資料紹介: 国際援助システムとアフリカ ——ポスト冷戦期「貧困削減レジーム」を考える——

アフリカレポート

資料紹介

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■ 資料紹介:古川 光明 著 『国際援助システムとアフリカ ——ポスト冷戦期「貧困削減レジーム」を考える——』
■ 武内 進一
■ 『アフリカレポート』2015年 No.53、p.71
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本書執筆の動機として筆者は、JICA(国際協力機構)タンザニア事務所勤務時に受けた衝撃を挙げている。自信を持って進めてきた保健分野の事業について、ドナー会合の場で「なぜ、日本はいまだにプロジェクト援助をするのか?」と一刀両断に否定されたという。本書は、実務家である筆者からのこの批判に対する回答である。

1990~2000年代にかけて、世界の開発援助は大きく変化した。プロジェクト援助に代わってプログラム援助が主流になったこと、それに伴ってセクターワイドアプローチや財政支援が広く取り組まれるようになったこと、そして新たな援助潮流への日本の対応がどちらかといえば消極的なものだったことはよく知られた事実であろう。本書は、豊富なデータと実務家ならではの知見に基づいて、この援助システムの変化を描き出し、評価を加えている。

プロジェクト援助が主流だった時代、各ドナーは相手国政府と個別に関係を結び、ドナー間関係は比較的平等だった。しかし、「援助の氾濫」が被援助国政府に多大な負担を与えているとの批判をきっかけに、一般財政支援などのプログラム援助が望ましいという意見が国際社会で力を持つようになった。被援助国が策定した開発計画を基本とし、ドナーが協調して当該政府と政策対話を進めつつ、プログラム援助を供与すべきだとの考え方である。北欧諸国や英国が主導して、援助効果を高めるためにはこの手法が不可欠だとの国際世論が形成された。援助協調の名の下に、プロジェクト援助中心のドナーは現場で次第に周縁化された。ドナーの間に「序列」が形成されていったのである。冒頭の筆者の衝撃はここに由来する。

統計分析とタンザニアの事例分析に依拠して、筆者は、一般財政支援が当初意図した通りの結果を生んでおらず、被援助国はもとよりドナーも約束した行動をとっていないことを示す。これは興味深く、また重要な発見である。国際援助政策の背景にはドナー間の競合があり、どの国も自らに有利な政策を主流化させようとする。そこでは、自国が推す政策を国際益と整合的に説明し、相手を説得できたドナーが有利な立場を占める。終章では、日本が国際的な競争に耐えうる政策形成能力をつけるべきだという強い主張が感じられる。荒削りな文体と計量分析の多用のため必ずしも読みやすいわけではないが、本書には「言いたいこと」がしっかり盛り込まれている。実務家によるソウルフルな一冊だと思う。第19回国際開発研究大来賞受賞作品。

武内 進一(たけうち・しんいち/アジア経済研究所)