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「社会的公正」と再分配政策-エジプトの補助金制度改革の課題と展望

政策提言研究

井堂有子 (東京大学大学院博士課程)
2015年3月
PDF (1.38MB)

※以下に掲載する論稿は、平成26年度政策提言研究「政治変動期の中東地域と湾岸安全保障」の分科会(「エジプト動向分析研究会」)の井堂有子委員が、研究活動を通じて得た知見を自らの責任において取りまとめたものです。

はじめに

「パンと自由、社会的公正(あるいは人としての尊厳)」というスローガンが首都カイロの中心タハリール広場で高らかに掲げられた2011年1月25日革命以降 1 、エジプト社会での中心的議題として「経済発展と社会的公正」があった。1月25日革命から4年が過ぎ、この間にエジプトは大きな歴史的政治変動を経験してきた。すなわち、国内的には二度の大統領選挙と二度の憲法改正、選挙で初めて選ばれたムルシー大統領の失脚と軍事介入、その後のムスリム同胞団への弾圧、対外的にはシリア、イラク、パレスチナ、そしてリビア等の周辺地域において長引く紛争と不安定情勢の継続、そして各課題への対応である。1月25日革命直後の「経済発展と社会的公正」という議題は全く消え去った訳ではないにしても、革命後のある種の「ショック状態」にある現在、2014年7月に就任したスィースィー現政権が掲げているのは「安定と成長」である(土屋2014、長沢2015)。

しかしどのような政権であっても、対応を迫られる国内の課題は前政権から負の遺産として継承されてきたものであり、そこでは「社会的公正」の問題が依然として存在する。現在は政治変動の真只中にありながら、国家と社会の間の「社会契約」の再構築の作業が進んでいる最中にあると考えられる(伊能2011)。今の時点で、その落ち着く先は依然不透明であるが、この新たな「社会契約」の再構築の中で「社会的公正」がどのように議論され、定義付けられ、具体的な政策提案となっていくのかについては今後注視していく必要があろう。本稿では、「社会的公正」と富の再分配という観点から、長年エジプトの「社会契約」を象徴する制度とみなされてきた補助金制度改革を考察する 2

本稿の構成は次の通りである。第一章では、「社会的公正」をめぐる議論を幾つか確認する。第二章では、再分配政策としてのエジプトの補助金制度の経緯と意図、評価について考察する。第三章では、補助金制度と同義語にあたる「配給部門」の概要を整理する。さらにこの制度の二つの大きな柱である燃料と食糧への補助金制度に関し、現政権下での直近の改革案を課題整理し、今後の展望について考察する。

第一章 「社会的公正」と再分配政策

(1)「社会的公正」と格差をめぐって
近年、格差や不平等、そして富の再分配という古くて新しい課題が世界的に問い直されている。膨大なデータを駆使して格差がいかに健康や社会内部の暴力性・信頼感・結束力等に影響を与えうるのかを分析したウィルキンソンの研究(2009)をはじめとして、最近のOECDの報告も「所得格差が広がると経済成長率は低減する」と指摘する。そして具体的対応として、「税制や富の移転のための政策の実施は成長を損なわず、人的資源への投資のためにも特に子どもや若年層のいる世帯への再分配政策を行うべきである」と提言している(OECD2014)。2015年2月には、予てより先進国を中心に沸き起こっていたいわゆる「ピケティ・ブーム」が日本にも到来し、日本の国会審議における格差の問題をめぐる議論に影響を与えたと報じられたことは記憶に新しい。

「社会的公正」を掲げた革命が発生したエジプトをはじめとする中東各地においても、貧困と格差の問題は現実問題として存在すると考えられる。エジプトは2006/2007年度に「改革の成功例のトップ」 3 とみなされた時期があったにもかかわらず(世界銀行2008)、約4人に1人が貧困線以下の生活をしているという慢性的貧困の問題や特に高い若年層の失業率等、社会経済的な矛盾を背景として革命は発生したと考えられる。この点に関連してさらに踏み込んで、長年エジプトの中央統計局と共同研究を行ってきた加藤・岩崎(2013)はエジプト社会の構造的脆弱性を分析し、「慢性的貧困」に加え、エジプトの貧困の特徴として「一時的貧困(脆弱な貧困)を指摘している。所得分布は比較的に平等的ではあっても、貧困線付近に多くの世帯が集中しているという点である(同103~117頁)。

革命後の問題意識の高まりを反映し、最近の世界銀行と社会契約センターの研究もまさにこの格差に焦点を当てている(世界銀行2014)。報告書の第一執筆者であるシェリーン・アル=シャラルビー教授は革命前のベブラーウィ暫定内閣で「経済的公正」担当財務副大臣を務めたが、この報告書ではエジプトの格差問題について過去60年間の研究成果の集計・レビューを行っている。同教授によると、1952年革命以前のエジプトでは研究は存在しなかったが、所得分配と社会的公正については既に30年代から主要議題となっていたという。主に家計調査と世帯所得支出消費調査を元にジニ係数を用いた研究が多かったが、2000年代入ってようやく限られた研究者が世帯データをフル活用できるようになった。格差に関する評価としては、52年革命以降、他の途上国よりも格差は少なかったのではないかとし、2000年代の格差の改善を示す研究を紹介している(同13~35頁)。シャラルビー教授が結論付けるように、現実問題として格差の評価は容易ではない。この点で、革命前の格差の評価と現在のエジプトのキーワードである「社会的公正」とを関係性を分析する研究はまだ緒に就いたばかりといえる。

