資料紹介: 西アフリカの王国を掘る ——文化人類学から考古学へ——

アフリカレポート

資料紹介

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■ 資料紹介:竹沢 尚一郎 著 『西アフリカの王国を掘る ——文化人類学から考古学へ——』
佐藤 章
■ 『アフリカレポート』2014年 No.52、p.98
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本書は、文書資料でも口頭伝承でも知ることができない過去への関心に突き動かされたひとりの人類学者(著者)が考古学の調査を志し、マリの人々と調査チームを組み、十数年にわたる粘り強い発掘調査を経て数々の発見をなしとげる過程を記したものである。これまでに人類学者として数々の成果を発表してきた著者の研究史として、考古学調査チームの活動史として、さらに、数千年のスパンを視野に入れた西アフリカの文明史として、充実した読み応えの内容が盛り込まれている。

調査チームの発掘フィールドはマリ北部である。広大な乾燥地帯が続く土地での調査はとても労苦の多いものと推察されるが、著者はそのようなつらさにはほんの軽く触れるのみで、歯切れのよい文体によって発掘の成果を次々と描き出していく。金属やガラスなどの工芸品とそれらを制作するための道具、遠く離れた地域に産する物品、日々の人々の暮らしや祈りを支えたであろう土作りの器や呪物、豊かな食生活を物語る穀物や獣骨・・・。これらの掘り出された遺物の記述を通して、かつてこの土地で営まれたであろう人々の生活が自然と浮かびあがってくる。さらに圧巻は、古都ガオのうち捨てられた一角の地中から、古く9世紀から10世紀頃に遡るとされる巨大な石造りの建造物が掘り出されるところである。著者によればこれは西アフリカ最古の王宮と考えられるものとのことだ。調査成果のエッセンスをテンポよく述べる語り口に、著者が調査に込めた熱意と喜びが感じられるところも本書の魅力である。

2011年に始まったマリ危機の際に、マリ北部の荒涼たる風景が国際映像を通して繰り返し伝えられた。武装蜂起、誘拐、空爆などといった現実政治と結びついた荒々しい振る舞いを捉えた報道映像のなかに、この地域の往事の豊かさを感じとるのは難しいことだった。あたかも戦争という圧倒的な現実は、過去への想像力までもやすやすと奪い去ってしまうかのようであった。しかし、その豊かさが疑いなく現実に存在したことを本書に示された発掘の成果は再確認させてくれる。その意味で本書は、武力紛争に屈しない想像力の大事さを伝えてくれる本でもある。広い読者にお勧めしたい一冊である。

佐藤 章(さとう・あきら/アジア経済研究所)