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スリランカの内戦をめぐる中国とインド

政策提言研究

2012年3月
※以下に掲載する文章は、平成23年度政策提言研究「中国・インドの台頭と東アジアの変容」第13回研究会(2012年3月23日開催)における報告内容を要約したものです。


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はじめに
スリランカでは、1983年以来続いていた、北部・東部の独立を求めるタミル・イーラム解放の虎(LTTE)と政府軍の内戦が2009年5月に終結した。途中何度か停戦をはさんだものの、決め手を欠き長期化し、犠牲者の数は7万人あまりに達した。本稿では、内戦下および内戦後のスリランカにおいてインドと中国の果たした役割、関係の変化について分析する。

1.中国の軍事援助の拡大とインド
インドの戦略研究家のチェラニー(Brahma Chellaney)は、「スリランカ政府は、長引く内戦を終結させたくても、戦後の復興にかかる資金的な問題があったので、終結に踏み切れなかった。しかし、中国の軍事援助、復興のための資金援助、国際社会での支持が得られたことからスリランカ政府は一気にLTTEの殲滅に踏み切った。」と論じている("Sri Lankan Bloody Crescendo," DNA newspaper, March 9, 2009)。

もともとスリランカと中国の外交関係は、良好であった。コロンボの中心部に位置するバンダラナイケ国際会議場は中国の援助によるものである。中国系企業の活動は、家電や通信関連などで2000年代始めから始まっていた。2003年8月にはラニル・ウィクレマシンハ首相(当時)が訪中して、2002年に停戦を実現したスリランカへの投資を呼びかけている。国としての中国のプレゼンスが大いに高まったのは、2004年12月のインド洋大津波後の緊急援助からである。中国はいち早くスリランカ沿岸の町に援助を展開し、国名入りのテントがずらりと並んだ。
チェラニーが主張するように、スリランカに対する中国の関与はある時期から急速に増え始めるが、それ以前からスリランカは中国やイスラエルから武器を調達していた。内戦終了のきっかけとなったのは、2007年に始まる中国からの大規模な資金や兵器の流入である。2007年4月に陸軍と海軍の強化のために4億2600万ドルでレーダー探知機や武器弾薬などが提供されている。さらに2007年3月にLTTEの空軍部隊がカトナヤケ空軍基地を空爆し、スリランカ空軍の飛行機10機を破壊したのを受けて、中国はすぐさまスリランカに6機の飛行機などを売り込んだ。取引はマヒンダ・ラージャパクセ大統領の弟のゴータベ・ラージャパクセ国防次官の義理の息子が経営するLanka Logistics & Technologiesを経由したとされている。スリランカは同時にパキスタンからも武器の調達やスリランカ空軍に対する訓練などで支援を受けている。

さらに2008年にはアメリカが、人権状況の悪化に鑑みて、スリランカへの軍事援助を停止したのにあわせるタイミングで、中国はスリランカに対する軍事支援を強化した。

スリランカへの中国の関与が高まるなかで、インドは従来の対スリランカ政策である消極的外交姿勢を改めざるを得なくなった。1980年台後半にインドは、スリランカの民族問題解決のために平和維持軍をスリランカに派遣した。しかし、少数のLTTEゲリラが相手だったにもかかわらず、1200人あまりの犠牲を出し、撤退せざるを得なかった。この撤退はインドにとって屈辱的だった。さらに1991年には、平和維持軍派遣を決めたラディーブ・ガンディー首相(当時)がLTTEの女性自爆テロによって暗殺されたことから、インドはスリランカの民族問題に距離を置き、関与は最小限にとどめるようになった。

積極的な関与は行わないにもかかわらず、中国・パキスタンからの武器購入の増大・軍事訓練の実施に対して、インドのナラヤン国家安全保障アドバイザーは不快感を示した。南アジアの大国を自認するインドにとって、第三国の関与が高まることは不快だったのだ。スリランカは、インド中央政府がタミル・ナードゥ州(タミル人が多く居住し、スリランカのタミル人問題への関心が高い)への配慮を理由にスリランカに対して武器を売らないからだと主張した。
内戦中にインドの軍事援助が全くなかったわけではない。中国やパキスタンがスリランカに軍事援助しているのに対抗するようにインドはスリランカ海軍に援助を行っている。