ではこの「社会的公正」は具体的には何を意味しているのか。しばしば言及されるのが、機会の平等、あるいは公的資金の不正利用・汚職・癒着・縁故主義への批判であろう。社会的排除とは反対の「社会的連帯」にはより「包摂的な発展」や社会的弱者の救済も含まれるであろう。多様なイメージを各人が持ちながらこうした言葉が用いられているものと思われる。

ムルシー政権崩壊直後の2013年7月以降に成立したハーゼム・ベブラーウィ前首相の下で財務大臣を約9カ月間務めたアフマド・ガラール経済研究フォーラム(ERF)所長は、1月25日革命後のエジプトの見通しを述べる中で、ムバーラク政権が打倒された理由として、この政権の「社会的公正への配慮の欠落」を指摘していた 4 。政府の小数エリートの周辺関係者(クローニー)のみで経済成長の成果を分配し、腐敗と汚職を蔓延させたことによって国民の怒りを買った、というものである。この見解は代表的なものと考えられる。財務大臣時代には、前述の世界銀行の格差に関する報告書の前書きを序し、「格差がない社会をこの世に見つけることはほぼ不可能である…が、機会の格差が成果の格差を生み出すということを論拠付ける研究は膨大にある。また、深刻な格差は、特に腐敗と結びついた時に、人々の幸せや社会に否定的な影響を及ぼしうる」とも述べている。

しかし、「社会的公正」の議論はこのように格差や不正に対する反対の立場を取るものだけではない。エジプトの人気コラムニストであるアイリス・ブトロスはジョン・ロールズの「無知のヴェール」(ある社会においてどの所得階層の家庭に生まれるかを事前に知らないという仮定)を引用し、1月25日革命以降のエジプトではどのような社会が公正であるのかを社会の全ての各人が考え具体策を模索するべきであると説く。日常レベルで「社会的公正」を実現するためにはどのように公的資金を使えばよいのか、各人の権利と責任、そしてお互いに協力するということはどういうことなのかを考えていくことが必要であり、それこそが新たな「社会契約」を定義し直していくことなのだと書く 5

(2)「社会的公正」のための政策手段
「社会的公正」を実現するための政策手段とはなにか。一般に、富の再分配ないし所得分配は貧富の差を軽減し、所得階層間の社会移動を促し、ひいては社会の公平性や安定性をもたらす政府の重要な機能の一つであるとされる。具体的には、農地改革やより平等な累進課税等の導入、賃金・雇用体系の改革、教育、医療、年金制度、と広範囲におよぶ。

エジプトにおいてこれらの制度改革は現在進行中であるが、近年、社会保障制度や社会的保護の議論がエジプトをはじめとした中東・北アフリカでも盛んにされるようになっていることが注目される(Jawad2014)。しかしエジプトの社会政策および社会保障制度はいまだ制度として脆弱であり、年金や医療、教育等の制度が未整備である(山田2011、柏木2008)。支出面でも教育や医療といった社会部門への支出よりも補助金支出の方が多く、多くの国民にとってほとんど唯一「目に見える」富の分配政策は補助金付の食糧とパン、安価な燃料や公共サービスであった。2014年の新憲法では基礎・高等教育および保健、科学的研究への支出を増加させることが明記され(それぞれ、対GDP比で4%、2%、3%)、今後の注視を要するが、現時点においては、補助金制度が実質的セーフティネットとして機能してきており、「私達国民の権利」として認識されていると理解できる。

なお、条件付き現金給付への移行が近年では世界的に大きな潮流となっているが(牧野2012、町北2009)、エジプトにおいても議論されている。Korayem(2013)は、現行の補助金制度の非効率性の問題はあるとしても、急速な物価上昇が続いている状況下では給付される現金の価値がすぐに低減してしまうことを考慮に入れると、各世帯に必要な基礎物資の配給を行う現行の補助金制度の改革に取り組む方が現実的である、と指摘している。今後補助金制度の改革が進み、ターゲティングについて検討が進む中で、併せて議論が深められていくことと思われる。

では補助金とはなにか。補助金の定義や分類、使用法は各国政府や国際機関等によって異なるが、経済学的には、政府から企業や世帯に支払われる「負の租税」と定義される(Rutherford 2002)。エジプトのエネルギー補助金を研究したKhattab(2008)は、「公益の実現のため、物品価格を消費者に対して低く、あるいは生産者に高く設定することを目的とした政府による金銭譲渡」と定義しており、これがエジプトの文脈に近いだろう。

補助金の分類についても諸説あるが、80年代の途上国における食糧補助金制度の分配費用を分析したValdes(1988)は、「明示的」と「暗黙的」の補助金支出の二つの区分を対比させている。前者は政府による財政支出を伴うが、後者は供給価格(農民価格)を低く抑えるものである。「明示的」補助金制度(食糧補助)を実施する諸国において、政府は費用を農民に転化することで財政負担を軽減する傾向があり(農業部門への負荷を代償にして消費者に「暗黙的」補助を提供する)、この場合、両者の区分は困難である、と指摘している(Valdes 1988)。さらに同義語として、「直接的」と「間接的」補助という区分もあるが、エジプト中央統計局は以下のような整理を行っている。この区分に従うと、エジプトの食糧・燃料補助金は一見すると直接的補助金の物品支給のカテゴリーに入るように思われるが、第三章にみるように制度的に複雑になっており、国家財政上は物資供給庁および石油公団への補助金交付と同時に、原材料の輸入や生産段階でも補助金が給付されていることに留意せねばならない。

  表1:補助金類型
直接 現金給付
物品支給
間接 暗黙の補助
免税による補助
隠れた補助
為替補助
関税補助
   出所:CAPMAS(2013)より作成
第二章 再分配政策としてのエジプトの補助金制度

