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途上国の視点からみた「貿易と環境」問題

調査研究報告書

2012年3月発行
この報告書は中間報告書です。最終成果は
箭内彰子・道田悦代 編『途上国からみた「貿易と環境」 ——新しいシステム構築への模索—— 』研究双書No.610、2014年3月発行
です。
序論
貿易と環境—開発の視点 pdf (550KB) / 箭内彰子・道田悦代
アジア経済研究所における「途上国の視点からみた『貿易と環境』問題」研究会の中間報告として、研究会の目的、研究会が焦点を当てた議論などについて整理した。当研究会の目的は、「貿易と環境」をめぐる国内レベル及び国際レベルの政策・措置が途上国の環境保護や途上国の産業発展にどのような影響を与えているのかを把握し、途上国のおかれる状況や主張について検討を加えることである。研究会の焦点は、(1)「貿易と環境」の議論における途上国の視点を理解すること、(2)貿易の自由化にともなって生じる環境問題に対して、国際、地域、国、民間それぞれのレベルで導入されてきた対策について検討するとともに、さらにこれらが貿易に与える影響について議論を行うこと、である。加えて、WTOにおける「環境と貿易」問題に関する議論を紹介し、途上国の視点や途上国に対する特別待遇について考察した。

第1章
ダーバン会議(COP17)での合意により、2020 年から全ての国に適用される新たな法的枠組みが始動するまで、各国の排出削減策の強度や速度が一層異なる可能性が生じ、国境調整措置など貿易制限的措置によりそれに対応する可能性が拡大している。気候変動問題に対処するための国家間合意の形成は容易でないが、その背景には新興国の経済発展と政治的台頭という制度外生的要因がある。各国が削減水準を自主的に設定することを国際合意(COP 決定)が許容する中で、国境調整措置のWTO 協定適合性が認められるのは相当に限定的な事例と考えられる。他方、拡大する再生可能エネルギー市場をめぐって、補助金を付与する措置が貿易レジームの紛争解決の場に持ち込まれる事例が増えている。今後気候変動対策のさらなる強化がめざされており、貿易レジームの規律との調整が必要である。

第2章
有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約(以下、バーゼル条約)は、1980年代に、先進国から途上国へ有害廃棄物が越境移動され、不法投棄される事件が頻発したことに対応するために、結ばれた国際環境条約である。途上国で発生する環境問題を防止するために、有害廃棄物の貿易を管理・制限することが定められている。本稿では、バーゼル条約の規制内容、その妥当性を発展途上国の有害廃棄物管理能力の向上を踏まえながら検討する。

第3章
世界の天然林の持続可能性確保については、1998年のバーミンガム・サミット以降違法伐採対策を軸に推移してきた。EUは合法性が証明された木材のみを輸入する自発的な二国間協定(FLEGT-VPA)を輸出国と結び、EU域内では合法性が証明された木材のみを持ち込む義務を輸入業者に課す法制度を構築中である。またアメリカもレイシー法により、合法性が確保された木材を輸入する義務を輸入業者に課すようになった。他方輸出国の側でも、かつて違法伐採が極めて深刻であったインドネシアのように、木材の合法性のトレーサビリティを高めるようなシステムを構築しつつある国も出てきた。
しかし、世界の丸太貿易をみると、近年の丸太輸入大国は中国であり、先進国から締めだされた合法性の証明されない丸太が中国に流れ込んでおり、その対策が急がれる。

第4章
近年、EU など先進国を中心として様々な製品環境規制や製品要件の導入が進んでいる。EU 地域、そしてその他の地域の環境保全に資する可能性がある一方で、製品環境規制が遵守されなければ、輸入が制限されるため、貿易への影響が懸念される。特に、途上国では規制遵守のための情報や技術が十分でなく、輸入制限の影響を大きく受ける可能性がある。本論では、規制の事例に化学物質規制を選び、その影響について論じる。特に規制遵守における、サプライチェーンの役割の重要性を指摘する。そして、アジア各国で広がる類似の規制がもたらすインパクトについても概観する。

第5章
本稿では、食品安全の確保をはかりながら途上国が貿易上の発展を遂げるための課題を明らかにすることを中心的な問題意識として、関連する国際的規律(主にSPS協定)の特性、途上国の食品貿易の動向、SPS委員会における過去の「特定の貿易上の関心事項」を中心に検討し、食品の輸出局面で途上国が関わる課題の抽出を試みた。
その結果、SPS措置については、S&D条項を通じた途上国支援に比して、キャパシティ向上支援の重要性が高まるとの暫定的方向性、食品貿易における中所得国とそれ以外の国との二極化の実態、食品の輸出局面における途上国の課題として、輸入国の緊急措置と基準、科学的不確実性(GMO)、民間基準、輸入国の食品安全確保体制、潜在的課題として輸入国のFTA締結に伴う基準の厳格化が考えられることが示唆された。また、これらの課題に対してWTOやコーデックス委員会が行っている途上国支援策の状況や、食品の輸入局面における途上国の課題等について次年度以降に更なる検討が必要であることを指摘している。

第6章
自由貿易を推進する手段として二国間・地域間の地域貿易協定(RTA)が急増しており、「貿易と環境」の議論が複雑化している。多様な環境規定がRTAに盛り込まれるようになり、なかでも先進国-途上国RTAでは、より高度な環境保護水準を達成するために必要な環境政策を講じたり、適切な環境法令を整備することが求められるなど、途上国の負担が増大している。ここでは、まずRTAの状況を概観し、RTAにおける環境条項について整理した上で、アメリカ、日本、カナダが途上国と締結しているRTAの環境条項の特徴を検討する。