「中国農業の経済分析—『農業産業化』による構造転換」研究会調査研究報告書
調査研究報告書
寳劔 久俊 編
2014年3月発行
中国の「小農排除」に関する本稿の暫定的な結論として、途上国における土地所有の格差を前提とした「小農排除」という分析視点は、行政村(あるいは村民小組)内での均等な土地配分を原則とする中国農村の実態に必ずしも即したものではなく、土地面積に関する地域間の格差との錯誤の危険性があると指摘できる。
その一方で、家族構成の変化や土地賃貸市場の発達とともに地域内でも土地経営面積の格差が徐々に進行し、大規模経営農家やアグリビジネス企業への一括した土地貸出も増えてきている。このような近年の現象を踏まえ、地域内の農業経営の変化がどのような要因によって規定されているのか、またアグリビジネス企業がどのような地域(村民小組、行政村、郷鎮)を契約先として選択するかという、より広い意味での「排除」という視点から契約農業を考察することが、今後の中国農村研究に求められていると言える。
第3節では、集団所有資産からの利益分配を目的として導入され、近年農業産業化政策の推進や土地制度の規制緩和といった新しい政策的文脈のなかで広がりをみせる社区(土地)株式合作制に関する先行文献レビューを行い、その制度的特徴、効率性と公平性に関する論点整理を行った。同制度の効率性、利益分配の公平性に関する数少ない実証研究を紹介し、分析手法や制度の評価方法に関する問題点を指摘した。