1.経緯と政策意図
エジプトの補助金制度の歴史は長い。戦時中の1941年に食糧配給制度が開始されたが、当時は価格統制はなく、専ら食糧難の時代の基礎食料品(砂糖、灯油、食用油、茶等)の確保が政策目的であった。その後この制度は拡大し、エジプト社会に深く根ざしていくことになるが、補助金制度の展開について、CAPMAS(2013)は3つの期間に区分している。

(1)1952年7月革命以降~77年: 拡大と定着
「アラブ社会主義」体制下での間、「国民生活の充足をはかるための安価な物資・サービスの供給は国家の責任である」という認識が定着し、対象品目も大きく拡大した(小麦、砂糖、米、食用油、石鹸、灯油、綿製品)。都市部の公的部門、特に工業部門における安価な賃金を補填するための安価な物資供給という趣旨へと変化していく。さらに対象は都市部低所得者層だけではなく、農村部住民へと拡大していくようになる(長沢1984)。普遍的補助金制度の成立である。 だが、エジプトが大敗を喫した1967年戦争以降、物価は高騰し財政を直撃するようになる。ナセル大統領の突然の死去の後引き継いだサダト大統領は補助金制度を継承し、支出と品目も格段に増加した(前述の品目に加え、ソラ豆、レンズ豆、魚、鶏肉、冷凍肉、電気、交通、ガソリン等18品目)。
(2)1977年食糧暴動とその後の期間: 衝撃と拡大
IMFの補助金削減の提言を受けたサダト大統領の削減の発表に対し、全国的な暴動が発生した。74年から開始されたインフィターフ(門戸開放政策)により国内の格差問題が注目されるようになっていたことが背景にあるとされる。この77年の食糧暴動はその後の補助金制度の展開を考える上で政策決定者に対して決定的な影響を及ぼしており、今も「パンの蜂起」として言及されることが多い。
(3)1981年~2000年代: 「見えない」改革の時代
77年の教訓を踏まえ、明示的な改革は避けた支出抑制施策が取られるようになる。具体的には、パン一枚あたりの量や重さの減少や質の低下、補助金付対象品目の減少、かつ新規の配給券を発行の停止等の対応が続けられた。80年代以降、国際機関による大規模なデータを駆使した研究・政策提言が増えるようになる。この結果、1980/81年に国家予算の14%に相当した食糧補助金支出は、1996/97年度には5.6%にまで減少していた(Ahmed et al, 2001)。2000年代は、2004年以降就任したナズィーフ内閣以降、民間重視の改革路線の流れの中で大幅な補助金制度の変革が求められるようになっていた。
以上のCAPMASの区分にさらに付け加えるならば以下の二区分となろうが、詳細は第三章でみることとする。
(4)2007~08年食糧危機(危機と混乱、拡大と縮小):ムバーラク末期~革命前後 
(5)2014年から現在進行中の大幅な削減の時代(シーシ政権)

2.補助金制度の効果に対する評価
これまでに補助金制度の効果を検証した研究は80年代より幾つもあるが、制度の複雑さと情報開示の制限、制度が対象とする規模の大きさから、こうした研究のほとんどは世界銀行やWFP、国際農業研究所等のように政府データへのアクセスが許された研究チームや国際機関のアドバイザー経験のある研究者等によるものである。支出的には燃料補助金の方が多いが、より国民生活に近い食糧補助金制度に関して、近年の研究に限ると、Korayem(2013)、世銀(2010a)& (2010b)、WFP(2008)&(2005)が挙げられる。いずれも制度の非効率性や普遍主義による資源の無駄の課題を指摘しているが、同時に多くの国民にとっての「生命線」となっていることも確認しており、これは1980年代初頭に現地調査を行った長沢(1984)の考察と一致している。

Korayem(2013)は、2009年にエジプト7県(上エジプトのメニア、アスユート、ソハーグ、下エジプトのシャルキーヤとカフル・シェイフ、リビア国境に近いマルサ・マトルーフ、都市圏としてカイロ)で自身が行った現地調査データを元にした分析を行っている。都市部の補助金付食糧および補助金付パンの配給は比較的効率的(低所得者および中間層が裨益者)であるが、農村部では反対の結果(中高所得者層の住民がより多く裨益している)となったと報告している。

世銀(2010a)は、世帯所得支出消費調査と供給省データを元に2000年代の食糧補助金制度の効果を評価している。結論として、普遍主義(ノン・ターゲティング)と漏えいの2点の改善を提案し、制度の焦点を貧困層にあてるべきとする。補助金効果は品目と所得層によって均一ではないが、2004/05年度と2008/09年度の比較において、特に食糧危機を経た後者において、補助率(実質製造コストより販売価格を差し引いたもの)が大幅に上昇していたことが確認されており、危機の際のセーフティネットとなっていたことがわかる。

同年の他の世銀の研究(2010b)は、補助金付パンの流通・運搬にかかる効率性からの評価である。24県における1,784の製パン所を対象にサンプル調査を実施、地域によってコストに差があることが示された(ケナがコスト高、アレキサンドリアやポート・サイードはコスト安)。沿岸部のコストが低いのは労賃が低いためであろうと推察される(移民労働者の存在)。

WFP(2008)の脆弱性分析は2005年の調査を元にパネルデータ分析を行ったものである。脆弱性はここで「ある世帯が将来貧困に陥るリスク」と定義され、エジプトの脆弱性と貧困の状況が分析されている。この中で、食糧補助金制度は費用とカバレッジ(対象範囲)の面でエジプトの社会保障制度の主要な柱となっていることを確認している。一方で、普遍主義と流通コスト高のために、1米ドル相当の給付を供給する費用が国際比較において極めて高い、としている。従って、ナズィーフ内閣期より議論されていたスマート・カードについては、補助金付物資の配給と消費の両面を政府が把握できるようになるとして高く評価していた。

