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「アジア域内金融協力」再考:進展と課題

調査研究報告書

2012年3月発行
第1章
日本銀行を含めた東アジア・オセアニア中央銀行および通貨当局11先で構成するEMEAP(The Executives’ Meeting of East Asia-Pacific Central Banks)では、保有外貨資産の一部を拠出して投資信託(アジア・ボンド・ファンド[ABF])を組成し、EMEAP域内(日本、オーストラリア、ニュージーランドを除く8か国・地域)のソブリン・準ソブリン債に投資している。2003年の運用開始時には、その第1段階(ABF1)として投資対象を米ドル建て債券に限定していたが、2005年の第2段階(ABF2)からは、現地通貨建て債券を対象とし、順次他の投資家にも開放してきた。
ABFが設立された背景には、1990年代後半のアジア通貨危機の教訓から、通貨と期間のダブル・ミスマッチの解消や銀行中心の金融仲介と外資依存構造の改善に向けて、自国通貨建てで長期資金を調達できる債券市場育成の必要性が強く認識されたことがある。ABFの運用開始以降、域内債券市場の規模は国債を中心に着実に拡大してきているほか、ダブル・ミスマッチも徐々に緩和してきており、当初期待された債券市場育成の「呼び水」として、相応の効果を上げてきた。
もっとも、国債に比べ社債市場が依然未発達であることや、市場インフラ面での改善余地もまだ残されているなど、課題は?なくない。域内債券市場の発展を引続き促していくうえで、今後ABFのさらなる取り組み強化や、当局と民間の協働による金融協力の推進が望まれる。

第2章
アジア債券市場イニシアティブ(Asian Bond Markets Initiative: ABMI)は、ASEAN加盟国と日本、中国、韓国の計13か国による現地通貨建て域内債券市場育成のための取組みであり、2003年より開始された。これまで、新しい債券商品の開発による多様性の確保、債券保証機関の設立による信用補完をとおして発行体の支援開始、法制度の整備による社債発行市場の活性化といった成果をあげてきている。
一方で、ASEAN諸国の債券市場規模は先進国市場と比して必然的に小さく、市場規模や流動性の向上には域内におけるクロスボーダー取引の円滑化が必要である。しかし、ASEAN債券市場は資本規制や言語などにより細分化されており、調達可能額、流動性、投資先の選択肢といった面で制約があるなど、まだ解決すべき課題は多く残っている。
ABMIは2012年で十周年を迎える。今後は、市場、商品、組織、法制度といった面で、より市場参加者の実務に即した、そしてより目に見える実効的な課題解決と成果が求められるものと考える。

第3章
アジアのクロスボーダー証券投資と市場統合の現状について分析を行う。国際収支統計やIMFの証券投資残高調査を用いて、証券投資の特徴を明らかにする。また、多変量GARCHモデルを用いて、債券・株式収益率の条件付き相関係数を推定し、市場統合の進展を定量的に把握する。さらに、クロスボーダー証券投資を阻害していると考えられる要因について論じ、具体的な促進策を検討するための手掛かりを示す。

第4章
本稿では、リーマン・ショック、そして2011年後半よりの欧州債務危機の深刻化という激動する国際金融情勢を踏まえて、アジア地域の金融協力の意味について、あらためて考える。
二つの先進国発の金融危機の推移と、その中で先進国・IMFのダブル・スタンダードが露わになった。その背景にはIMFのガバナンス構造がある。そこで、欧米の影響力の大きさを投票権配分から分析し、東アジア諸国の課題を示す。また、リーマン・ショック後の政策対応を通じて、世界各国が一斉に通貨安政策を目指すという「通貨戦争」の様相を呈する中で、国際的なマクロ政策協調が必要であると主張する。最後に、欧州系銀行が世界的に資金引き揚げを加速することのリスクを指摘するが、これはアジア諸国にとってはチャンスでもあることを指摘する。

第5章
本章ではインドネシアにおける金融部門の現状と債券市場の発展について考察する。インドネシアの金融部門は実物部門に比べて規模が小さく、その中で銀行部門が大半を占めている。資本市場はアジア通貨危機後の金融部門の再構築によって開発が進んできた。危機以前まで禁止されてきた国債の発行が始まったことにより、債券市場の制度の整備が促進されたといえる。他方、社債については、発行件数はまだ?なく、発行済み社債のうちほとんどが銀行や金融機関によるものである。社債の供給側である企業のバランスシートからは、自己資本を充実させ負債比率を低下させている様子がうかがえる。

