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レポート・出版物

途上国の障害女性・障害児の貧困削減

調査研究報告書

森 壮也  編

2016年3月発行

第1章
2015-2016年度にアジア経済研究所で実施している「途上国の障害女性・障害児の貧困削減」研究会の中間報告である本報告では、障害女性と障害児の問題に焦点を当てていく。まずなぜ、開発研究の立場から、これらの問題に焦点を当てるのか、これまでの障害者生計調査から得られた識見を貧困という観点から整理する。その上で、障害女性と障害児、それぞれについて既存研究から、問題へのアプローチの際の観点や共有されてきている問題などを概観する。特に、障害女性と障害児は、共に複合的差別を受ける存在であることが基本的な理解となる。それが非障害女性、非障害児とは異なった、大きな格差を彼らにもたらしている構造であると言える。これをどのように計量的に明らかにしていくかが、今後の大きな課題であると言える。最後に全6章からなる本書で取り上げた障害についての国際的な統計枠組み、フィリピン、インドネシア、インドにおける障害・障害児についての概況と統計の状況などについて整理する。障害女性と障害児についての統計は、比較的障害統計が手に入りやすい国であっても多くの問題があることが明らかとなった。しかし、そうした中既存統計でどのようなことができそうかということも徐々に見えつつある。またそれらを補うものとしての独自の調査をフィリピンで行うが、そのために焦点を当てていくべき課題も見えて来た。

第2章
国連総会の決議や開発目標の議論において、障害統計の重要性は繰り返し主張されているものの、各国の整備は遅々として進んでいないことも指摘されている。本章では、はたして障害統計に関する国際規範が形成されつつあるのか明らかにしたい。そのために、(1) 障害統計の整備は義務化されたか、(2) ワシントン・グループ策定の短縮質問紙セットは国際標準となったか、(3) 障害女性・障害児に関する障害統計・指標はどのように設定されているかという問いを立てて論じる。本年度は1年目の作業として、国連における障害統計に関する取り組みの概要ならびに開発アジェンダにおける障害の扱いについて調査し、論点となる課題の抽出を行った。

第3章
フィリピンの障害女性・障害児 (337KB) / 森 壮也・山形 辰史
本章は、2016年春・夏に実施するフィリピンのヴィサヤ地方における障害者調査の予備調査の結果を記したものである。2016年に予定されている本調査は、障害女性と障害児の分析に力点を置く。そのため本章においては、第一に障害女性や障害児についての事実調査を行った。調査の資料としては新聞報道を用いている。第二に2016年フィールド調査の予定地であるヴィサヤ地方の障害者の状況について、主として政府のデータに拠りつつ概況を整理した。全体として、障害女性が一般女性よりも不利を被る可能性が高いこと、都市よりも地方の方が、障害児の教育に困難を来していること等が示唆された。

第4章
本稿では、インドネシアの2010年人口センサスの個票データを用いて、インドネシアの障害者に関する情報をまとめる。インドネシアの人口センサスにおいて障害者に関する情報が集められたのは1980年以来である。先行研究では、基本的に大規模家計調査である社会経済調査に含まれている情報を利用して障害者についての分析がなされてきたため、まず、人口センサスと社会経済調査とで質問票の比較・検討を行い、質問方法の違いにより障害者比率に違いが生じている点などを指摘した。次に、人口センサスを用いた障害女性と障害児(10歳以上15歳未満)に注目した分析からは、(1)年齢が高くなるにつれて女性人口に占める障害者の比率は、どの障害種別でみても、男性よりも高くなる傾向がある(統計的に有意な違いを確認できる)こと、(2)2010年時点において、障害児は非障害児と比較して義務教育課程からドロップアウトしている割合が男女ともにそれぞれ軽度の場合は12%ポイント、重度の場合は59%ポイントほど高くなっていることを確認した。最後に、人口センサス・データからは所得・支出といった厚生水準に関する情報が得られないため、人口センサスと社会経済調査の併用が必要であることを確認した上で、障害があることによる教育水準や厚生水準への影響について、因果関係を考慮して分析する必要性を今後の課題として指摘している。なお、本稿は「途上国の障害女性・障害児の貧困削減」研究会の中間報告書としてまとめられたものである。

第5章
本章は、インドの障害者マクロ統計の問題点、障害女性を取り巻く諸相、そして貧困削減との関連で重要な障害者の労働・雇用について、現地での聞き取りを交えて論じている。国勢調査などのマクロ統計で示される人口に占める障害者比率「2%」という数値は信頼に足るものではない。インドには障害女性の問題に取り組む活動家は少なくないが、障害女性の貧困削減に特化して支援するNGO等の組織は存在しない可能性が高い。また、障害者の雇用はCSRの観点からのものを含め、企業の自主性に委ねるだけでは大きく進展せず、就労による障害女性の貧困削減はきびしい問題に直面している。自営を含めた障害者の就労サポートが不可欠と思われる。

第6章
本章はインドの障害児教育に関する統計、政策、法律、教育現場での状況について現状と課題を整理した。第一に、インドの障害者統計にはセンサスと全国標本調査があり、両調査での障害の定義は異なるものの、いずれの調査でも障害者数が過小評価されている点を指摘した。障害児の教育にしては、非障害者と比較すると、就学率の低さ、就学年齢の遅れ、公立校就学者の多さなどの特徴が明らかになった。第二に、障害児の教育政策については、独立以前から障害者を普通学校で教育することを基本としながら、特別支援学校での教育も認めるという二重のアプローチが掲げられてきたことを概説した。第三に、6歳から14歳までの子供に無償の教育を受ける権利を保証した2009年子供の無償義務教育権利法(RTE法)の改正法(2012年)の障害に関する改正点について解説した。第四に、RTE法が実際の教育現場でどのように実施されているのか、デリーの公立校の例を紹介した。障害児教育の資格を持つ教員の採用が積極的に行われるなどポジティブな変化もみられるが、障害児の非障害児からの隔絶、障害児と教員のコミュニケーションの欠如、障害児を担当しない教員からの障害児教育への理解を得ることの難しさなどの問題も浮かび上がった。