この他にもWFPが2012年以降定期的に発表してきたFood Monitoring Observatoryや内閣府情報決定支援センターも調査・政策提案を行っている。

今後、最新の世帯調査結果を元にCAPMASが補助金効果の評価を実施予定としており、新制度の中での裨益者特定の参考資料となることが予想される。
第三章 補助金制度改革の現状と課題

(1)「配給部門」と供給国内通商省の役割
食料や燃料の補助金に係る部門はエジプト国内で「配給部門( al-qiṭā’ al-ṭamwīnī )」と呼ばれる。「アラブ社会主義」時代の構造的残滓である 6 。供給国内通商省(ムバーラク政権末期から2011年1月25日革命直後までは「社会連帯省」)とその実施機関である物資供給庁(GASC)が中心的機関であり、関連省庁との連携の下でこの「配給部門」に関わる政策決定および実施運営を行っている(図1参照)。

例えば、補助金付パンの製造に関しては、国際市場からの小麦買い取りにかかる一連の手続き(公示、入札、選定、契約、受取、支払)を物資供給庁が取り仕切り、国内流通面では管轄下の持株会社(食品産業、貯蔵・倉庫)を通じて実施する(土屋2004、Kherallah 2001)。一方、国内小麦の農民からの買い取り価格の設定は農業省との調整によっており、買い取った小麦を流通の次の段階の製粉所に卸すまでの管理委託は農業信用銀行と農業協同組合の協力を得て実施している 7 。配給所で販売する食料品の製造・調達は物資供給庁の管轄下の食品産業持株会社が担当する 8 。家庭用のブタンガスの調達も石油省等との調整により運営されている。エジプトの場合、ブタンガスやパンの不足などの緊急事態になるとどこからともなく軍部が出動して「物資の配給活動」に従事する姿が広く報道される。実態の把握は困難であるが、軍部管理下にある食品メーカーの工場等で配給用の食料品や補助金付パンが製造されているというのもよく知られている。

電力やガソリン、灯油等の価格設定に関しては、電力省や石油省が主体となるが、供給省等も参加する価格設定高等委員会( al-lajna al-‘ulyā li-taḥdīd al-as’ār )の承認および閣議決定を踏まえて決められていると考えられる。また現在進行中の補助金制度改革の要である「スマート・カード」の導入に際しては、行政開発省や情報省、中央統計局(CAPMAS)、実施を担当するIT企業等との連携によっている。

図1: エジプトの補助金制度の実施体制(イメージ図)
図1: エジプトの補助金制度の実施体制(イメージ図)
出所:筆者作成
財政負担・漏えい・腐敗
この「配給部門」は複雑で大掛かりな制度である。外部から窺い知ることは容易ではない。兼ねてより補助金制度に関する情報公開が限られてきていることも関係しているであろう。一方、明らかになっていることとしては、80年代より進められてきた制度改革の模索の中で、政策上の課題(普遍主義的補助金制度:ノン・ターゲティング)と併せて、制度上の課題(非効率性と透明性の欠落)が指摘されてきている。これらの構造的課題から、具体的問題として財政負担と漏えい、腐敗の問題が顕在化してきた。例えば、エジプトは近年世界一位の小麦輸入国でありながら、国内貯蔵システムの不備から多くの小麦を流通過程で腐敗させ廃棄してきている問題を抱えている。また、流通の全ての段階で発生していると批判されてきた汚職の問題も積年の課題である。2014年2月、物資供給庁の幹部が汚職スキャンダルで更迭されるという報道 9 があったが、これは今に始まったことではなく、1月25日革命前から既に食糧補助金制度の流通段階での様々な汚職が国会で取り上げられていた経緯もあった。

既に準備された改革案、実施の政治的意思
2014年2月末、全国的に高まっていたストライキのプレッシャーの中でハーゼム・ベブラーウィ内閣が突如解散し、エジプト大手建設会社の元経営者であったイブラヒーム・メフラブ氏を首相とする新内閣が成立した。この際、供給国内通商大臣として就任したのが当時国内通商庁長官であったハーレド・ハナフィー氏であった(同庁は供給省管轄下の組織)。エジプトの補助金制度の大きな転換は同年6月のシーシ現大統領の就任(とその強い政治決定力)を待つこととなったが、3月の就任早々、ハナフィー供給大臣は「現在のパンの配給制度は失敗である」と明言し、頻繁に配給所を回り改革意欲を全面に示していた 10 。供給省のウェブサイトの情報掲載の頻度や情報の公開度、苦情・問い合わせホットライン(19280)の設置、Facebookサイトの開設と頻繁な情報掲載等に加え、遅れはあるものの月報もウェブサイトに発表し、これまでなかなか公表してこなかったような基礎情報も発表するようになってきており、大きな変化が見受けられる 11 。就任後約1年が過ぎようとしているが国内の特に改革派の間では高い評価を得ていると考えられる 12 。一方で、次節の燃料と食糧補助金の改革にみるように、広報はしているが、値上げ率の中身や貧困層が否定的影響を最も被るという批判もある。

現在の状況は、諸外国では恐らく既に消滅してしまったであろう「配給制度」担当の省庁が、その制度改革を通じて権限を縮小していくかのようにみえて、生き残り戦略にかけている瞬間といえるかもしれない。供給省に具現化されるエジプトの「配給部門」が今後どのような制度に変化していくのか、というテーマはすなわち、「社会的公正」における国家の役割がどのように規定されていくのか、という問題でもある。この点は、最後に考察するとして、次に2014年に実際に進められた政策転換を具体的にみていくこととする。なお、ある政策の評価をするためには、やはり一定の期間の時間的スクリーニングが必要であろう。以下では、新しい政策転換の背景と批判ポイントを整理することに留めたい。