第6章
本稿の目的は、2000年以降のマレーシアの債券市場改革とその成果を明らかにすることである。債券市場の改革は、2001年に証券委員会が発表した『資本市場マスタープラン』に沿って進められた。その結果、債券市場にはさまざまな変化が観察された。発行残高は増加傾向にあり、そのGDP比率も2010年には99.7%にまで拡大した。内訳をみると、コンベンショナル債の比率が低下したのに対し、イスラーム債の比率が拡大していた。特に民間企業によるイスラーム債の発行が積極的なことが明らかになった。国債保有者構造については、外国人の割合が拡大した。社債は、金融・不動産・ビジネスサービスや建設業の新発債が増加した。流通市場に関しては、国債の流動性は大きく改善したが社債については課題が残った。マスタープランに基づく改革が2010年に終了すると、翌年に『資本市場マスタープラン2』が発表され、改革を継続する意思が示された。マスタープラン2では成長とガバナンスの2つの柱を掲げ、マレーシアを高所得国へと発展させるために資本市場の役割を強化するとしている。また、国際経済環境の不確実性の高まりからリスク管理および監督の強化に重点が置かれ、ガバナンスに関する改革を行うとしている。

第7章
アジア危機の影響を受けた銀行部門の不良債権処理に約10年を要したフィリピンでは、2000年代以降、企業金融——とくに対実業部門融資と企業の内部資金運用のあり方——に変化が生じた。結果として、より「外部資金に依存しない資金調達」傾向が強化されたと考えられる。
他方、証券市場サイドは、同危機を契機として発足したASEAN+3を中心とする将来の危機対策や債券市場振興枠組みに関して、現地通貨建てアジア開発銀行(ADB)債の発行受け入れや、計画されている域内市場共通化に向けて、国内証券(株式・債券)市場の整備に取り組んでいる段階にある。危機後の改革の一つとしては実現が遅れたものの、2000年代後半には、新たな証券化スキームや個人向け市場性貯蓄商品の導入と多様化を可能にする、資本市場活性化には重要な法制化が行われた。また、証券・債券(国債・社債)市場間または発行・流通市場間の機能的統合を目指す計画が実行に移されている。
2010年に発足した現アキノ政権はその開発計画の柱として、海外労働者送金など国内貯蓄を資本市場に誘引し、官民共同(PPP)による国内インフラ整備を掲げているが、株式・債券市場とも発行体は金融機関や持株会社、不動産業のなかでも限られた企業(グループ)に限定されている。域内金融協力枠組み沿った市場振興には、「市場参加者・投資家であることのメリット」を付与するため、取引コストの低減など、さらなる改革が必要である。

第8章
タイを中心にASEAN4か国の債券市場の現状を、発行体の別に着目しながら吟味することで、アジア債券市場育成の取り組みの到達点と問題点を探る。
最初に、東南アジアではこの10年、製造業輸出に支えられてきた実物経済の成長の中で、企業は自己金融へと回帰していること、国際資本フローがin-outの双方に変化を見せていることを確認する。
その上で、債券の発行体を詳細に検討すると、最近までの債券市場の成長は基本的に公債の発行によるものであり、社債の発行体はインフラ部門と金融部門を中心とする国内企業に大きく偏っている。また、一般に社債に分類されるものの中に国営企業が多く含まれている。全体として実物経済の成長との関係性が低いことがわかった。
債券市場の育成を、取り組み当初の「ダブル・ミスマッチ論」のように、あくまで企業の資金調達問題としてとらえるのであれば、この地域の実物経済の成長と債券ファイナンスの不整合を、真剣に吟味していくべきであろう。

第9章
Vietnam’s financial markets have extended rapidly with an over dependence on credit of the banking sector in the last decade. In order to secure sufficient stable and long-term capital for a sustainable development, the Government has put considerable efforts to develop the capital markets. However, Vietnam capital markets -though growing fast- are still at an early stage of development and facing lots of challenges. This chapter reviews recent developments and challenging issues of Vietnam’s capital markets and then introduces the latest Government’s strategy that includes international financial cooperation with other advanced neighbors for further sound developments of the markets.