに一役買ったことを紹介している。

本書を読み進めると、現代アフリカと世界との関係にも通底する要素が、この時期にかけて随所に見られることに気づかされる。印象的なのは、フランス第3共和政自体が伝統的権威に対抗して形成された体制であるため、その価値転換を植民地にも持ち込んだはずだが、人的・物的資源を動員する理由により、植民地ではそれをあっさりと改めて伝統的権威を活用した点だ。また、企業家精神に溢れた民間企業のアフリカ進出は、官の強力なバックアップと他の宗主国との協力によって実現された。そして戦争で疲弊し、もはや世界の中心的存在ではなくなったヨーロッパ諸国が協力して、アフリカを維持しようとする計らいは「ユーラフリカ構想」へと繋がる。

本書が明らかにするように、近代的武力を背景にした抑圧に対するアフリカ人の妥協や苦悩の末の選択は、フランス側の視線を通して「親仏的」と表現されてきた。本書は、これを丹念に跡付けし、周到な植民地教育と宗主国社会におけるプロパガンダの結果、アフリカ人のみならず、フランス国民自身もそれを内面化し、再生産していった過程を明らかにしている。

網中 昭世(あみなか・あきよ/アジア経済研究所)