(2) 燃料補助金制度改革
7月初め、エジプト政府は大幅なエネルギー補助金削減を発表した(土屋2014、長沢2015)。燃料費の40~80%、電力で20%の値上げである。この政策内容は革命前の内閣以来準備されてきたものであるが(参考資料2.1および2.2で各品目の値上げ率)、社会的インパクトに照らして、これまで歴代の内閣が実施に踏み切れなかったものである。燃料補助金についてもスマート・カードの導入を段階的に実施し、卸売・小売双方の監視および闇市場の撲滅、市場での取引量の情報把握を行うと予定されている。

財政負担の重さ
背景としての財政負担は大きい。ムバーラク政権期後半ナズィーフ内閣の前半にあたる2004年から2008年にかけては財政赤字も減少傾向にあったが、国際食糧危機の影響を受け、国内政治の不安定化の中で、以降は財政悪化の道を辿る(グラフ1参照)。この傾向は外貨準備高の危機的レベルまでの減少と同胞団政権の失脚時をピークとして乗り越えたかのように見えるが、政治情勢により観光悪化と湾岸支援への依存が続く中で、今もなお困難な舵取りは継続中である。

燃料補助金が国家財政に占める割合は、2002年の9%から2013年の22%へと増加した(グラフ2参照)。同期間の対GDP比でみると3%から7%への増加である。補助金内訳(2012/13年)でみてみると、70%が燃料補助金に充てられており、これは保健医療やインフラ整備への投資等、他全ての項目を合わせた総額よりも大きいことになる(グラフ3&4)。

なお、2013年度の財政赤字は対GDP比で14%、公的債務は100%に達したが、今回の燃料補助金削減により2014年度の財政赤字を10%に低下させようとしている。また今後4~5年間で燃料補助金は全て廃止する方向にあるという 13

IMF「富裕層への補助金」
2015年2月にIMFが発表した2014年4条協議に関するスタッフレポートの予想によると、今後4~5年間で燃料補助金を撤廃するのであれば年間約20%ずつ値上げをしていく必要がある。しかし現在の国際油価を鑑みると、もっと早いスピードで燃料補助金の撤廃を実現できる、とエジプト政府に対して提言したという(IMF2015)。

そもそも、IMFはムバーラク政権末期のナズィーフ内閣期以来、財政負担に加え、「富裕層が燃料補助金の裨益者として偏光し過ぎている」という主張を行ってきている。これに対応する形で、革命後の暫定政権も「燃料補助金の90%は上位20%の所得層に恩恵をもたらしている」という説明を重ねて行ってきた 14 。一方、「社会的公正」とも関連して興味深いのが、燃料価格の値上げに際して、2014年7月5日にメフラブ首相が行った記者会見での発言である。「貧困層の犠牲の上に富裕層に補助金を支出しているとすれば、一体どうやって政府は『社会的公正』を実現できるというのだろう?」。この発言に対して、エジプトのある人権団体が批判を行っている。すなわち、政府は貧困層に配慮しているというが、貧困世帯の平均電力消費量を把握した上での値上げ配慮になっていない、というものである。政府は最も消費の少ない0~50キロワットの月額電力使用量の値上げ率を最小(5→7.5ピアストル)にしていたが、CAPMAS世帯支出調査によれば、実際の平均電力消費量は最貧世帯(下位20%)でも195キロワット(12→14.5~16ピアストル)、下位40%が210キロワット(19→24ピアストル)であり、富裕層のための値上げ率よりも高い、と批判する 15 。このような細かい論点はそれぞれの燃料品目に応じて提出されていると推測される。

貧困層、産業界への影響
燃料補助金削減による否定的な影響を貧困層が受けうる、という点に関連して、世界銀行は「エネルギー/社会保障部門改革への技術支援」というプロジェクトを2013年6月から2016年6月までの予定で実施してきている模様である。「中東・北アフリカ移行基金」から659万米ドル相当のグラントである。アプレイザル文書(世銀2013)によると、プロジェクト目標は、「(1)包括的な燃料補助金改革戦略を企画し、(2)重要エネルギー部門におけるアクターの財政実行可能性が改善するような具体的な手立てを講じ、(3)燃料補助金改革によって最も影響を受けやすい脆弱な世帯を特定することができるような、エジプト政府の能力を強化すること」とある。2014年7月の改革実施がこの世銀のプロジェクトに即したものであったのかどうかについては定かではなく、プロジェクト完了後の評価が待たれるところである。

なお、資料2.1と2.2の各燃料品目に見られるように、産業界への影響もこれまで議論されてきた。補助金付パン製造業のみが燃料値上げ対象から外されたようであるが、各産業別で値上げ率が異なっており、これが果たしてエジプトの産業政策や産業育成の優先順位に沿った形で設定されたのか否かについては情報がない。一方、Ghoneim(2012)が指摘するように、産業界からの抵抗により燃料補助金改革の実施が難航してきた、という経緯があったことも推測される。
グラフ1: 財政収支の推移(2001/02~2013/14)
グラフ1: 財政収支の推移(2001/02~2013/14)
グラフ2: 歳出内訳(2001/02~2013/14)
グラフ2: 歳出内訳(2001/02~2013/14)
グラフ3: 補助金・贈与・社会的給付内内訳(2012/2013年)
グラフ3: 補助金・贈与・社会的給付内内訳(2012/2013年)
グラフ4: 補助金支出内訳(2012/2013年)
グラフ4: 補助金支出内訳(2012/2013年)

