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レポート・出版物

日本型コンビニエンスストア途上国展開と貧困削減

調査研究報告書

佐藤 寛 編

2017年3月発行

表紙 / 目次 (185KB)

第1章

本年度の基礎理論研究会では、今後の「コンビニエンスストアの社会的影響」研究のための基礎となる先行研究調査、概念整理を行った。この過程で明らかになったことは、「日本型コンビニストア」の定義を明確にする必要があるものの、その特質は途上国開発の文脈において意味のあるものに絞りつつ検討する必要がある、という点である。
すなわち、定義を急ぐあまり単なる経営学的な視点から「日本型コンビニ」を定義することは、今後の研究のために得策ではないと考えられる。来年度以降定義を確立していくが、本年度の報告として、以下の三つの点について整理し今後の考察の糧としたい。
第1に、コンビニエンスストア化」という分析視角が、どのような可能性を持っているかを、「マクドナルド化」の議論をベースに行う。
第2に、2014年度(昨年度)に経済産業省が開催したコンビニエンスストアの社会経済的インパクト」研究の成果の概要と、これが今後の我々の研究にもたらす示唆を整理する。
第3に、研究会で招聘した日本のコンビニ研究の専門家で、特にセブンイレブンの経営史に造詣の深い川邉信雄氏の議論と、それが今後の我々の研究にもたらす示唆を整理する。

第2章

第1章でみたように、本書の目的は、アジア諸国における「日本型コンビニエンスストア」の展開について、その地域間比較をおこなうことにある。
セブンイレブン、ファミリーマート、ローソンなどの日系コンビニが、現地社会の既存の流通、小売り、サービス業とどのような軋轢・調整を経ながら「現地化」(土着化)していくのか、このプロセスを明らかにしていくことがここでの大きな主題である。また同時に、日系コンビニと提携して展開する地元資本のコンビニ、あるいは日系コンビニに刺激を受けて誕生するローカルなコンビニ(のような店)も、当該社会にとって重要な意味を持つので、ここで「日本型コンビニ」として考察の対象に含まれる。
しかしながら、こうした日本型コンビニを検討する前に、そのための土台として日系コンビニを中心にみていきたい。5つの調査対象国・地域における詳細な分析は、第3章以降で論じられるが、本章ではまず、これらの全体的な見取り図を整理しておくことにしよう。

第4章
第5章

1990年代半ば、マイクロファイナンスが注目を集め、筆者自身も研究に携わり始めて間もないころのことである。バングラデシュの農村開発に携わるNGOのスタッフが呟いた言葉に衝撃を受けたことを今でも覚えている。「貧しい農村に資本主義経済を持ち込むのか」。この発言の根底には、国際開発学会などで今日も受け継がれている世界観がある。つまりミクロレベルでは、「個人の裁量で収入を得て、その金銭で必要なものやサービスを入手する選択肢を増やす」ことよりも、「共同体における相互扶助や伝統的な暮らしを維持する」とことに価値をおくものである。マクロレベルでは、「グローバルな企業活動はローカルな零細業者や労働者にネガティブな影響をもたらす」という警戒感である。確かに行き過ぎた資本主義がもたらす負の側面への配慮は必要だろう。しかし、この世界観にとらわれすぎると、今日、目の前で起きている途上国での変化、人々の暮らしや意識の変化をありのままに把握する眼力を失ってしまうだろう。
2017年1月にインドネシア・スマトラ島のとある農村を訪ねたとき、現地の若者たちに自分のスマートフォンで一緒にセルフィーを撮ろうと何度も誘われた。BOPビジネスの成功事例と称賛されたシンプルな機能のNOKIAのガラケーを見せたら失笑されたほどである。スマホが持つ「いつ、どこにいても情報を発信したり利用できる機能」が社会にもたらす変化はとてつもなく大きい。所得の限られた途上国の人々も、この機能を手にしたとき、より多様な選択肢の中から低コストで品質の良いものやサービスを入手できる消費者となるのだ。
これまで、国際開発の研究者が関心を持ってきた途上国の人々とは、援助プロジェクトの参加者・受益者や、農業やインフォーマルセクターで生計を得る人々、中小零細企業の経営者や従業員、多国籍企業の工場労働者などであり、「消費者」としての途上国の人々が何を考えて行動しているかという点にはあまり関心が払われてこなかった。しかし、スマホの普及速度に象徴されるように、先進国と途上国の差異は縮まりつつある。「私たちとは全然違う社会に住む彼らに対し、どのような規範で接するべきか」という視点ばかりではなく、「私たちと同じように感じたり望んだりするかもしれない彼ら」という意識をもって、途上国と向き合う必要があるのではないか。
本研究会では、日本で独自の発展を遂げたコンビニが途上国で展開されると、現地社会にどのような影響を与えるのか、あるいは貧困などの社会課題の解決にどう貢献できるのかを研究課題としている。途上国を対象とする開発研究においては、新領域の研究テーマではあるのだが、先進国の社会経済を対象としてきた学問分野では古典的なテーマである。そこで、まず先進国で展開されてきた「消費」に関連する理論や研究方法、アジアの新興市場に関する調査報告などのレビューを行う。次に、2016年12月にジャカルタで行ったコンビニの利用者へのインタビュー調査をもとに、「消費者」としてのインドネシアの人々のコンビニとの付き合い方を分析する。そのうえで、今後の研究の視点を考察したい。


第6章

インドネシアにおける日系コンビニエンス・ストアとCSR / 下田 恭美


第7章
第8章

本章の前半では台湾のコンビニエンスストアの概況をまとめた。台湾ではコンビニエンスストアが1万店を超え、人口あたりの密度は世界一である。
本章の後半では、このように高密度のコンビニエンスストアの店舗網を利用した、新北市政府の「幸せ防衛ステーション」というソーシャルセイフティネットについて検討した。「幸せ防衛ステーション」とは、緊急の事由により食事をとれなくなった児童・少年に対して、コンビニエンスストアが無料の食事を提供するというプログラムである。それはコンビニエンスストアが果たしする社会的役割の可能性を示している。