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アジア農村における地域社会の組織形成メカニズム

調査研究報告書

重冨真一・岡本郁子 編
2012年3月発行
序章
農村開発における住民参加とそのための住民組織化の必要性は、繰り返し主張されてきたところである。ところが参加型開発論はプロジェクト企画者や実践者の姿勢や方法を説くばかりで、開発の主役となるべき住民がどのような仕組みでもって自らを組織化するのかを論じていない。本稿では、参加型開発、住民組織に関わる重要な概念、先行研究について検討をおこないながら、地域社会をシステムとして理解することによって、住民組織化の内生メカニズムを捉える方法を考察する。

第1章
中国農村社会における住民の共同、あるいは組織化の可能性については、古くから多くの研究者が様々な議論を展開してきた。近年いわゆる「三農問題」(農業生産性の低迷、農村経済の停滞、農工間格差の拡大)が重要な政策課題となり、農村開発のための受け皿として住民の組織化が政策的に推進されているが、多くの地域で上からの組織化は困難に直面している。住民組織化のための条件を見つけるためには、中国農村社会の特徴を正確に把握したうえで具体的な事例から住民の共同あるいは組織化を可能にするための要素を抽出する作業が必要である。本稿では中国農村社会の特徴を把握するために先行研究を簡単にレビューしたうえで、北京市、山東省、江蘇省の3つの調査地における基層自治組織レベルの組織的活動に関する現地調査に基づき、農村住民の組織化のためのメカニズムを探る。

第2章
ベトナムでは人口稠密地域からフロンティアに開拓移住した人口が600万人にも上り「新経済村」を形成してきた。メコンデルタのカンボジア国境に広がる低湿地に建設された新経済村を取り上げ、その集落レベルにおけるフォーマル・インフォーマルな住民組織がどのような経緯で設立され、運営されているかを考察する。特に、国家によって建設された村落において、自生的な村落とは異なる組織原理が働くとき、地域社会にどのようなインパクトが作用し、また地域社会がどのように受け止めて内実化していくのかを検証する。

第3章
コミュニティによる森林管理事業は、フィリピンの森林政策の重要な柱に位置づけられ、管理主体としての住民の組織が進んでいる。しかし、多くの住民組織は機能不全に陥っているのが実態である。住民組織と地域社会が持つ組織力との齟齬がその根本的原因であるとの仮説を事例に基づいて検証する。

第4章
民族、自然環境、生業など地域により極めて多様なインドネシアでは、全国一律の開発プログラムであっても、その展開状況には様々な地域差が表れる。開発事業の実施という外からの介入に対し、住民がいかなる組織的な行動をとったかを検討することは、その地域の内生的な組織化メカニズムを読み解く糸口となりうる。本稿はそうした視点にたち、2007年より、全国の村々で実施されている「住民エンパワーメント国家プログラム(Program Nasional Pemberdayaan Masyarakat: 略称PNPM)」に注目する。4州(計4村)において実施した現地調査をもとに、PNPMの実施をめぐって住民がとった組織的行動を検討することで、地域社会がもつ組織化メカニズムの特徴を抽出し、類型化を試みる。

第5章
ミャンマーでコミュニティ・フォレストリーが導入されたのは1990年代半ばのことである。政府が明確に住民参加型をうたった初の資源管理制度である。それでは、このプログラムに対して、受け手である農村部の地域社会はいかに組織化をはかり資源を管理、利用したのか。複数地域の事例を詳細に検討にすることによって、ミャンマー地域社会の組織化メカニズムの特色に関する仮説を提示する。

第6章
本研究は、南インド・タミルナードゥ州南部の農村にみられる組織と組織的行動に焦点をあて、農村社会における近年の変化を実証的に明らかにする。まず農村部における地方行政制度を概観し、各レベルにみられる公的・私的な組織を識別して、末端の自然村における住民の集合行為との関連を調べた。その結果、公的な組織であるグラム・パンチャヤートでは、様々な階層の代表が集い民意の反映を通じて政府の開発プロジェクトを導入するが、私的な組織であるカースト・パンチャヤートでは、世襲の長老を含む共同相続団により秩序の維持や祭りの開催が自主財源によって排他的に行われていることがわかった。次に伝統的に行われてきた村祭りと近年の開発政策で導入されたマイクロクレジット(SHG)に着目した。すると、離村により農村社会の構成員が変化する中、旧アウトカースト層の経済的台頭の有無がカースト間の協調行動に変化を及ぼしていることが明らかになった。