(3)食糧補助金制度
食糧補助金は、割合的にみればエネルギー補助金よりも支出面では少ないが、政治的安定ないし権力の正統性を保持するという点からみても国家の戦略的政策ツールとなってきたと考えられる。また先述の通り、社会保障制度ないし社会的保護制度が整備されていない状況下においては、唯一具体的に目に見える政府の施策でもあった。

食糧補助金制度の改革も第二章で確認した通り、長期間にわたって様々な取り組みがなされてきているが、2014年の最も大きな動きは、スマート・カード(新配給券)導入に踏み切ったことであろう(関連省令の資料1参照)。従来使われていた紙の配給券(各世帯毎)と今回導入された電子媒体であるスマート・カードが現時点では併存している。

従来の食糧補助金制度は、(1)配給券を通じて補助金付の安価な食糧品・基礎物資を購入する形、(2)配給券なしで補助金付パン(一枚5ピアストル。ピアストルは現在使われていないため、20枚で1L.E.〔約16円〕)を購入することができる形の2本柱であった。今回補助金付パンの購入にもスマート・カードが導入され、カード保有者は安価な20枚で1L.E.の購入することができ、保有していない者は割高で購入することとなった(サイズや購入場所で異なるが、3枚~4枚で1L.E.の種類と0.5L.E.で1枚という種類のパンも売られている)。これまでカードを持っていない外国人でさえ安価な補助金付パンを購入することができたが、制度上もはや不可能となった。普遍主義から対象者限定へと移行が進んでいる。

スマート・カードの仕組み
スマート・カードはデビット・カードのようなものである。カード保有者は毎月一人当たり15L.E.まで補助金付食料品から好きなものを購入することができる。当初は20品目であった対象品目は後に30品目に増加が図られた(図3参照)。カードは世帯毎に支給されるが、世帯人数分の金額が支給される。もし4人家族である場合、毎月60L.E.の食糧品を購入することができる。購入の情報(カード保有者の氏名、購入場所、時間、購入した品目と量、カードにある残金額)はカードリーダーで記録され、供給省が管理を委託しているスマート・カード会社に転送・データベース化されているという(図2参照)。

新たな補助金制度と「ハックナー(私達の権利)」キャンペーン
未だ制度の移行期であるため、様々な情報が錯綜している。配給券保有資格の条件については、2009年第84号省令により月収1200L.E.ないし年金750L.E.以下の者と規定されていたが、2011年第15号省令により月収1500L.E.ないし年金1200L.E.へと修正された。スマート・カード保有資格条件も設定されているが、2014年8月時点の供給大臣発言として「この配給制度により約7000万人の国民が恩恵を受けることになる」と報道された 16 。CAPMASによるとエジプト人口は2015年3月時点で約8,816万人を超えており、8割以上の国民を想定した新制度となってしまう。旧来の紙の配給券からスマート・カードへの切り替えを促す広報活動が盛んにされている。呼びかけの言葉が「ハックナー(我々の権利)」というもので、スマート・カードの取得・利用方法等が供給省のウェブサイトやFacebook、あるいはTVの広告でも見かけられる。

物価上昇率が年率10%前後と高止まりを続ける中、1人15L.E.(2014年8月時点で約2ドル)という毎月の支給額にも不安を唱える声もある 17 。移行期の現時点での評価は困難であるが、CAPMASが、最新の世帯調査を元に補助金制度についての包括的調査を行うとしており、大規模なデータを元にした評価が今後期待される 18
図2: 補助金付パンの流通経路とスマート・カード
図2: 補助金付パンの流通経路とスマート・カード
出所: CAPMAS(2013)より作成
図3: 補助金付食料品リスト
図3: 補助金付食料品リスト
(供給省ウェブサイトより)
「新補助金制度」(右上:ハックナー(私達の権利))

右側から商品品目、配給所での価格、消費者が実際に支払う金額などが記されている。
定期的に供給省が発行し、各配給所では顧客に見えるように提示するよう決められている。
おわりに

1977年1月、IMFの提言により当時のサダト大統領は補助金削減の宣言をしてエジプト全土が暴徒の波に洗われたという 19 。あれから38年が経った。この事件はこれまでのエジプトの補助金制度改革の教訓となってきたといわれて久しいが、現在のエジプトにおいても国家の役割の再考が迫られている。ナセル・サダト期の父権国家/権威主義体制による補助金制度の肥大の時代から、ムバーラク末期のナズィーフ期の民間部門・貿易投資重視の時代、そして革命を経て、現政権は父権国家的装いとともに、制度的には革命前の路線に戻ろうとしているのかのようにもみえる。

政権の大きな方向性を予測するのは時期尚早であるが、日々の消費に消えていく「消極的な補助金」ではなく、より健康で文化的で人間らしい生活を送るための医療や教育、社会の安定の基盤への「積極的な投資」へと方向転換が迫られているのは事実であろう。その制度の移行期において予想される課題があるとすれば、それは次の二点ではないかと思われる。すなわち、エジプト社会にとって適切に機能するターゲティング手法が構築されかつ合意されるということ。また、社会的保護の対象がまず最貧困層へと向けられていくであろうと仮定して、加藤・岩崎(2013)の指摘するところの「脆弱な(一時的)貧困」の状態に置かれた多くの国民が制度から排除されてしまう可能性もある(新たな社会的排除)ということ、である。

また、そもそもエジプトの補助金制度がここまで拡大してきた理由が低賃金の補填であったという基本的な点に立ち帰ってみると、補助金制度改革は、雇用創出の拡大と配給券がなくても生活できる賃金・雇用体系への改革、教育や医療の社会部門への投資増加と質の向上、より効果的な社会保障制度の拡充といった他の政策パッケージとの連携の下に進めていかなければならないといえる。その前提として必要なのは、確かに現政権が訴えるように「安定と成長」である。と同時に、エジプト社会の多くの人々が「社会的公正」を求めたからこそ革命が起きた、という原点もまた厳然として存在しているのである。

