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ラテンアメリカの土地制度とアグリビジネス

調査研究報告書

2013年3月発行
はじめに pdf (252KB)
第1章
アグリビジネスの産業構造は様々な形態をとる。本研究では、その違いを生み出す要因のひとつを「土地所有制度」の違いで説明することを試みた。農業生産はアグリビジネス企業の重要な生産プロセスであるが、その生産要素である土地を所有するかしないか、という問題を「企業の境界」の問題と置き換え、不完備契約論で説明している。同時に、市場規模や制度の発達と企業等による大規模土地所有と関係をクロスセクションデータによって検証した。

第2章
メキシコでは1992 年の憲法第27 条修正で農地所有制度が抜本的に変更され、農地改革部門で耕作権だけが生産者に付与されていた「エヒード」農地の私有化が認められた。この政策変更のねらいは、農地所有権を確定することで不確実性を低減し農業投資を促進するとともに、土地流動性を高めて経営の大規模化につなげ、もって農業生産性の向上を図ろうというものであった。エヒード農地の売買は当初の想定ほど活発化せず、生存水準の小規模エヒードがかなり残存した。他方、賃貸借は相対的に大きく広がり、これによって商業的農業の拡大も同時にみられた。このように「第二種兼業農家」的エヒードとビジネスとして農業を営むエヒードへの二極分化が観察された一方で、前者から後者への漸進的なシフトが起こってきている。農地制度の変更は、こうした現象を必然的にもたらしたわけではないが、少なくともその素地となったということができる。

第3章
コロンビアの農村部における偏った土地の所有状態は、大土地所有者と零細・小規模農民の格差の問題だけではなく、国内武力紛争、麻薬原料作物の代替開発、そして近年のアグロインダストリーの展開など様々な重要課題の背景となっている。土地所有問題を巡っては、農地改革、森林保護、入植と未開墾地の私有化など様々な制度が絡み合って状況が複雑化してきたと考えられる。そこで本稿では、コロンビアの土地所有に関する諸制度の変遷を整理するとともに、その制度のもとで生きるローカル社会の人々の生活を事例として、農民が土地を所有する意味について考察する。

第4章
ブラジルは、世界有数の土地集中度の高い国である。一部の大規模農家に農地が集中している一方で、レアルプランの実施によりインフレ問題が終息して以降は、経済的社会的不平等を解消するために家族農業経営支援が拡充し、小規模農業生産者が増加し、家族農業が担い手として育成されつつある。また、飛躍的な発展を遂げた農業生産を背景に、多国籍アグリビジネスによる食品分野への投資が拡大していたが、世界食料危機前後より海外からの農地買占めの動きも活発になっている。そこで本稿では、ブラジルの土地制度とその変遷を整理し、現存の二重構造の意味を考察することで、今日のブラジルの土地制度の課題を明らかにする。それと同時に、ブラジルの農地をめぐる攻防を示していく。

第5章
チリはラテンアメリカの中でも多様なアグリビジネスの発達で知られる国である。その土地所有制度の特徴は、市場における自由な土地取引が保障されている点にあり、チリでは土地取得にあたって農家・企業の別は問われず、外国資本に対しても特段の規制は設けられていない。そのような現行のチリの土地所有制度は農地改革とその後の軍政下での農地分配政策によって1970年代末までに構築された。本稿ではその成立過程を改めて詳細に整理するとともに、企業的農業の拡大が進むチリの土地所有の現状を明らかにする。