つまりスリランカは、南アジアでの大国を自認するインドを通り越して、中国とパキスタンに軍事援助を求めることで、インドを刺激し、インドからも援助を引き出している。こうして得た武器や技術を利用し、陸軍、海軍、空軍、警察組織、自警団なども巻き込んだ総力戦でLTTEを殲滅することに成功した。過去の内戦では、スリランカ陸軍が中心となり、海軍や空軍はほとんど参加してこなかった。しかし、内戦末期は海軍と空軍も参加し、LTTEを弱体化させていった。それまで用いられなかった空爆という作戦が加わり、LTTE基地を爆撃した。LTTEの幹部の一人タミルチェルヴァンも空爆で死亡している。その空軍を強化したのが中国であった。インドから援助を受けた海軍はLTTEの武器や人員の海上輸送を阻み、LTTEを弱体化させることに成功している。同時に陸軍の人員拡張・歩兵の強化もなされた。ゴータベ国防次官はインタビューで従来は年間3000人を募集していたが、2009年は毎月3000~5000人を募集していると語った。陸軍は、増強した歩兵を小グループに分けて展開し、昼夜の区別なくLTTEを攻撃した。これも従来にない手法であった。LTTEは、政府軍の装備の増強と戦法の変化に圧倒され、ずるずると後退していった。

2.人権、資金援助
内戦の末期において、東に向けて後退したLTTEはムライティブ沿岸に数十万の民間人を人間の盾にして立てこもった。これに対してスリランカ軍の作戦は、民間人がいると知りながら広範囲にわたる爆撃をした、病院や人道的な活動を行う施設を爆撃した、人道的な援助を拒否した、国内難民などの人権を侵害した、等の重大な人道上の問題や戦争犯罪があったとされている。この点に関しても中国は、国連における地位を利用してスリランカを支援している。国連人権委員会などでの対スリランカ動議を、中国はロシアとともに拒否している。

中国は資金援助においても突出している。IMFなどが経済指標の改善を求めるのに対して、中国はそのような条件を付さないこともスリランカにとって好都合である(ただし、利子率は3~5%以上も高い)。これらの資金援助は、戦後の復興に大いに役立っている。そして、大統領のもう一人の弟のバジル・ラージャパクセが経済開発大臣として開発事業を担当している。

武器の大量調達が始まった2007年の3月に調印された南のハンバントタ港の開発はその象徴である。ハンバントタは、現大統領の出身地に近いこと、スリランカ南部がこれまで開発から取り残されてきたことなどから、スリランカとしては優先度が高い。ハンバントタ港に関する調印がなされた際、インドでも議論になりかけた。しかしインドは、スリランカ東部のトリンコマリー港に石油タンクの利権を保持していることから、結局、中国のハンバントタ港建設に強い関心も反対も示さなかった。

インドが関心を示さなかったもう一つの要因は、ハンバントタ港が経済的にそれほど重要でないと見られたからである。実際に現在、ハンバントタ港の建設と同時にコロンボ港拡張工事も進んでいる。商取引に関しては経済的に発展した西部に位置し、歴史が長く設備も整備されているコロンボ港は重要港湾であり続けるだろう。スリランカのような小国に大きな港がいくつも必要であるはずもない。既に述べたように南部は経済的に取り残されており、インドにとってもスリランカにとってもハンバントタ港の経済的な必要性は薄い。それでもハンバントタ港を建設するのは、南部開発の象徴であり、かつ中国の援助があるからである。

また、北西部のノロッチョライの石炭火力発電所の建設も中国によるものである。水力発電に依存してきたスリランカにとって、天候に左右されない電力供給が可能になるものと期待されている。このほか、中国による劇場や道路の建設が進んでいる。

なぜ、中国がスリランカに対して軍事援助、資金援助を行い、そして国際社会から批難されるスリランカを支援しようとするのか。スリランカには、アフリカ諸国のように、中国を引きつけるような希少な天然資源が豊富にあるわけではない。しかし、スリランカはインド洋上の海洋交通・物流上の要衝にある。シーレーン確保のために中国が太平洋や南シナ海で支払っているコストや労力に比べれば、はるかに格安かつ容易に、中東へのルートを確保できる。本来ならインドが警戒したはずだが、スリランカに対して積極的な政策をとってこなかったために、内戦によって経済的に窮していたスリランカに中国は容易に入り込むことができた。

内戦終結から2年以上が経過した現在、インドもスリランカにおける関与を深めつつある。復興にむけての援助において、北部を中心に5万戸の住宅建設や鉄道建設および文化施設の復興・建設で入り込んでいる。インドの事業やプロジェクトが少なく需要はそれほどないと思われる南部のマータラにも国内第三番目の領事館を開設するなど、インドは中国を強く意識していると言わざるを得ない。

スリランカは確かにインドや中国からの援助によって、長引く内戦に幕を引くことができた。その後の復興に必要な支援も引き続き得ている。国際社会は、戦争末期に発生した人道上の問題や戦争犯罪についてスリランカに説明責任や和解のための具体的方策の提示を求めているが、これについても中国はスリランカを援護している。そのため、内戦後のスリランカは、資金難や国際社会からのプレッシャーに直面することなくインフラ復興に集中することが可能となっている。スリランカは、中国とインドを競わせるようにしてさらに資金や援助を引き出そうとしているようにも見える。