skip to contents.

資源環境政策に関わる法制度・行政組織の形成と運用

調査研究報告書

2015年3月発行
第1章
コール政権期にドイツは《環境先進国》と称されるようになったが、その足跡については、十分に解明されていない。ドイツの環境政策の展開を検討すると、環境主義者ではない保守政治家などが意外な要因から環境政策を推進したケースもあることに気付かされる。そこで、本稿では、環境政策の実体の多面的理解を目指し、コール政権期初期に保守政治家フリードリヒ・ツィママン(Friedrich Zimmermann)によって大気汚染防止政策が推進された理由を考察した。その結果、ツィママンによる大気汚染防止政策の推進は、ツィママンの地元バイエルン州の農林業を酸性雨被害から守るという目的のみならず、石炭火力発電所への環境規制強化を通じたライバル政党の支持基盤の弱体化を狙ったものでもあったことが明らかになった。

第2章
アメリカ合衆国では、1970年12月に、環境保護庁(EPA)が設置され、連邦政府内に分散していた環境関連の諸権限が、一定程度、統合されるに至った。しかし、同国の連邦政府内で、環境をめぐる権限の統合が企図されたのは、EPA設置構想が初めてのことではない。ニューディール期の保全省設置構想や、その流れを汲んだ、戦後の自然資源省設置構想など、振り返ってみれば、いくつもの試みがあった(が、いずれも成功しなかった)。本章では、そうした長期の時間軸(保全省が構想された1930年代から、EPAが設置される1970年まで)の上に、EPAの設置という事象を定位することで、権限の分散・統合に係る「緩慢に推移する過程」を捉えてみたい。そして、そうした長期の制度発展過程において、「保全」や「資源」、それに「健康」に対する、「環境」という理念の後発性が、組織再編アイデアの実現・非実現に影響を及ぼした可能性を指摘する。

第3章
開発と環境の関係に関する政策研究には、決まった方法論がない。それゆえに、各研究者は自分になじみのある方法を用いてきた。本稿では、開発と環境に関する国家・社会関係の分析において「比較歴史分析(comparative historical method)」のもつ有効性について検討し、筆者自身の問題関心である東南アジアの資源・環境行政に関する比較研究に、この方法論を適用する際の可能性と問題点について考察する。具体的にはLange (2013)を素材に、事例内分析、過程追跡など、比較歴史分析の特徴となる方法について紹介しながら、自身の研究課題への適用可能性を検討する。

第4章
本論は、中国の環境汚染に伴う健康被害や健康リスクに関する政策の形成から実施に至る一連の過程(政策過程)を解明していくにあたって求められる視角を検討した。まず第1節及び第2節にて、2015年を目標年として発布された環境と健康に関する2つの政府計画をとりあげ、環境汚染による健康影響に対する政府の取り組みの現状と課題を明らかにした。そして第3節では、中国における環境汚染による健康影響をめぐる政策過程にアプローチしていくにあたって求められる視角について、とりわけ日本の経験を参照軸とする際に留意すべき点について考察した。その中で、日本の対応過程に大きな影響を及ぼした政策決定、社会運動、制度の形成と運用等それぞれの局面について中国が抱える現実と比較対応可能なかたちで洗い出していくこと、日本の「公害」概念に留意しながら中国では健康被害の問題がどのように認識され、また社会的に共有されているのかということを明らかにしていくこと、さらに経済成長がもたらす「発展」の恩恵と不平等の両面に留意し、発展・環境・健康の関係を捉え直していくこと等が重要であり、これらの視点を踏まえて環境汚染による健康被害をめぐる諸問題への政府及び多様な関係主体の対応過程にアプローチしていくことが必要であると指摘した。

第5章
大気は水と並んで不可欠な自然物であり、環境政策の早い段階から対策に取り組まれる。台湾でも、初めての中央政府レベルの環境法として1974年に水汚染防治法が制定された後、1975年に空気汚染防制法が続いて制定されている。台湾の大気保全政策の形成過程を、固定排出源対策を中心に概観する。さらに、1975年の「空氣汚染防制法」の成立過程について検討する。第1節では、第二次世界大戦後の台湾の大気保全政策の形成過程を概観する。第2節では、空気汚染防制法の立法過程の検討の準備として、1975年の立法時の法律に内在した様々な問題点を説明する。第3節では、1975年の立法院での審議の過程でどのような問題が議論されたかを、議事録から再構成し、様々な問題があった法律がどのような経緯で制定されたかを明らかにする。さらに、1974年の水汚染防治法の立法過程との比較を行う。第4節ではまとめと考察を行う。

第6章
「開発と環境」とは、経済開発の過程における環境問題の発生、環境政策の形成、それらの展開を、社会科学的枠組みを用いて分析し、問題点を明らかにし、社会変動と政策対応の方向性を示すための研究分野である。本稿では、「開発と環境」の分析枠組みを検討する準備として、「初期」環境政策の形成過程に関わるいくつかのトピックを取り上げ、若干の考察を試みる。第1節では環境ガバナンス論と環境政策形成過程、第2節では環境政策における参加と社会的合意形成、第3節では「環境」および環境政策に関わる、公共政策としての後発性と、理念としての後発性、第4節では「初期」環境政策の形成過程の重要性について、それぞれ取り上げる。それぞれのトピックは、必ずしも恣意的に選ばれたものではなく、相互に関連づけることによって初期環境政策の形成過程を特徴づけるための材料となりうるものである。本稿では十分に行うことができなかった、そのような相互の関連づけは、今後の課題としたい。

Chapter 7
In 2011, Thailand experienced a massive flood. The Thai government reorganized the organizational structure of water resources management after this flood during 2011–12. The Yingluck administration planned both short-term flood mitigation projects and long-term flood prevention measures to be implemented by the new water resources management organization. However, later on, the structural reformation was criticized by the public, and the entire long-term measures planned in 2012 were scrapped by the Prayud administration after the Coup d’etat in May 2014. This study summarizes the incidents and the reformation process in a chronological order from 2011 to 2014.