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世界的景気後退と開発途上国の政策対応

調査研究報告書

国宗 浩三 編
2011年3月発行
この報告書は中間報告書です。最終成果は
国宗 浩三 編『グローバル金融危機と途上国経済の政策対応』研究双書No.603、2013年1月発行
です。
第1章
第1節 はじめに
第2節 異なる影響と対応のあり方
第3節 グローバル・インバランスを巡る論点
第4節 グローバル・インバランスと投資率の低下
第5節 実質為替レート・交易条件と投資率
第6節 結びにかえて

2008年9月のリーマン・ブラザース破綻に始まった世界的な景気後退は、開発途上国経済にも深刻な影響を与えた。しかし、影響の深刻さや、政策対応については個別国、および地域による違いが大きい。最も深刻な影響を受けた地域は中・東欧およびCIS諸国であり、逆に、アジア地域は、少なくとも成長率で見る限り影響の度合いは比較的小さかった。ただし、同一地域内でも影響の大きさにはばらつきがあり、統一的に見ることはできない。
また、問題の発端となった米国のバブル景気の背景として開発途上国、なかんずく東アジア諸国の貯蓄過剰が取りざたされることがある(グローバル・インバランス)。それによれば、これら諸国の過剰な貯蓄が米国への資本流入となり、これが米国における金余り状況を作り出したとされる。
本稿では、地域間で異なる影響や対応について概観し、次に、グローバル・インバランスを巡る議論を紹介する。また、グローバル・インバランスに関連して、一部諸国における投資率の低迷を交易条件や実質為替レートと関連付けて分析する。

第2章
はじめに
第1節 マクロ金融リンケージと金融危機の波及
第2節 東アジアにおける国際資本フローの変容
第3節 新興市場の金融発展
第4節 東アジアの国内金融システム
第5節 政策インプリケーション
おわりに

本稿では、東アジア新興市場を主たる対象地域として、その国際資本市場とのマクロ金融リンケージ、および国内金融システム発展との相互関係を考察した。
その結果は次の通り:1)外国資本流入の構成はアジア危機前後で大きく変容し、FDI・証券投資とも域内投資が大きな役割を果たしている。2)国内金融システムは外資依存度が低く、金融深化の程度が高いが、民間投資ファイナンスに関する限り、同システムのアジア危機後の回復は実物経済成長と対照的な停滞ぶりである。3)今般のグローバル金融危機がアジア危機型の負の影響をもたらす可能性は小さいが、それは上記の金融リンケージの変容によるものであり、国内金融システムの発展によるものではなく、また、アジア危機後の国内マクロ政策や地域金融協力の枠組がグローバル危機で果たした役割は限定的である。4)今後の政策課題としては、短期的には拡大する市場リスクに対応できる伸縮的なマクロ金融政策レジームを再構築すること、中期的には変容する投資リスクに見合った国内金融システムを模索することである。

第3章
生産の変動と国際貿易 pdf (255KB) / 佐藤 仁志
第1節 はじめに
第2節 論点の整理
第3節 推計
第4節 結果の解釈
第5節 推計の改善とまとめ

今般の世界金融危機は、かつてない規模とスピードの貿易の縮小とそれに続く生産活動の低下を引き起こし、世界各国の経済が実物経済面で非常に密接にリンクしていることを強く印象付けた。生産の変動は、(1) 長期的な経済成長、(2) 足元の経済厚生、(3) 所得格差、などの側面で重要な影響を持つ。これを踏まえて、本稿は貿易や直接投資(あるいは海外アウトソーシング)を通じた企業活動の国際化がマクロ経済の生産変動にどのように関連するかについて準備的な考察を行った。また、その一環として、貿易開放度を中心とする経済の国際化の指標で生産変動の回帰分析を行い、貿易開放度は生産変動と正の相関を持つこと、その影響は途上国に強いことなどを確認した。国際的な資本取引の開放度は有意な結果が得られなかった。しかし、先進国の生産変動については頑健性のある説明変数が見当たらないなどの課題が残った。

第4章
はじめに
第1節 グローバル金融危機への対応策
第2節 金融危機対応策の問題点
第3節 金融危機対応策と過剰貯蓄問題
おわりに

グローバル金融危機後の中国の政策対応は、世界経済の下支え要因になったと評価しうる。しかし、非常時の経済・金融政策運営モードへの転換は過剰流動性をもたらし、本来推進すべきであった国内の構造改革も停滞し、資産価格の高騰や過剰投資などの問題が再燃した。また、中国の対外不均衡の背後にある国内の過剰貯蓄構造の是正も足踏み状態となった。第12次5ヵ年計画で見込まれる過剰貯蓄解消と消費拡大に向けた政策は、グローバル・インバランスの解消という観点からも注目される。

第5章
はじめに
第1節 世界的金融危機の影響からは比較的早期に回復
第2節 インフレの昂進と金融調節の難しさ
第3節 資金仲介の問題
第4節 金利高の影響は二極化
おわりに

インド経済は、世界的金融危機の影響による景気後退からは比較的早期に回復した。まだ景気の自律的回復力が弱いことを踏まえれば、拙速な金利の引き上げは景気を冷やす懸念があるものの、貧困層の生活への影響を重視し、金融当局は金利引き上げに転じた。金利引き上げは、資本流入のペースを加速し、過剰流動性のコントロールを困難にしただけでなく、財務体質の弱い中小企業の財務・資金調達基盤をさらに脆弱なものとするなどの問題にもつながっている。他方、成長資金の仲介という観点からは、銀行資金が財政赤字ファイナンスに拘束される程度は低下したものの、銀行貸し出しのGDP比が低位にとどまるなど、銀行が資金仲介に十分にかかわっていないという問題が残された。インフラ整備への民間投資資金も主に銀行部門によって供給されているため、民間部門によるインフラ投資資金の持続的な調達可能性も不透明である。

