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東アジアにおける人の移動の法制度

調査研究報告書

2012年3月発行
この報告書は中間報告書です。最終成果は
山田 美和 編『東アジアにおける移民労働者の法制度 ——送出国と受入国の共通基盤の構築に向けて——』研究双書No.611、2014年3月発行
です。
目次 pdf (113KB)
序章
本研究会『東アジアにおける人の移動の法制度』の目的は、東アジアにおける経済圏の形成において、人の移動、なかんずく労働者の移動にかんする共通の法制度基盤の構築の可能性を模索することである。東アジアの国々における移民労働者にかんする政策や法制度は、送り出し国、受け入れ国として、またその双方として多様である。そして、その多様性のなかに、送り出し国と受け入れ国間の労働者派遣にかんする二国間協定の有効性の問題、公式チャネルと斡旋業者の問題、そこから派生する正規・非正規移民の問題、移民労働に関連する人身取引の問題、高度人材の獲得競争など共通の課題を有する。

第1章
本稿は、中国を移民の送出国と位置づけ、その法制度がどのように構築されているのか明らかにする。特に、さまざまな形式で国外に移動し、労働に従事している自国民の保護に対する中国の法制度の実態と課題を解明する。このうち、本中間報告では、対外労働輸出に焦点を当て、政策と法の発展および実績の推移を紹介した上で、主管部門の変遷、国外就業仲介機構の管理および労働者の保護についての法制度を概観する。
中国の対外労働輸出は経済援助活動から発展し、対外開放政策推進のなかでは外貨獲得手段として、そして現在では海外進出戦略と就業政策のなかで位置づけられるようになった。2008年の政府機構改革によって、それまで労働部門と商務部門の2つが分掌していた対外労働輸出に関する職責は商務部に統一されたものの、それを定める統一的な法律、行政法規、あるいは包括的な政策文書は存在しない。散在する規則、通知は主として対外労働輸出にかかわる業者を管理することを目的にしており、自国民保護に関する法制度の構築が課題となっている。

第2章
本稿は、インドネシア人の国際労働移動を概観し、インドネシア政府の労働者送り出し政策の現状と課題を分析する。インドネシアは9.11テロ以降、自国の労働力輸出産業において、家事・介護労働者などのインフォーマル部門から看護師やIT技師などのフォーマル部門への転換・拡大をはかってきた。だが10年たった現在、その数字は政策意図どおりには伸びていない。インドネシア政府は、2004年の海外労働者派遣・保護法の成立以来、二つの大きな課題を抱えている。ひとつは渡航する自国民の不法就労・逃亡の防止、もうひとつは技能・言語能力の向上である。インドネシア人家事・介護労働者の主な就労先であるマレーシア・シンガポールでは、ミャンマーなど新興送り出し国との競争も始まり、看護師・介護士の派遣も多くの課題を残している。なお、本稿は、『東アジアにおける人の移動の法制度』研究会の中間報告書の一部である。

第3章
本稿は、東アジアにおける人の移動のなかでもフィリピンにおける人の移動の現状に着目する。フィリピンが東アジア最大の労働者送り出し国となった背景には、労働力の輸出がもっとも簡便な外貨獲得の手段であったという国内的事情がある。実際に海外出稼ぎ労働者からの送金額はGDPの約1割に達しており、国内経済活動の下支えとなっている。
日本とフィリピン政府が2006年に締結した経済連携協定は、2008年にフィリピン上院によって批准された。同協定によりフィリピン人看護師および介護士の受け入れへの道が開かれたが、日本語での国家試験の受験が義務づけられるなどフィリピン側にとって障壁は高い。本稿では、東アジアにおけるフィリピンの位置づけを確認し、最大の送り出し国とならざるを得なかった背景に触れた後、1995年移民労働者と在外フィリピン人法に基づき、フィリピンにおける人の移動の法的枠組みを概観する。次に、日比間の人の移動の新たな枠組みとなるJPEPAを検討し、最後にフィリピンの人の移動にかんするさらなる課題を指摘する。なお、本稿は、「東アジアにおける人の移動の法制度」研究会の中間報告書の一部である。

