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東アジアの社会変動と国家のリスケーリング

調査研究報告書

玉野和志・船津鶴代 編
2014年3月発行
第1章
近年ヨーロッパを中心に国家のリスケーリング論が注目を集めている。国家のリスケーリングとは,従来,国家領域を基本としていた政策や計画などのガバナンスの単位をローカル,リージョナル,グローバルに再編成することを意味する。このような視点はとりわけ東南アジアの資本主義的発展をとらえるうえで有効であると思われる。しかしながら,東南アジア諸国の現実をとらえるためには,リスケーリングの視点だけではなく,まずはそこでの資本主義の独特のあり方からとらえる必要がある。そこで,本稿ではやはり近年注目を集めつつある資本主義の多様性論を検討し,分析のための視点を整理する試みを行った。その結果,(1)資本,(2)労働,(3)教育,(4)競争,(5)国際参入,(6)国家という6つの視点が,東南アジア諸国の特色をとらえるうえで有効であることが,明らかとなった。

第2章
本稿は東京圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)における都市政策や自治体間の広域連携の試みをニール=ブレナーらの提唱する「国家のリスケーリング論」を通して考察する。東京圏をめぐっては1990年代半ば以降の「世界都市」としての東京の地位低下と歩調を合わせるように「再生」をうたういくつもの政策やプロジェクトが展開されてきた。これらは主に東京の都心部に特定の経済機能を集中させ、そのために最適の居住環境や消費環境を整備することを目標としてきた。その一方で東京は拡張を続け、自治体の境を越えた経済圏としての一体性を増してきている。このような都市圏をめぐる最近の政策動向を理解するうえで「リスケーリング論」は有益な示唆を与えてくれる。

第3章
グローバル化、地域統合が世界的に重要になる中で、ヨーロッパにおいて国家のリスケーリング論が社会学などの分野で注目を集めている。本稿では、その代表的研究者の1人であるニール=ブレナーの議論を踏まえた上で、インドネシアの国家の変容をどのように説明できるのかを考えてみる。インドネシアの場合、1967年から98年までのスハルト体制では国家空間が圧倒的に重要であった。それが、1997年のアジア通貨危機とその後の民主化運動でスハルト体制が崩壊すると、グローバル空間とローカルな空間が一気に重要性を持ち始めた。しかし、民主的・分権的政治体制が安定し、経済成長が再び始まると、国家が再分配を目論むようになり、国家空間が重要性を高めつつある。インドネシアは、ブレナーの展開する西ヨーロッパの国家の態様の変化とは大きく異なる経路を示している。

第4章
1997-98年の「アジア経済危機」以後、新自由主義の影響を受けた2000年代以後の東南アジア諸国の国家—社会関係は大きく変容した。なかでも、開発主義時代から40-50年かけて展開されてきた地域開発政策や都市問題への取り組みは、新自由主義原理の影響を反映して、従来の地域間均衡やナショナルな所得底上げを目標に掲げた開発主義時代とは異なる現象が進行している。本章は、東アジアにおける新自由主義的な地域政策・区画に関する先行研究を検討し、従来の変動論と新自由主義の導入がいかに関連づけられているか、それらの研究から要約する。さらに、先行研究を踏まえて、欧米における地域開発政策や都市問題の変化を包括的に捉える枠組である「国家のリスケーリング論」の東南アジアへの適用可能性に着目する。

第5章
環境政策の形成過程で直面する困難に関して,後発国としての特徴を二つの「後発性」という考え方を用いて整理することができる。環境政策の公共政策としての「後発性」と,経済開発の「後発性」である。二つの「後発性」は,それぞれが経済開発過程における環境政策の形成過程に影響を与え,それを後発国の他の公共政策とも,先進国の環境政策とも異なるものとして特徴づける。「開発主義」は,経済開発の「後発性」を克服する手段の一つと考えることができる。本稿では,東アジア,東南アジアの多くの国々の経済開発を特徴づけた「開発主義」が環境政策の形成過程にどのような影響を与えたかを考察する。第1節では政策体系としての「開発主義」について説明し,その環境政策への影響を考察する。第2節では「開発主義」の背景にある経済開発の「後発性」と,環境政策の公共政策としての「後発性」について説明する。以上をふまえて,第3節では環境政策の形成過程が二つの「後発性」と「開発主義」によってどのような影響を受けるかを,第4節では環境政策の形成過程を特徴づける災害,事故,事件の影響について,第5節では環境政策の公共政策としての「後発性」がどのようにもたらされているかを考察する。第6節では,環境政策の国際的な相互作用を説明し,最後にグローバル化によって一国の環境政策が受ける影響を考察する。

第6章
2013年、ブラジルのサンパウロ市で発生した公共交通運賃の値上げに反対する抗議デモが、全国で100万人以上が参加する大規模なものへと拡大した。この抗議デモは、サッカーのW杯開催への反対、教育や保健医療などの改善、政治的な汚職や腐敗の是正、政府機関に関する権限変更案の中止、マイノリティーの人権擁護など、その要求は多種多様であった。政府や議会はさまざまな対策を講じて、抗議デモの沈静化とともにこれらの要求の実現に奔走した。本稿では、このブラジルの抗議デモおよび政府の対策について、グローバリゼーションとの関連から国家の領域的な再構築に着目するリスケーリング論を援用して、その理解を試みる。