資料紹介: ココア共和国の近代 ——コートジボワールの結社史と統合的革命——

アフリカレポート

資料紹介

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■ 資料紹介:佐藤 章 著 『ココア共和国の近代 ——コートジボワールの結社史と統合的革命——』
佐藤 章
■ 『アフリカレポート』2015年 No.53、p.38
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アフリカにはまれな「安定と発展の代名詞」と謳われたコートジボワール共和国が、1990年代以降、突如として不安定化の道をたどり、内戦にまで至ったのはなぜか。本書は、世界最大のココア(カカオ豆)生産国であるこの国の1世紀あまりにわたる政治史からこの問いに迫った、本邦初のコートジボワール通史の試みである。

コートジボワールでのココア生産はあまねく全土で行われてきたわけではなく、栽培適地は国土の南半分を占める熱帯森林地帯に限定される。植民地化以前にはほぼ手つかずの状態にあった熱帯森林は、植民地期以降、アフリカ人小農によって切り拓かれた。開墾は森林地帯の東部から西部に向けて数十年にわたって進行し、南部森林地帯を世界屈指のココア生産地帯へと変貌させた。開墾の担い手は東部では地元民が中心だったが、西部へ向かうにつれ、域外からの入植者——栽培適地ではない国土の北半分や内陸に位置する近隣諸国の出身者——が多数を占める傾向が強まった。

このような過程のなかでコートジボワール固有の亀裂構造が生みだされた。ココア生産地帯である南部と労働供給地となった北部の経済格差、南部森林地帯の東西で地元民が置かれた経済的地位の格差(東部は地元民優位、西部は移住民優位)、総人口の3割近くを占めるに至った周辺諸国出身のアフリカ人に対するコートジボワール人の差別感情である。これらの社会的亀裂は1990年まで続いた一党制時代には政治的に抑え込まれてきたが、1990年代以降になると、民主化という新しい状況のなか、政党間対立に利用されるようになる。この帰結が1990年代以降の政治的不安定化とのちの内戦である。すなわち、コートジボワールの近年の不安定化は、植民地化期に遡る歴史的背景を有するものなのである。

本書はこのような視点に立ち、目まぐるしい政治の動きを長期的な社会経済変容の文脈において捉え直し、国家形成のあり方に根ざした歴史的課題として提示することを目指した。また、国際的な政治経済の動向と深く関係しながら展開されたコートジボワールの国家形成史をとおして、同時代の世界が置かれた近代の一様相を照らし出すことも本書のもう一つの狙いである。アフリカ政治に関心のある方はもちろん、広くアフリカ社会に起こってきた激しい歴史的な変化に関心のある方に是非手にとっていただければ幸いである。

佐藤 章(さとう・あきら/アジア経済研究所)