【資料1】新補助金制度に関する主要な供給省令(2014年~2015年)

2014年第178号 5月11日 電力装置の測定器に関する省令
2014年第215号 6月26日 スマート・カードに係る省令(一部のみ):
第1条第3項:
スマート・カードに登録される世帯人数に制限はなく、一人当たり月額15L.E.が支給される。
第1条第4項:
ラマダン期間中は7L.E./人が追加支給される。
第2条第1項:
食品産業持株会社とその管轄下の会社が補助金付商品配給担当となる。
第2条第2項:
他の卸売業者も政府固定価格に基づいて補助金付商品を取り扱うことも可能である。
第3条第1項:
スマート・カード発行会社は、各世帯情報に基づいて算出された金額をカードにチャージし、カード保有者が商品購入時に利用できるようにする。カード読取器の調整ならびに毎月半ばおよび末に食品産業持株会社への支払い金額について物資供給委員会に対する報告義務を有し、手続きを進めるものとする。
第3条第3項:
2014年8月よりスマート・カード使用による売買に対し国民より1L.E.、物資供給委員会より1L.E.がカード管理会社への管理費として支払われる。
2014年第237号 8月1日 2014年第215号の修正(補助金対象品目の価格の修正)
2014年供給省告示 8月18日 各県における新補助金制度について:
  • 製粉所から製パン所が購入する小麦粉価格を自由化。
  • 製パン所が必要とする小麦購入日量に制限を設けない。
  • タバーキー・パンを製造する製パン所についは、バラディ・パンを取り扱う製パン所と同様のルールで新制度に編入される。
  • バラディ・パンの購入はスマート・カード経由(配給券、パン配給券)によるものとする。
  • 一人当たりのパン購入は一日5枚(世帯で一日最大40枚)までとし、ある月に一世帯あたりがパン購入量で節約した分は翌月第一週に他の補助金対象品目と交換することができる。
  • パン一枚の規定重量は100グラム(100キロの小麦粉に対し1160枚のパン製造)。
  • パン一枚の価格は5キルシュ*。
  • 供給国内通商省はパン製造費用の差額を負担する。
  • パン製造の差額費用は製パン所保有者に対して銀行口座経由で毎日送金される。
2014年第301号 10月21日 1987年第483号省令の修正および配給物資を取り扱う業者に対する操業運営に際する諸条件(衛生状況、面積、冷蔵庫装備、納税証明や保険証書等)。
2014年第312号 10月27日 スマート・カード使用の取引および配給物品取扱業者に係る覚書
2014年第340号 12月4日 2014年第215号および第237号の修正(補助金対象品目の価格の修正)
2014年第349号 12月17日 2014年第312号の修正(スマート・カード使用での取引および配給物品取扱業者に係る覚書)
2015年第1号 1月4日 2014年第215号および第237号、第340号の修正(補助金対象品目の価格の修正)
出所:供給国内通商省ウェブサイトより作成 *注:5キルシュ(ピアストル)は0.05L.E.だが、もはや使用されていない単位であるため通常は20枚入りの袋1L.E.で販売される(2015年3月時点公定レート1L.E.=約15.8円)。

【資料2.1】 燃料価格の変化(2014年7月時点:公式レート1米ドル=7.145L.E.)  

旧価格 新価格
乗用車燃料 (L.E./リットル) 乗用車燃料 (L.E./リットル)
ガソリン80 0.9 ガソリン80 1.6
ガソリン92 1.85 ガソリン92 2.6
ガソリン95 5.85 ガソリン95 6.25
灯油 (L.E./リットル) 灯油 (L.E./リットル)
全利用者 1.1 全利用者 1.8
ディーゼル (L.E./リットル) ディーゼル (L.E./リットル)
レンガ・セメント業 1.5 発電・自動車

1.8

その他利用者 1.1 その他利用者
重油 (L.E./トン) 重油 (L.E./トン)
製パン・食品業者 1,000 食品業者 1,400
発電 2,300 発電 2,300
セメント製造 1,500 セメント製造 2,250
レンガ製造 1,500 レンガ製造 1,950
その他利用者 1,500 その他利用者 1,950
天然ガス (米ドル/百万英熱単位) 天然ガス (米ドル/百万英熱単位)
セメント製造 6 セメント製造 8
レンガ製造 6 食品産業・紡績・製薬・工学・レンガ製造 5
鉄鋼・製鉄・アルミニウム・精銅 3 鉄鋼・製鉄・アルミニウム・精銅 7
肥料・石油化学 3 肥料・石油化学 4.5
ガラス・セラミンク等 2.3 ガラス・セラミンク等 7
2 5
発電 1.77 発電 3
製パン所(補助金) 14.1ピアストル/ m 3 製パン所(補助金) 14.1ピアストル/ m 3
住居 20ピアストル/m 3 (0.8米ドル/MM英熱単位) 住居 40ピアストル/ m 3
(消費量25 m 3 以下)
100ピアストル/ m 3
(消費量25 ~50m 3
150ピアストルm 3
(消費量50 m 3 以上)
出所:Global Subsidies Initiative (2014), Energy Subsidy Country Update: Assessing Egypt's Energy Subsidy Reforms", August 2014; The Middle East Library for Economic Services (2014), Set of Decrees Concerning the Increase in the Fuel Prices, August 2014. 注:関係省令は次の通り。重油(2014年第1159号)、ガソリン・灯油(2014年第1160号)、天然ガス(2014年第1162号)

【資料2.2】 電力価格の変化(オフピーク、ピーク時)(2014年7月時点:公式レート1米ドル=7.145L.E.)

