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インドの経済社会にかんする論点整理

調査研究報告書

佐藤 創 編
2014年3月発行
第1章
本予備的考察では、2007/08年と2012年にデリー・スラム地域で実施した家計調査をもとに無償義務教育に関する子供の権利(RTE)法施行後に5-14歳の子供の学校教育にどのような変化がみられたかを検討した。その結果、就学率の上昇、私立校在籍者の増加、公立校における教育費低下などの変化が明らかになった。一方で、就学年齢の遅れ、経済階層と在籍校の関係の深化、公立校教育での教育費負担、移住者に不利な就学状況など、変化のない側面についても指摘した。

第2章
2013年には、1991年の国際収支危機からおよそ20年を経て、インドでは国際収支問題が再び取りざたされる事態となった。はたして1991年当時にインドが直面していた財政赤字、インフレ、国際収支赤字といった構造的な問題について、経済自由化から20年を経てなお、依然として克服できていないと考えるべきなのだろうか。あるいはそのような問いの立て方自体もはやさほど重要ではないと理解すべきなのだろうか。本稿では、インドがおおむね高い経済成長率を記録していた2000年代を中心に、その対外経済関係にどのような特徴がみられるかを概観し、国際収支問題が再び議論されることにより、どのような論点が呼び起されたかを整理する。

第3章
インドにとって、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の実現は重要な政策目標である。従来、インド政府は公的医療施設を全国に隈なく設置することで、UHCの達成を目指してきた。しかし、今までのところその計画は成功していない。2000年代後半には、政府支援型医療保険制度(GSHIS)と民間医療機関の活用に立脚した新たな政策モデルが導入された。しかし、インドの民間医療システムは必ずしも優良なサービスを提供しているわけではなく、GSHISの契約先である民間病院で、不要な手術等が行われているといった報告もある。このような現実を反映して、第12次5ヵ年計画(2012-2017年分)では政府系医療施設の強化に力点が置かれるようになっている。一見、政策が迷走しているような印象を受けるが、インド社会の複雑さを反映していると考えるべきかもしれない。今後、政府系医療機関の質が大幅に向上するとは考え難く、GSHISに基づいた民間医療機関の活用は続くだろう。UHCを実現させるには、良質な外来診療を低コストで提供する新たなシステムの構築も必要である。インド国民の医療費自己負担の約半分を占める薬剤費に関しては、特許薬を含めた医薬品の価格規制強化が焦点となるだろう。

第4章
本稿ではタミルナードゥ州の女性労働組合(PTS)のオーガナイザーからの聞き取りを用いて、彼女たちの生活(ライフ・ヒストリー)と労働をみるとともに、非組織部門における労働組合の組織化を別の角度から検討した。聞き取りからは労働組合を通じた女性のエンパワメントの過程が示され、また非組織部門の労働組合の組織化における福祉基金の重要性も明らかになった。