第4章
本稿は、タイの移民労働者受け入れ政策の変遷を追い、現状と課題を分析する。アジアにおいてタイは、労働者の送り出し国でもあり受け入れ国でもあるという立場にあるが、本稿は、その受け入れの政策と法制度に焦点をあてる。1990年代より、隣国のミャンマー、ラオスおよびカンボジアから移民労働者を受け入れてきたタイは、不法に滞在する移民労働者の存在という実態を肯定する形で、移民労働者の登録・労働許可制度をとってきた。それを改めるべく、2006年に開始された、移民労働者に出身国政府による国籍証明を求める手続は、多くの問題を抱えながらも現在も進行している。なお、本稿は、『東アジアにおける人の移動の法制度』研究会の中間報告書の一部である。

第5章
本稿の目的は、ベトナムにおける国際労働移動、特に労働力輸出に関する政策、法制度および実際の労働者送出の仕組みを概観し、その課題を整理、分析することである。労働力輸出に関する法的枠組は、年々、形式、内容ともに充実し、時代により適合したものとなってきた。しかしながら、労働力輸出にまつわる違法行為の横行、人権侵害等の問題については、未だ改善の兆しが見えない。法とその執行との間の懸隔は、労働力輸出分野においても深刻な問題である。本稿ではまた、国際人身売買およびベトナム国内における外国人労働者の就労に関する問題状況や関連する法制度についても触れ、ベトナムにおける国際労働移動にかかる法制度の発展をより包括的に捉えることを試みる。なお、本稿は、「東アジアにおける人の移動の法制度」研究会の中間報告書の一部である。

第6章
カンボジアは経済成長を続けているものの、国内に十分な雇用吸収先を創出できていない。ゆえに、海外に労働者を派遣することは、貧困削減と経済成長のために重要な選択肢のひとつと考えられており、その数は2000年代後半より急増している。このような実態先行のなか、派遣業者を管理する法制度は整い始めたばかりであり、人身取引被害者も多く発生している。本稿では、カンボジア政府の政策文書・法制度や、各国との覚書制定動向をまとめ、カンボジアの労働者派遣制度の現状を紹介する。おもな派遣先であるタイ、マレーシア、韓国への派遣プロセスや課題について記す。
なお、本稿は、「東アジアにおける人の移動の法制度」研究会の中間報告書の一部である。

第7章
本稿では、移民労働者に関するASEANの協力の現状を紹介する。移民労働者にはさまざまな形態があるが、ここでは、熟練労働者と非熟練労働者、人身売買の三つを取りあげる。ASEANでは2015年までに、政治安全保障共同体と経済共同体、社会文化共同体から構成されるASEAN共同体の完成が目指されている。熟練労働者は、経済共同体においてその自由な移動を奨励されている一方、非熟練労働者の移動は、社会文化共同体においてその権利の保護とともに、出入国規制や管理に焦点が置かれている。人身売買による強制労働問題は、政治安全保障共同体において越境犯罪として取り扱われている。本稿では、三つの労働形態に関するASEANの協力がいずれも初期段階にあることを指摘する。なお、本稿は「東アジアにおける人の移動の法制度」研究会の中間報告書の一部である。

第8章
本稿は、韓国と台湾を素材に、アジア諸国における外国人労働者の受け入れのための法的枠組みを比較検討するための枠組みを考察した。韓国では、2004年に導入された雇用許可制の下で東南アジア、中央アジアなどの国から外国人労働者の受け入れを行ってきた。その一方で、中国や中央アジア諸国に居住する外国籍朝鮮族ないし在外同胞も韓国の労働市場において重要な位置づけを占めており、その受け入れ枠組みの整備も進展してきた。他方、台湾は1980年代から外国人労働者の受け入れを制度化してきたが、産業別でみると、かつての主流であった建設・製造業から、看護・家事労働の分野で外国人労働者の受け入れが増えている。