〔産業利用〕
超高電圧 旧価格(ピアストル/kWh) 新価格(ピアストル/kWh)
カイロ地下鉄 6.8 14.5
その他利用者 15.4 22.6
中電圧    
ガラス・セラミック製造等 32.7 41.5
低電圧    
灌漑 11.2 17.0
その他 29.0 36.6
公共電灯 47.5 56.6
〔商業利用〕
0-100kWh 27.0 30.0
101-250kWh 41.0 44.0
251-600kWh 53.0 59.0
601-1000kWh 67.0 78.0
1000kWh+ 72.0 83.0
〔住居利用〕
0-50kWh 5.0 7.5
51-200kWh 12.0 14.5
201-350kWh 19.0 16.0
351-650kWh 29.0 34.0
651-1000kWh 53.0 60.0
1000kWh+ 67.0 74.0
出所:GSI (2014); The Middle East Library for Economic Services (2014). 注:産業利用のための電力価格の変化はここでは簡略化し一部のみ掲載。首相令第1257号(2014年7月17日付)は2014/15年度~2018/19年度までの電力価格引き上げの予定を通知している。


【資料3】写真(いずれも2014年10月筆者撮影)

カイロ市内:政府系製パン所。

カイロ市内:政府系製パン所。

スマート・カードを使っている様子

スマート・カードを使っている様子

カイロ市内サイーダ・ゼイナブの街角

カイロ市内サイーダ・ゼイナブの街角

上エジプト・ケナ県のパン配給風景

上エジプト・ケナ県のパン配給風景

参考文献

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  • 牧野久美子(2012)「社会的保護のための現金給付—ラテンアメリカとアフリカにおける実例と今後の課題—」宇佐見耕一編『新興国におけるベーシックインカムをめぐる議論』アジア経済研究所。
  • 町北朋洋(2009)「貧困削減のための制度的イノベーション」『アジ研ワールド・トレンド』2009年8月号、アジア経済研究所。
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  • Ministry of Supply and Commodity (2014), Monthly Report November 2014 (in Arabic).
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  • World Food Program (WFP) & Information Center and Decision Center (IDSC) (2005), “Vulnerability Analysis and Review of Food Subsidy in Egypt”, October 2005, WFP Egypt.

脚 注
  1. エジプト革命については既に多くの著書があるが、ここでは長沢(2012)、伊能・土屋(2012)、鈴木(2013)、加藤・岩崎(2013)を参照。
  2. エジプト社会の文脈における補助金制度を「社会契約(social contract/compact)」の象徴と見なした議論は多くなされているが、一例としてカイロ大学経済学部のGhoneim(2014)等。また「社会契約」についての考察は土屋(2011)を参照。
  3. http://www.doingbusiness.org/reforms/top-reformers-2008
  4. Galal, A (2011), Egypt Post January 2011 An Economic Perspective, Policy Perspective, No. 3, July 3, 2011.
  5. Iris Boutros, Egypt’s veil of ignorance and the social contract, Daily News Egypt, 2013/11/11.
  6. 「アラブ社会主義」についての分析も多くあるが、ここでは清水編(1992)を参照。
  7. 農業信用銀行と農業協同組合の間での役割分担は、前者がショーナと呼ばれる貯蔵倉庫を保有しており、農民達との直接のコンタクトとネットワークを有する農協が農民たちから小麦を買い取り、このショーナに搬入する。農民への買い取り価格での支払いは農業信用銀行を通じて物資供給庁からなされる。2014年10月19日と10月28日の聴取による。
  8. 公式データはないが、軍部系食品工場で生産された安価な食料品も配給所での販売に回されていると考えられる。
  9. Reuters, 2014/02/22. ロイターでは「小麦輸入幹部職員が不正の疑い」と報じられたが
    ( http://www.reuters.com/article/2014/02/22/us-egypt-imports-idUSBREA1L0H120140222 )、国内では「小麦」関係であることを否定する当時のアブーシャーディ供給大臣の発言が報じられていた。
  10. Daily News Egypt, 2014/3/4.
  11. とはいえ、ウェブサイトやメディアを通じた情報公開は確かに進んできているが、制度の移行期にあり、またセンシティブなテーマであるがゆえに、現地調査での情報収集が格段に容易になったかというと決してそうではない。
  12. 2014年10月に筆者が現地調査として元閣僚経験者や大学関係者からの聴取を行ったが、「非常に優秀で改革意欲を持つ人物」というのが全体的な評価であった。なお、国内の世論調査Baseeraが実施した調査によると「2014年の最も良い閣僚」としてメフラブ首相を押しのけてハナフィー供給大臣の名前が挙げられている。また政府系調査機関の発表という点を考慮に入れつつ、「2014年の良い出来事」として「新スエズ運河プロジェクト」と「シーシ大統領の選挙の勝利」に並んで、「補助金付パンの改革」の言及があることは興味深い。
    http://www.baseera.com.eg/pdf_poll_file_en/Best%20Political%20characters%202014-%20En.pdf
  13. 2014年10月19日聴取による。
  14. 2013/9/6, Ahram Online.
  15. 2014/07/24, Egyptian Initiative for Personal Rights, Electricity price hikes are prejudicial to the poor.
  16. Daily News Egypt, 2014/08/25.
  17. 同上。2014年10月の現地調査での筆者の印象では、スマート・カードによる評価は十人十色であった。傾向としては、世帯人数が多い方が満足度が高く、若く世帯人数の少ない方が不満を訴える向きが多かった。人数が少ないと世帯として購入できる品目数も限られてくるからであろうと理解された。
  18. 2014年10月5日、CAPMAS人口センサス部長からの聴取による。
  19. 長沢(1984)および藤田(1977)を参照。