第6章
タイ金融部門の近年の変容-ASEAN 内比較の観点から- pdf (296KB) / 三重野 文晴・猪口 真大
第1節 問題意識
第2節 金融部門の2000 年代における変容
第3節 国際資金フローと証券市場の趨勢
第4節 商業銀行部門の構造変化
第5節 まとめ

2000年代のタイの金融部門の変容を、世界金融危機の影響のあらわれ方に焦点をあてつつ概観する。アジア金融危機以降、実物経済では輸出主導で回復が進むなかで、金融面でも大きな変化があった。2000年代半ばまでに国際資金フローでは、資金流入が回復すると同時に、外貨準備の増加によりタイからも海外投資が増加している。証券市場では、その取引量は回復したが、企業の資金調達面からみれば役割は限定的であることに変化はない。商業銀行部門では、回復の過程で成長部門である製造業からの撤退がみられる。これらの傾向は、多かれ少なかれAESAN4 カ国に共通してみられるものである。
2008年第4四半期に発生する世界金融危機の影響は、上のような環境を反映して、輸出の激減を通じたものが大きく、金融のチャンネルを通じたものは極めて小さかった。
タイおよび東南アジアの金融部門の変化の本質を理解するためには、世界金融危機の影響それ自体よりは、それを挟む中期的なスパンで観察していく必要があると考えられる。

第7章
第1節 はじめに
第2節 国際収支構造と実態上の為替レート制度
第3節 最近の金融政策の推移
第4節 金融政策の基本枠組みとその問題点
第5節 まとめ

インドネシアは、アジア危機以後金融政策の枠組みを大きく変更した。為替制度は変動制に、金融政策はインフレターゲット政策に移行したのである。しかし、政策の実態を見てみると、中央銀行は為替市場に恒常的に介入しており、為替制度は再び管理フロート制に回帰しているように見える。この管理フロー制への回帰は、金融政策の有効性に問題を投げかけている。とくに2008年のサブプライムローン問題を乗り越え、経済成長経路への回復を果たしつつあるインドネシアでは、2009年、2010年には巨額のホットマネーが流入し、金融政策の有効性に深刻な影響を与えている。
また、インフレターゲット政策のトランスミッションメカニズムを検討してみたところ、その多くのチャンネルが実態としては十分に機能していないと思われる。とくにインフレターゲット政策のトランスミッションで中心的役割を果たすと想定される金利が投資に与える影響は確認できない。現在のインドネシア金融市場の現状では、金利チャンネルの影響は必ずしも十分に大きくないように見える。また、このほかの為替レートの変動を通じたトランスミッションメカニズムも、実態として変動相場制が十分に機能していない現状では、その効果は期待できない。

第8章
はじめに
第1節 民主化後の金融改革と2つの経済危機
第2節 国内経済構造と国際資本、「経済回復プラン」
第3節 ベニグノ政権と金融・経済改革への見通し
おわりに

フィリピンは、アジア経済危機や世界同時不況に対して積極的な金融・経済政策を採用し、実行できたとは言えないが、その原因には、政治的混乱や赤字基調の財政状況が大きく関与していた。
1980年代半ばの民主化以降、IMF・世銀による構造調整融資の下で自由化政策が採用され、1990年代末のアジア危機対策としても、金融・産業分野では外資や海外直接投資(FDI)の導入による市場・産業振興が企図された。しかし、金融分野では、国内外のインセンティブを喚起するには近隣諸国より相対的に高い投資コストや、海外金融機関の進出・事業拡大への実質的障壁が、直接・間接金融市場の拡大を制限してきた。他方、産業面では、政府が経済発展を持続可能にし、国内労働機会を増加させるような産業構造を策定する経済ビジョンを打ち出せず、国内消費と1990年代中盤に投下された外資系企業主導の半導体関連産業によるASEAN 域内輸出に依存する経済構造を形成するという結果となった。
2009年に世界的景気後退(と災害)への対策資金調達のため債務残高が再び増加した同国では、2010年7月にベニグノ・アキノ政権が発足した。「経済回復プラン」等、前アロヨ政権期の施策に対する評価は実施されておらず、経済・産業に関する具体的政策はまだ不明だが、現時点では、(1)国内外民間資本を導入したインフラ整備(PPP の活用)と、(2)金融市場の強化と資本動員、が明確になっている。金融市場振興については、リーマン・ショックの顕在化以降、顕著な増加を示すようになった海外就労者送金を金融市場へ誘引し、国内市場の投資資金源として活用する意図があると考えられるが、法整備の未完や不動産部門への資金集中の可能性など、整備すべき課題も多い。

第9章
はじめに
第1節 経済成長の動向—高成長から不況へ—
第2節 ラトビアの銀行部門
第3節 ラトビアの政策対応

本稿ではEU 新規加盟の中・東欧諸国のうち、バルト諸国、とりわけ高成長を達成し、2008 年以降は深刻な調整過程にあるラトビア経済に注目し、2000 年以降の同国経済の高成長の背景と現在の危機的状況に陥った要因について、マクロ経済と銀行部門のデータを用いて概観する。また、現在の状況において、ラトビアの政策当局が取るべき政策対応についても考察する。

第10章
第1節 はじめに
第2節 中東欧諸国の銀行部門の展開
第3節 危機の発生と波及
第4節 危機への対応
第5節 小括

西側の銀行が支配的な中で生じた中東欧諸国の危機は、銀行の「母国」への波及をも懸念される中、国際機関と関係各国の比較的迅速な政策対応が採られた。他方、EU の共通の金融市場と固定相場・カレンシー・ボード制、銀行監督と政策対応の協調のあり方との間については新たな分析枠組みが求められよう。