資料紹介:松浦 直毅『現代の〈森の民〉——中部アフリカ、バボンゴ・ピグミーの民族誌——』

アフリカレポート

資料紹介

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■ 資料紹介: 松浦 直毅『現代の〈森の民〉——中部アフリカ、バボンゴ・ピグミーの民族誌——』
児玉 由佳
■ 『アフリカレポート』2013年 No.51、p.31
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本書は、著者が2002年よりフィールド調査を行ってきた中部アフリカ・ガボンのバボンゴ・ピグミーに関する民族誌である。2008年に京都大学大学院理学研究科に提出された博士学位論文に大幅な加筆・修正を加えたものである。

バボンゴ・ピグミーは、他地域のピグミーとは異なり、定住化が進む中で周辺の民族と比較的対等な社会的地位を獲得している。本書は、それを可能としている要因について、経済的、社会的そして文化的側面から分析を進めている。

本書の特徴として、調査過程における著者の思考を率直に語っている点が挙げられる。著者が意図したものなのかはわからないが、ストレートな心情の吐露は本書に独特の「軽さ」をもたらしている。文化人類学を専門としていない読者にも読み進めやすい本である。

本書は、終章を入れて7章で構成されているが、大きな流れとして3つに分けることができる。まず、バボンゴの定住生活の実態が明らかにされ、次に近隣の農耕民とどのような関係を構築しているのかが分析される。そして最後に、どのような歴史過程を経てバボンゴ社会が現在の形へと変容してきたのかが検討されている。

もっとも多くのスペースが割かれているのが、二番目の近隣の農耕民との関係構築に関する分析である。先行研究では、ピグミーが狩猟採集活動から農耕へと生業の軸足を移していく過程で、農耕民によるピグミーへの差別が強まる傾向にあることが指摘されてきた。しかし、バボンゴの場合は、頻繁な交流を通して近隣の農耕民と友好的な経済的・社会的紐帯を形成することで、差別の拡大ではなく、より対等に近い関係を築いている。本書は、その要因について、経済的関係だけでなく、社会制度や言語の共有、彼ら独特の儀礼のもつ政治的・社会的権威など、さまざまな側面から検討している。特に、バボンゴと周辺民族との間の文化的、社会的そして政治的な関係性の構築において、儀礼が大きな役割を果たしていることが明らかになる第5章は非常に興味深い。ピグミーの文化人類学的研究において、一つの重要な参照枠となる研究である。

児玉 由佳 (こだま・ゆか/アジア経済研究所)