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現金給付政策の政治経済学(中間報告)

調査研究報告書

宇佐見耕一・牧野久美子 編
2013年3月発行
この報告書は中間報告書です。最終成果は
宇佐見耕一 ・ 牧野久美子 編『新興諸国の現金給付政策 ——アイディア・言説の視点から—— 』研究双書No.618、2015年3月発行
です。
はじめに pdf (301KB)
第1章
ポーランドの主な現金給付制度としては、低所得世帯に対して生活および社会復帰に関わる支援を行う社会扶助、低所得世帯における子どもの養育を支援する家族手当、および介護を行う家族を支援する介護手当などがある。だがポーランドの場合、いずれの制度も給付の水準が低く、また給付にはさまざまな制約が課されている点で、かつて同じ社会主義体制の元にあった他の中東欧諸国における同様の制度と比べても貧弱なものとなっていて、かつそれゆえに貧困の解消や格差の緩和のためには有効に機能していない状況にある。

第2章
1993年に誕生した金泳三政権は、韓国の先進国化を目指して、1996年までにOECDに加盟するとし、グローバリゼーションに対応するため「世界化」をすると宣言した。このため財閥と呼ばれた大企業は、国内の急激な自由化に対応するため海外から短期資金を借り入れ過剰投資をしていたが、1997年下半期から返済に行き詰まった。この結果、韓国は1997年11月に通貨危機に陥り、韓国政府は11月21日IMFに緊急融資支援を要請した。IMFの支援条件によって、韓国社会は考慮の余地がない新自由主義思想に基づく経済社会制度への大転換に突入した。雇用の面では整理解雇制度が成立し、解雇が容易になった。その結果、失業率が急に高まり、また採用では非正規雇用が増えたのでワーキングプアが増加した。失業者の増加と低所得者の更なる収入の減少は、所得格差を拡大した。失業者および低所得者の救済が誰の目にも緊急の解決課題であった。様々な議論を経て、1999年に最低生活を保障する国民基礎生活保障法が国会を通過し、2000年10月1日に施行された。本稿では、韓国の公的扶助制度の変更を主導したアイデアと言説に注目して国民基礎生活保障法へ至る軌跡を整理して述べる。

第3章
メキシコの貧困削減政策プログレッサ(Progresa、現在はオポルトゥニダデスOportunidadesと名称変更)は、条件付き現金給付政策の嚆矢であり、国際的にも高く評価される実績をあげてきた。それは1997年の開始以来、現政権に至るまで4つの政権に引き継がれた長期プログラムでもある。先行研究では、Progresa-Oportunidadesとして扱われ、理念や内容の継続性を前提として論じられてきた嫌いがあるが、本稿では政権ごとの政策の位置づけ、成果を検討することによって、引き継がれた部分、変化した部分を明らかにした。また貧困削減への貢献だけでなく、ジェンダーや選挙への影響も視座に入れて先行研究を整理して、政策の再考を試みた。

第4章
1990年代半ばに経済の安定化に成功したブラジルでは、普遍主義的な社会保障制度が整備されるなか、選別主義(ターゲティング)的な社会政策として主に条件付の現金給付政策が全国規模で実施されるようになった。そこで本稿では、ブラジルの現金給付政策の概要と実施状況についてまとめるとともに、それら現金給付政策に関する先行研究を紹介する。そして最後に、次年度に援用を予定している政治経済学的な理論枠組みを踏まえ、ブラジルの現金給付や社会政策の策定背景に関する、最終研究成果での問題意識などについて若干の考察を行う。

第5章
ラテンアメリカでは1990年代中頃から、ブラジルやメキシコで条件付現金給付プログラムが開始され、現在域内の多くの国で条件付現金給付プログラムが採用されている。本稿の目的は、第一にラテンアメリカ諸国で行われている現金給付プログラムに関する研究をサーベイすることである。どうプログラムに関する研究動向は、プログラムの効率性やターゲティングに関するものが多く、次にプログラムと政治参加といった政治学やジェンダーといった社会学的アプローチが続いている。第二に、アルゼンチンにおいて行われている現金給付プログラム、条件付現金給付プログラムと従来型の非拠出制年金・手当の内容を紹介することである。

第6章
近年、ラテンアメリカ諸国に続き、アフリカにおいても開発のための現金給付への注目が高まりつつある。アフリカ諸国における現金給付プログラムの多くは、21世紀に入ってから試行されるようになったのに対し、南アフリカとナミビアでは例外的に、社会年金制度が長年にわたって存在し、民主化・独立以降はその他の社会手当も拡充され、発展途上国としては比較的大規模な現金給付プログラムをもつに至っている。本章では、南アフリカとナミビアにおける現金給付プログラムについて、研究動向をレビューするとともに、両国で実施されているプログラムの内容や歴史の概略を示す。

第7章
エチオピアは長年干ばつなどによって飢饉に苦しんできた。そのため、国際食料援助受け入れについても長い歴史をもつ。食料支援の多くを国際機関や外国政府に依存してきたために、エチオピアにおける食料安全保障政策は、国際的な食料支援の変遷とほぼ軌を一にしている。現在エチオピアでは、飢饉に対処するための緊急食料支援だけでなく、より長期的な食料安全保障の確立を目指して、現金・現物給付なども行われるようになってきている。ただし、これらの活動資金も外部資金に依存しているため、エチオピア政府は、貧困層が食料援助から「卒業」し、マイクロクレジットなどを活用して経済的に自立していくことを目指している。