資料紹介: メディアのフィールドワーク ——アフリカとケータイの未来——

アフリカレポート

資料紹介

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■ 資料紹介: 羽渕一代・内藤直樹・岩佐光広 編著 『メディアのフィールドワーク ——アフリカとケータイの未来——』
児玉 由佳
■ 『アフリカレポート』2013年 No.51、p.93
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本書は、人類学者や地域研究者の視点から、アフリカの農村社会における携帯電話普及の影響を解明することをめざしている。なお、本書では、携帯電話の持つSNSやインターネット接続のような多機能性を考慮して携帯電話を「ケータイ」と呼んでいるため、以下それに従う。

多様な事例が紹介されているが、全体を通して明らかになるのは、アフリカの社会ではケータイが先進国とは異なる役割を果たしているということである。アフリカにおけるケータイは、個人によって独占的に利用されるものではない。ケニアの事例では、ケータイは、親戚や友人とのコミュニケーションを強化し、地理的制約を越えた相互扶助を可能にする重要なツールとなっている(第1章)。また、マリの若者の年齢集団トンは、年長者と雇用条件を交渉するときに、集団でケータイを使用して一対多の状況を作り出す。それによって、面と向かっては逆らいにくい年長者に対する交渉力を高めようとする(第3章)。ケータイによって、劇的にコミュニケーションが容易になったマダガスカルの事例(第2章)や、都市部と農村部の経済的関係が密になったナミビアの事例(第5章)、モバイルマネーを使いこなすケニアの難民の事例(第9章)は、地理的制約を容易に越えるケータイの可能性を提示している。しかし、アフリカ全体に均一にケータイが浸透しているわけではない。ガボンやボツワナの狩猟採集民やザンビアの農村女性にとってのケータイの役割は、日常のコミュニケーション向上に限定されており、経済的利益をもたらすまでには至っていない(第4、6、10章)。他には、東アフリカ牧畜社会での紛争におけるケータイの功罪を検討する第8章や、年配者がケータイを伝統への脅威をもたらす呪術の一種と解釈するケニアの興味深い事例を紹介している第7章がある。

序章と結論の章は、具体的なミクロレベルのケーススタディとのギャップを若干感じさせるものの、文化人類学や社会学の理論からアフリカにおけるケータイの役割を検討しており、雑多な印象で終わりかねない本書を引き締めている。

これまでアフリカにおける携帯電話の普及に関するミクロレベルでの調査報告がほとんど無かったことを考えると、本書は貴重な貢献であるといえよう。



児玉 由佳(こだま・ゆか/アジア経済研究所)